腐食概論:鋼の腐食
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淡水環境の腐食
淡水中の局部腐食
ここでは,【腐食の基礎】の【局部腐食とは】で解説した異種金属接触腐食(bimetallic corrosion, galvanic corrosion)とすき間腐食(crevice corrosion)以外に,淡水環境で観察される材料や環境の不均一が原因の局部腐食(local corrosion)を紹介する。
【材料不均一による局部腐食】
例えば,不適切な溶接を受けた材料の溶接部と母材,ミルスケール鋼板の傷部など材料表面に材質の不均一さがあるときの局部腐食である。腐食の基本原理は異種金属接触腐食と同じである。従って,不均一な部位間に,腐食推進に必要な電位の差が生じた場合であっても,貴な部位(カソード)の面積が大きく,卑な部分(アノード部)の面積が小さい条件が整わないと局部腐食は実用上で問題となるほどまで進行しない。
淡水中の場合に,水溶液の電気抵抗率(electrical resistivity)(逆数は電気伝導率という)が大きいので,腐食電流の及ぶ範囲が限定(離れた個所は絶縁状態とみなされる)され,カソードとなりうる面積が大きくとも,腐食電流の及ぶ実効面積 Bはある量以上には増えないと考えてよい。
従って,局部腐食個所の腐食量増加も限定的となり,海水中など電気抵抗率の小さい電解質水溶液で観察される激しい腐食には至らない。
【環境不均一による局部腐食】
腐食生成物(corrosion product)がこぶ状に堆積した箇所をさびこぶ(tubercle)といい,さびこぶ内外の環境不均一による局部腐食が例として挙げられる。何らかの原因で小さなさびこぶが一旦形成されると,さびこぶの外部と内部に通気差(differential aeration)が発生し,通気差電池(濃淡電池)による局部腐食が進む。
下図に示す模式図のように,さびこぶが存在するとさびこぶ周辺の酸素濃度は高いが,中心部の酸素濃度が低くなり,通気差に起因する電位差が生じ,さびこぶ内部がアノード(anode)に,周辺がカソード(cathode)になる。
淡水中に曝された鋼の一般的な侵食度の範囲は,50~100μm・a-1といわれている。これに対し,さびこぶ下では3倍以上の大きい侵食度になっている。
呼び径 | 肉厚(mm) | 使用年 | 最大侵食度 μm・a-1 |
---|---|---|---|
25 | 3.2 | 14 | 230 |
25 | 3.2 | 10 | 320 |
100 | 4.5 | 15 | 300 |
【参考資料】
1):F. Speller: Corrosion. Causes and Prevention, Mc Graw Hill. 1961
2):松島巖,日本材料学会,腐食防食部門委員会資料,No.94, Vol.19, Part1 (1980)
【参考】
局部腐食(local corrosion)
読み「きょくぶふしょく」,金属表面の腐食が均一でなく,局部的に集中して生じる腐食。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
局部的に集中して起こる腐食。【JIS H 0201「アルミニウム表面処理用語」】
金属種や腐食要因の違いで孔食,すき間腐食,異種金属接触腐食など様々ある。
異種金属接触腐食(bimetallic corrosion, galvanic corrosion)
読み「いしゅきんぞくせっしょくふしょく」,異種金属が直接接続されて,両者間に電池が構成された時に生じる腐食。ガルバニック腐食ともいう。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
電解質を介して電気回路が形成している場合には接触腐食ともいわれる。
マクロ腐食電池(macro-galvanic cell)による電池作用腐食(ガルバニック腐食;galvanic corrosion)の一種ではあるが,一般に,ガルバニック腐食と称した場合には,異種金属接触電池(galvanic cell)による腐食を指すのが通例となっている。
電気抵抗率(electrical resistivity)
物質の電気の通しにくさを表ために用いられる物性値で,単位はΩ・m(オームメートル)である。
絶縁性の高い樹脂などでは,表面を流れる電流の寄与を考慮した表面抵抗率(シート抵抗;sheet resistance)と内部を流れる電流に対する体積抵抗率(volume resistivity)とを区別して扱われる。
電気伝導率(electric conductivity)
溶液がもつ電気抵抗率(Ω・m)の逆数。単位は S/m溶液がもつ抵抗率の逆数で,電極間距離を電極表面積と電気抵抗との積で除した値。SI 単位は S/m(ジーメンス/メートル)。 【JIS K 0213 「分析化学用語((電気化学部門)」】
注記 電気伝導率,電気伝導度及び測定セルのセル定数は,次の式で示す関係にある。
L=J×LX
ここに,L:測定試料の電気伝導率(S/m),J:セル定数( m-1 ),LX:測定した電気伝導度(S)
さびこぶ(tubercle)
鉄鋼の表面に生じるこぶ状の腐食生成物。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
通気差腐食(differential aeration corrosion )
読み「つうきさふしょく」,溶存酸素濃度の差異によって生じた電池による腐食。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
腐食度(corrosion rate)
ある期間に生じた単位面積当たりの腐食量をその期間で除して求められる値。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
この値は,暴露期間中に時々刻々変化する腐食速度(金属の腐食反応速度)とは異なる。また,同じ条件の試験であっても,暴露期間が異なると腐食度も異なる。単位は,単位面積当たり,1年(平均太陽年)当たりのグラム数(g・m-2・a-1)で表わす。
大気暴露試験で得られる腐食度は,暴露開始時期の違い(例えば春開始と秋開始など)の影響も受ける。このため,腐食度で腐食性評価を行う場合には,暴露環境条件に加えて,暴露開始時期,暴露期間(暴露1年目や暴露X-Y年など)などの情報を併記するのが望ましい。
侵食度(penetration rate)
侵食度は,求めた腐食度から単位時間当たりの厚み減少量(μm・a-1)に換算した値で,金属の厚み方向への影響を直感的に理解し易いため広く用いられている。
一般には,腐食度を金属の密度で除して得られる厚みの平均減少量である。腐食度と同様に,暴露期間で値が変わるので注意が必要である。
侵食度は算術平均値であり,全面の均一な腐食の場合は実態と整合するが,局部腐食では的確な評価ができない。従って,不均一な腐食が観察される場合は,侵食度を用いるべきではない。
なお,過去の文献等では,侵食度というべきところを腐食度と記すものも少なくないので,使用する単位で判断する必要がある。
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