腐食概論鋼の腐食

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 大気腐食(実環境因子の影響)

 酸性雨の現状

 雨雲などの中で生成した雨滴が地表に向かって降下する間に,二酸化炭素( CO2など大気に含まれる水可溶成分を吸収(溶解)する。その結果として雨滴の水素イオン濃度指数(potential hydrogen),すなわち pH (ピーエイチ)が変化する。
 
 日本では,二酸化炭素の溶解度(solubility)に達した時の pH 5.6 を下回る雨を酸性雨(acid rain)と呼んでいる。すなわち,pH 5.6 を下回ることは,二酸化炭素以外の酸性成分を含むと想定できるためである。
 しかし,この値を基準とすることについては異論も存在する。非人為的(火山活動,海塩粒子,土壌由来の粒子など)な条件で pH 値の低下や変動があるため,米国などの諸外国には,大気汚染(aerial environment pollution)など人為的に発生した酸性成分の影響を加味し,pH 5.0以下を酸性雨と定義する国もある。
 
 環境省では,1988年から酸性雨や大気汚染関連の長期モニタリングを実施している。酸性雨に関しては,全国年平均で pH 5 を切る状況がモニタリング開始時から継続しており,平成 21年の時点で改善の兆しはみられていないのが現状である。
 モニタリング結果から,平成 24年の報告書では,工業化の進む中国大陸から運ばれる汚染成分の影響で,酸性雨の状況改善が進まないと考えている。
 参考資料 1) は,平成 24年に出された長期モニタリングの中間報告である。これには,平成 15年から 20年までの,全国 14地点の日単位の降水の pH分布(下図)が掲載されている。
 図によると,降水の大多数がpH 5.6以下であり,pH 4(鉄の水素発生腐食開始)を下回る降雨も計測されている。

日本の降水のpH分布

日本の降水のpH分布
出典:環境省「越境大気汚染・酸性雨長期モニタリング(平成20~22年度)中間報告」p.34(平成24年6月)


 【参考資料】
 1)「越境大気汚染・酸性雨長期モニタリング(平成 20~22年度)中間報告」平成 24年6月 環境省
 環境省 越境大気汚染・酸性雨対策調査
 【参考】
 酸性雨(acid rain)
 化石燃料の燃焼などで発生・排出された硫黄酸化物や窒素酸化物などの汚染物質を取り込んで水素イオン濃度指数(pH) 5.6以下の強い酸性の雨。
 なお,汚染されていない大気の雨は,二酸化炭素(CO2)を吸収し,pH 6.5~5.5程度を示すため,日本では。これより酸性度の強い雨を酸性雨と称する。
 pH (potential hydrogen ,power of hydrogen)
 水素イオン濃度指数(potential hydrogen ,power of hydrogen),又は水素イオン指数(hydrogen ion exponent)といわれる。
 水素イオン活量(hydrogen ion activity)の逆数の常用対数。 注記 これは概念上の定義で実測できない値である。実用の操作的定義については JIS Z 8802 を参照。【JIS K 0211 分析化学用語(基礎部門)】
 この規格に規定した pH 標準液の pH 値を基準とし,ガラス電極 pH 計によって測定される起電力から求められる値。注記 ピーエッチ又はピーエイチと読む。【JIS Z 8802「pH 測定方法」】
 溶解度(solubility)
 溶質が一定量の溶媒に溶ける限界の量(飽和溶液の濃度)である。温度と溶解度の関係を図示したものを溶解度曲線という。
 大気汚染(aerial environment pollution , atmospheric [air] pollution)
 大気環境汚染ともいい,大気中において,人の健康や環境に悪影響を及ぼす微粒子や気体成分の増加。
 化学が大きくかかわる“大気・海洋・水・土壌環境の保全”で問題とされる具体的な課題を分類すると次の通りである。
 汚染物質発生源付近での大気汚染,水質汚染,土壌汚染など公害として扱われる局地的な課題。
 酸性雨,粒子状物質( PM )や光化学オキシダントなどの大気環境汚染,広域の海洋生物に影響する海洋汚染などの県境,国境を越えた比較的広い地域の課題。
 オゾン層破壊,地球温暖化などの地球規模の課題。
 降水(precipitation)
 大気中で水蒸気が凝結し形成された液体(または固体)の水が重力で落下する現象。
 水蒸気を含む空気塊が上昇することで,膨張(断熱冷却)し湿度が上昇する。このため,水蒸気は,大気中の微粒子(海塩粒子などの大気エアロゾル粒子)を核にして凝結(大きさ数~数十µmの雲粒)し雲が形成される。この過程は凝結過程(condensation process)や拡散過程(spreading process)といわれる。
 微小の水滴である雲粒は,併合過程(coalescence process)を経て大きさ数 mmの雨粒や雪片まで成長する。
 大きさ 0.1mm程度以下の水滴は,通常の上昇気流に支えられて浮遊できるが,これを超える大きさまで成長すると上昇気流に逆らい重力で落下する。なお,落下する水滴は,上昇気流が大きいほど大きくなれるが,約 8mmまで成長すると,水滴の状態では落下中に分解するので,これ以上の大きい雨粒は観察されない。

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