腐食概論:鋼の腐食

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            【各種金属の腐食度比較】

 海水環境での耐食性向上を目的に使用される材料に,耐海水鋼,ステンレス鋼,アルミニウム合金,銅合金,チタン合金などの耐食性金属がある。ここでは,それらの金属について,腐食に関わる特徴などを含めて解説する。
 
 【耐海水鋼】
 耐海水鋼(seawater corrosion resisting steel)は,ステンレス鋼,銅合金やチタン合金に比較して,経済的な低合金型溶接構造用鋼板として開発された塩を含む環境でも耐食性(corrosion resistance)に優れた鋼板である。
 耐海水鋼は,P(りん),Si(ケイ素),Cu(銅),Cr(クロム)などの元素を添加した低合金鋼である。耐海水鋼の腐食度は,構造用鋼に比較して概ね半分といわれている。
 公的な鋼材規格がないため,製鋼会社の独自規格に基づいて提案されている。例えば,次のような成分規定(単位は%)がある。
● JFEのMARIN400:C≦0.15,Si≦1.00,Mn≦1.40,P≦0.030,S≦0.020,Cu 0.20~0.60,Ni≦0.50,Cr 0.50~1.50,Mo -,V≦0.10,Al≦0.55
● 住友金属のCA-400R:C≦0.15,Si≦0.55,Mn≦1.20,P 0.070~0.150,S≦0.035,Cu≧0.20,Ni≦0.65,Cr 0.30~0.80,Mo -,V≦0.15

 【ステンレス鋼】
 ステンレス鋼(stainless steels)の定義は,JIS G 0203 において「耐食性を向上させる目的でクロム又はクロムとニッケルを合金させた合金鋼。一般にはクロム含有量が約 11%以上の鋼をいい,主としてその組織によって,マルテンサイト系,フェライト系,オーステナイト系,オーステナイト・フェライト系及び析出硬化系の五つに分類される。」としている。
 国際的には「クロム含有量10.5%以上,炭素含有量1.2%以下の合金鋼」をステンレス鋼とする定義が多い。
 ステンレス鋼は,大気との接触直後に表面に化学的に安定な不動態皮膜(passive film)を形成する合金鋼である。このため,一般的な大気環境や不動態皮膜を破壊する塩化物イオン量の少ない淡水環境では優れた耐食性を示す。
 ステンレス鋼の不動態皮膜は,クロム酸化物層と鉄・クロム水酸化物層で構成される数 nm の非常に薄い皮膜と考えられている。
 表面に形成する不動態皮膜は,塩化物イオンが存在すると,不動態皮膜の破壊と再生の競合反応が起きる。多量の塩化物イオンの存在下では,不動態皮膜の再生が間に合わず,局部的な腐食が始まる。
 海水中のステンレス鋼の腐食形態は,孔食,すき間腐食などの局部腐食(local corrosion)である。この局部腐食に影響する海水側の因子には,溶存酸素濃度,流速,水温及び生物の付着状況がある。
 鋼材側では,耐局部腐食性の改善を目的とした成分評価に,孔食指数(PRE: Pitting Resistance Equivalent)が用いられる。
   PRE = %Cr + 3.3×%Mo + n×%N(nは10~30,研究者により異なる。)
 PRE が大きいものほど塩化物イオンを含む環境での局部腐食性(特に孔食とすき間腐食)が高い。PRE 40を超えるものはスーパーステンレス鋼と呼ばれている。
 海水中の腐食性を抑えた耐海水ステンレス鋼も市販されている。耐海水ステンレス鋼には,高耐食オーステナイト系と高純度フェライト系がある。

 【アルミニウム合金】
 アルミニウム合金(aluminum alloy)は,後述する暴露試験事例を見てもわかるように,鋼に比較して優れた耐食性を示すが,海水のような電気伝導率(electric conductivity)の低い水溶液中では異種金属接触腐食(bimetallic corrosion, galvanic corrosion)を起こしやすいので注意が必要である。

 【チタン】
 チタン(titanium)は,【腐食のし易さ】で解説したように,標準酸化還元電位(standard oxidation-reduction potential)は,アルミニウムと亜鉛の中間に位置し活性な金属と分類される。しかし,海水中の自然電位(natural electric potential , spontaneous potential)ではニッケルと銀の間に位置し,著しく活性の低い金属と分類される。加えて,常温の海水中では高い孔食電位(pitting potential)を示す。すなわち,常温の海水中では孔食やすき間腐食が発生しないことを意味する。
 このように,チタンは海水環境で極めて優れた耐食性を示す金属であるが,経済性の理由で適用範囲が限定されているのが現状である。

 【参考】
 不動態(passive state)
 これまでの文献等では,用語として不働態を用いていたが,現在は,JIS 用語を含め,不動態を用いる例が多い。
 標準電位列で卑な金属であるにもかかわらず,電気化学的に貴な金属であるような挙動を示す状態。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
 本来,ひ(卑)である電極電位を示し,不安定であるべき金属があたかも貴である金属のように振る舞う状態。この状態では,電極電位も貴の値を示す場合が多い。【JIS H 0201「アルミニウム表面処理用語」】
 一般的には,金属をとり囲む環境の影響で,電気化学列で卑な金属(腐食しやすい金属)が,表面を酸化物で覆われるなどして本来の活性を失い,貴な金属のように挙動する状態を不動態といい,この状態になることを不動態化(passivity)と理解されている。
 不動態化は,酸化力のある酸にさらされた場合,陽極酸化処理によっても生じる。不動態となる酸化被膜(不動態被膜)の典型的な厚みは,数 nm である。
 すべての金属が不動態となるわけではなく,不動態になりやすいのは,アルミニウム,クロム,チタンなどやその合金である。
 局部腐食(local corrosion)
 読み「きょくぶふしょく」,金属表面の腐食が均一でなく,局部的に集中して生じる腐食。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
 局部的に集中して起こる腐食。【JIS H 0201「アルミニウム表面処理用語」】
 金属種や腐食要因の違いで孔食,すき間腐食,異種金属接触腐食など様々ある。
 異種金属接触腐食(bimetallic corrosion, galvanic corrosion)
 異種金属が直接接続されて,両者間に電池が構成された時に生じる腐食。ガルバニック腐食ともいう。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
 マクロ腐食電池(macro-galvanic cell)による腐食一種であるが,ガルバニック腐食(galvanic corrosion)という場合には,異種金属接触電池(galvanic cell)による腐食を指すのが一般的である。なお,電解質を介して電気回路が形成し腐食する場合を接触腐食ともいわれる。
 孔食(pitting corrosion)
 読み「こうしょく」,金属内部に向かって孔状に進行する局部腐食。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
 局部腐食が金属内部に向かって孔状に進行する腐食。【JIS H 0201「アルミニウム表面処理用語」】
 孔食電位(pitting potential)
 ある不働態化した金属材料に孔食が発生する臨界の電位(臨界孔食電位)よりも貴な電位域をいい,この電位では対象材料に孔食の発生ならびに進展が生じる。
 孔食性を評価するため,中性3.5%塩化ナトリウム水溶液における動電位法による孔食電位を求める孔食電位測定(pitting potential measurement)は,ステンレス鋼の電気化学的な孔食試験として用いられる。【JIS G 0202「鉄鋼用語(試験)」】
 標準酸化還元電位(standard redox potential ,standard oxidation-reduction potential)
 反応に関与する全ての化学種の活量が 1で,平衡状態にある時の熱力学的に求まる理論値である。
ギブズエネルギー変化⊿rG0 に対応する電位 E0 と定義される。
  rG0 = - zFE0
  ここで,z :酸化還元反応で授受される電子数,F :ファラデー定数( 96,485 C mol-1
一般的には,標準電極電位(standard electrode potential),標準電位(standard potential),標準還元電位(standard reduction potential)とも呼ばれる。
 標準電位列(electromotive force series)とは,金属の標準電極電位を,その大きさの順位並べ,金属のイオン化傾向及び一部の非金属元素の電気化学的酸化反応傾向の大きさの順を示した列。電気化学列ともいう。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
 自然電位(natural electric potential , spontaneous potential)
 実用を想定した環境におい計測された電極電位をいう。例えば,海水環境では,海水を電解質溶液として,参照電極と対象金属との開回路(電流が流れない)状態で計測された電位差(開回路電位)から求められる。

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