腐食概論鋼の腐食

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 ここでは,実際の大気環境に長期間晒された鋼の腐食を理解するため, 大気の腐食性の推定方法として,【日本初の環境因子を考慮した腐食回帰式】, 【陸防研が用いた環境因子計測法】, 【現行の腐食性評価】 を紹介する。

 大気腐食(実環境因子の影響)

 大気の腐食性評価(日本初の環境因子を考慮した腐食回帰式)

 陸防研では1960年から全国 7地域に 30種の材料の長期暴露試験を開始した。この暴露試験結果の解析を踏まえて,環境因子と金属腐食の相関を検討し,1973年には,参考資料 1) 9つの腐食回帰式を提案している。
 当時の日本は,高度成長期にあたり,大気汚染が深刻になりつつある時代である。暴露試験結果は,当時の環境因子を反映しているので,今日に当てはまるかは疑問であるが,参考となるので紹介する。
 なお,陸防研とは,環境因子と金属腐食,塗膜劣化との関連について検討することを目的に,日本鋼管,石川播磨重工業,大日本塗料の3社が 1960年に組織した共同研究組織(陸上鉄骨構造物腐食研究会)のことである。
 
 報告書では,環境別の鉄鋼腐食度予測に資する 9つの腐食回帰式の中から,次の式を推奨している。
 式 2)
  腐食度(mdd)=4.15+0.88×気温(℃)-0.073×相対湿度(RH%)-0.032×月間降水量(mm)+2.913×海塩粒子+4.921×二酸化硫黄飛来量
 一般的腐食環境(腐食度 10mdd,侵食度約 50μm・a-1以下),又は過酷な腐食環境(工場地帯などで腐食度 30mdd,侵食度約 150μm・a-1程度)の場合は式 2)での鋼腐食予測に推奨される。
 
 式 5)
  腐食度(mdd)= 5.61+2.754×海塩粒子+6.155×二酸化硫黄飛来量
 この式は,海塩粒子の寄与が大きい中程度の腐食環境(海岸地区などで腐食度 15mdd=548g・m-2・a-1,侵食度約 70μm・a-1以下)の場合は,式 5)での鋼腐食予測を推奨している。

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 大気の腐食性評価(陸防研が用いた環境因子計測法)

 陸防研の腐食回帰式では,鋼腐食に影響する環境因子(environmental factor)として,気温,湿度,降水,海塩粒子,二酸化硫黄を用いている。これらは,後に解説する今日の腐食性予測で取り上げられる因子でもある。
 陸防研における一連の検討に採用した環境因子の計測方法は,現行のJIS Z 2382「大気環境の腐食性を評価するための環境汚染因子の測定」で採用する方法と概略で同様の方法が用いられている。
 
 二酸化硫黄飛来量
 過酸化鉛(二酸化鉛)を塗り付けた素焼きの円筒を百葉箱入れ,月はじめに設置し月末回収後に,二酸化鉛に吸着・反応した硫黄量を分析し,二酸化硫黄量に換算する。この値から 1 年間の平均値を求め二酸化硫黄飛来量(mgSO2・dm-2・day-1)とする。

 海塩粒子(sea-salt particle)
 JIS ドライガーゼ法(dry guaze method)と同じ,10cm×10cmの窓を持つ木枠にガーゼを取り付けた補修器具を用いている。しかし,補修器具を百葉箱内に設置しているため,風通しや飛来粒子の捕集率で問題がある。JIS 等の現行の方法は,降雨の影響を受けないように屋根をかけるが,側面を開放しているのが多い。
 補修器具は,月はじめに取り付け,月末に回収し,ガーゼに付着する塩化物イオン量を分析し,塩化ナトリウムとして海塩粒子を計算するのが通例であるが,参考資料 1)を含め,陸防研の報告書では,測定値の単位が mg/100cm2 や ppm が用いられやや混乱している。採用されている数値からは年間の平均海塩粒子量 mgNaCl・dm-2・day-1 と想定される。
 また,JIS法では,捕集器の表面積をガーゼ両面の面積,すなわち 2dm2で計算しているが,陸防研の報告書には採取面積の扱いに関する記載が見られず,ガーゼ片面への付着量か両面への付着量かが判然としていない。

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 大気の腐食性評価(現行の腐食性評価)

 最近では,耐候性鋼の裸仕様での適用可能性を検討するため,架設予定環境における腐食予測に関する検討が進められている。このなかで,参考資料 2) 等などと同様に環境因子及び鋼材成分から腐食量を予測する式が種々提案されている。
 今日広く用いられている推定式の多くは,陸防研提案の指数関数式を基本にして改良されたものが殆どである。例えば,
   Y=A・XB,又は Y=ASMA・XBSMA
  ここに,Y:腐食量(mm),又は累積腐食減耗量(mm),X:使用期間(年)
      A 又は ASMA:局部環境腐食性指標
      B 又は BSMA:定数(逆数を保護性錆形成効果指標という)。


 式において, A は大気環境の腐食性を定量的に示す指標で,土木分野では局部環境腐食性指標などの呼称が付けられている。 B の逆数は錆の保護性により腐食速度が経時的に低減してゆく度合いを示す指標になりうるので,土木分野では保護性錆形成効果指標と呼称されている。
 参考資料 2)には,鋼材使用個所の環境因子として,飛来塩分量(mgNaCl・dm-2・day-1),硫黄酸化物量(mgSO2・dm-2・day-1),年平均相対湿度(%RH),年平均風速(m/s)および年平均気温(K)を用いて A を求め,さらに A B との鋼材成分別の相関関係に基づき B を求め,耐候性鋼の腐食量を予測する方法が提示されている。
 飛来塩分(flying salinity)とは,定義が一定していないが,一般には飛来海塩粒子に加え,散布された凍結防止塩,工場などからの人為的な原因で飛来する塩粒子なども含まれる。

 【参考資料】
 1)陸上鉄骨構造物防食研究会:“各種金属材料および防錆被覆の大気腐食に関する研究(第9報) 大気腐食量の実測値と計算値の考察”,防食技術, Vol.22, No.3, pp.106-113(1973)
 2)(社)日本鋼構造協会:“耐候性鋼橋梁の可能性と新しい技術”,テクニカルレポートNo.73(2006)

 【参考】
 腐食度(corrosion rate)
 ある期間に生じた単位面積当たりの腐食量をその期間で除して求められる値。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
 この値は,暴露期間中に時々刻々変化する腐食速度(金属の腐食反応速度)とは異なる。また,同じ条件の試験であっても,暴露期間が異なると腐食度も異なる。単位は,単位面積当たり,1年(平均太陽年)当たりのグラム数(g・m-2・a-1)で表わす。
 大気暴露試験で得られる腐食度は,暴露開始時期の違い(例えば春開始と秋開始など)の影響も受ける。このため,腐食度で腐食性評価を行う場合には,暴露環境条件に加えて,暴露開始時期,暴露期間(暴露1年目や暴露X-Y年など)などの情報を併記するのが望ましい。
 環境因子(environmental factor)
 一般的には,生物の生存,生活に影響する環境の条件をいう。腐食工学では,鋼などの金属の腐食に影響する環境条件(environmental conditions)をいう。例えば,大気腐食(屋外)では,気温,湿度,降水,海塩粒子,二酸化硫黄などが環境因子として取り上げられる。
 JIS Z 2381 「大気暴露試験方法通則:General requirements for atmospheric exposure test」では,環境因子を“暴露試験場における気象因子及び大気汚染因子の総称。”,気象因子を“気象観測の対象となる気温,湿度,太陽放射エネルギー量,降水量,風向,風速などの因子。”,大気汚染因子を“人為的・自然的に発生する硫黄酸化物,窒素酸化物,硫化水素,海塩粒子などの暴露試験に影響を及ぼす因子。”と定義している。
 飛来塩分(flying salinity)
 海や塩湖などの自然由来の塩を飛来海塩粒子というが,飛来塩分という場合は,定義が一定していないが,一般には飛来海塩粒子に加え,散布された凍結防止塩,工場などからの人為的な原因で飛来する塩粒子なども含まれる
 海塩粒子(sea-salt particle)
 海岸の波打ち際及び/又は海上で波頭が砕けたときに発生する海水ミストが,風で運ばれて飛来した粒子。海塩粒子の大きさは,約 0.01μm~20μm である。【JIS Z 2381「大気暴露試験方法通則」】

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