腐食概論:鋼の腐食

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         【濃淡電池腐食】

 濃淡電池腐食(のうたんでんちふしょく,concentration cell corrosion)とは,JIS Z0103「防せい防食用語」の定義では,“金属表面に接触する水溶液中のイオン(ion)や溶存酸素(dissolved oxygen)の濃度が局部的に異なるために生じた電池による腐食。”である。
 濃淡を原因とする電位差で生じた電池(マクロ腐食電池による腐食で,広義の電池作用腐食(ガルバニック腐食;galvanic corrosion)の一種である。
 マクロ腐食電池(macro-galvanic cell)は,マクロセルともいわれ,,JIS Z0103「防せい防食用語」の定義では,“アノードとカソードがはっきりと区別できる程度の大きさをもち,その位置が固定されている腐食電池をいい,異種金属接触電池,通気差電池などがこれに属する。”である。

 マクロ腐食電池の形成に寄与する成分は,当然のことながら腐食反応(corrosion reaction)に関与する成分である。
 例えば,中性水溶液中で,次の腐食反応が起きている場合を例に解説する。
   アノード反応: 2M → 2M2++4e-
   カソード反応: 4e-+O2+2H2O → 4OH-
 この反応では,成分として金属 [M],金属イオン [M2+],酸素 [O2],水 [H2O],水酸化物イオン [OH-]が腐食反応に関与していることになる。
 しかし,[M]及び[H2O]は,腐食反応量に比較して,絶対量が圧倒的に多いので,腐食反応の前後で濃度変化はないと考えて差し支えなく,活量を 1 と置ける。また,[OH-]は,pH 一定の条件では,水の分解により一定値に保たれる。
 
 従って,腐食反応により濃度差が生じた場合のマクロ腐食電池を形成できる成分は,金属イオン([M2+])及び酸素 [O2]となる。
 濃度差が発生したときの電池の起電力 Fは,ネルンストの式(Nernst equation)から,濃度(活動度)の違いが a1> a2 の場合に,次式により一義的に定まる。これにより腐食が進むか否かが判定できる。
   F = Ea1-Ea2 = RT/nF・ln(a1/a2)
   ここで,E:電極電位,R:ガス定数,T:温度,n:価数,F:ファラディー定数。
 このとき,濃い濃度(a1)の部分がカソード,薄い濃度(a2)の部分がアノードになる。
 
 全面腐食の場合は,「均一腐食:表面の揺らぎ」で述べたように,アノードの金属イオン,及びカソードの酸素の濃度変化を受け,濃度差による電位発生に至るが,アノードとカソードが次々と移動するため,局部的な腐食とはならず全面均一な腐食に至る。この場合は,濃淡電池腐食とは言わない。
 
 濃淡電池腐食という場合は,単なる濃度差が生じている場合ではなく,濃淡の場所が固定され,局部的に腐食が進む場合についてのみ用いられる。
 濃淡電池腐食として良く知られた現象に,酸素供給のアンバランスから生じる腐食がある。自然環境では,通気のし易さに起因するため通気差電池(differential aeration cell)ともいわれる。
 具体的には,土質(通気性)の違う土壌を貫通する材料の地層界面での局部的な腐食,接合された材料間にできた大きなすき間部の内部と入口の酸素濃度差による腐食(厳密には,次に解説するすき間腐食(crevice corrosion)とは異なるので用語の使い方は要注意),材料の一部が水没した時の水中部水面直下の酸素濃度差による腐食などがこれにあたる。
 
 金属イオン濃淡電池腐食の例として,水流が部分的に異なり(配管の曲がり角など),流速の違いによる金属イオンの濃度差で局部的な腐食が進む。特にを用いた配管で問題となることがある。鉄はその他の要因の寄与が大きく,金属イオン濃度差の影響は実用上の問題にならない。
 
 これまでの解説で理解されたと思うが,腐食反応に寄与しないその他の成分は,濃度差があっても濃淡腐食電池を形成しない。
 誤解される現象には次のものがある。
 塩濃度の違う水が接触する個所での局部腐食 : 塩(支持電解質)濃度の差で電池が形成されたのではなく,塩濃度の違いで引き起こされた酸素濃度の差(溶存酸素の飽和濃度が塩濃度に影響される)に伴う濃淡電池腐食と考えられる。
 コンクリートとの接触個所 : 単純に電解質や酸素などの濃淡の問題だけではなく,塩基性の高いコンクリートとの接触箇所の pH の違いなどを含めた複雑な状況を考慮する必要がある。

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