腐食概論鋼の腐食

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 大気腐食(実環境因子の影響)

 海塩粒子の発生機構

 参考資料1)によると,海塩粒子(sea-solt particle)は,粒子の質量(核質量ともいう)にして 10-8g(乾いた核の半径 10µm)程度より小さい微粒子として存在する。
 サイズの分布計測によると,核質量の小さいものが多い。大気腐食に影響するのは核質量 10-11g より大きい,いわゆる巨大海塩粒子(giant sea-salt particle)と考えられている。
 巨大海塩粒子は,相対湿度が 75%より高いときは,塩の潮解で溶液滴の状態で存在する。相対湿度 70%から 30%程度までは,過飽和溶液(supersaturated solution),又は乾いた塩粒(海塩核)として存在する。

海水滴の発生機構(模式図)

海水滴の発生機構(模式図)
出典:参考資料 1)


 鳥羽らによると,海塩粒子の発生機構は次のように考えられている。
 海塩粒子として大気中に拡散できるほどの小さな海水滴の多くは,右図に示すように,風波に取り込まれた気泡(bubble)が界面に浮上して破裂することにより生成される。
 従って,多量の海塩粒子は,強風時に海面全体に生成した風波に巻き込まれた気泡により発生すると考えられる。
 
 一方,身近な経験として,海岸の地形に依存する砕波(さいは,breaker)(打ち寄せた波が浅瀬で崩れる現象)よっても多量の海水滴が発生する。
 しかし,この海水滴は,次の【海岸のしぶきについて】で紹介するように,気泡の破裂で発生する海水滴に比較して,径が著しく大きいため,重力により直ちに落下し,その影響は海岸の極近傍(砕波帯と呼ぶ)に限られる。
 
 風波以外に,海面での気泡発生に寄与する要因には,海面に降った雪が融解(melting , fusion)するとき,海面に雨滴が衝突したとき,海水温度の上昇で溶解している気体成分の気化(vaporize)などがある。
 
 気泡が海面に上昇し(図 a,b),破裂した瞬間(図 c),気泡に孔があきドーナツ型の微水滴が数百個吹き上げられる。この水滴の核質量(固体塩になったときの質量)は,10-14~10-15g程度と考えられている。
 気泡の孔が大きくなるとき,水膜の表面張力で急激に横に引かれ,数個の水滴(核質量10-10~10-12g,巨大海塩粒子に相当)が飛び散る(図 d)。
 気泡そのものが崩壊する段階(図 e,f)では,気泡の底が高速で上昇するジェットが発生し,これの分裂で,気泡の 10分の1から 15分の1の直径を持つ水滴(巨大海塩粒子となる)が 4個程度発生する。
 
 【参考資料】
 1)鳥羽良明,田中正昭:“塩害に関する基礎的研究(第一報) 海塩粒子の生成と陸上への輸送モデル”,京大防災研究所年報第10号B,pp.331-342(昭.42.3)
 【参考】
 海塩粒子(sea-salt particle)
 海岸の波打ち際及び/又は海上で波頭が砕けたときに発生する海水ミストが,風で運ばれて飛来した粒子。海塩粒子の大きさは,約 0.01μm~20μm である。【JIS Z 2381「大気暴露試験方法通則」】
 飛来塩分(flying salinity)
 海や塩湖などの自然由来の塩を飛来海塩粒子というが,飛来塩分という場合は,定義が一定していないが,一般には飛来海塩粒子に加え,散布された凍結防止塩,工場などからの人為的な原因で飛来する塩粒子なども含まれる。
 飛来海塩粒子(airborne sea salt particles)
 大気中に含まれるエアロゾル粒子の中の海塩粒子を指す。
 過飽和溶液(supersaturated solution)
 溶解度以上の溶質を含む不安定な状態の溶液をいう。刺激を与えると,過剰の溶質が急激に析出し飽和溶液となる。
 海水(sea watern)
 海洋学で伝統的に用いられている絶対塩分による分類では,淡水(fresh water: 0.5 ‰以下),汽水(brackish water:淡水と塩水の混合 0.5~30 ‰),塩を含んだ水(saline water: 30~50 ‰),塩水(brine: 50 ‰以上の飽和に近い又は飽和塩水)になる。
 一般的な認識では,海水を塩水に分類しがちであるが,学術的には,海水は“塩を含んだ水”に分類される。
 塩分の表示は,1980年代を境に,伝統的な千分比‰(パーミル)で表されていた絶対塩分(absolute salinity , salinity)から記号 psu で表される実用塩分(practical salinity)に変わっている。
 海水などは,複数の塩を含むため,絶対塩分を求めるための分析の煩雑さを回避するため,塩を含む水の特性である電気伝導率(electric conductivity)を基準とした実用塩分の採用が広まった。
 電気伝導率から換算される実用塩分は,絶対塩分表示とほぼ同じ値になるよう工夫されている。例えば,海水の塩分は,絶対塩分で 35‰(パーミル)と表示し,実用塩分で 35 psu 又は単に 35 と表示する。

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