腐食概論:鋼の腐食

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            【腐食に影響する要因】

 【流速の影響】
 淡水の場合の流速の影響は,流速の増加に伴い,拡散層(diffusion layer)の厚みが減少し,鋼表面に達する酸素の拡散束(flax)が増加する。これに伴い,腐食速度が増加するが,ある値を超えると鋼表面が不動態化(passivity)し,流速と共に腐食速度が減少した。
 海水の場合は,【淡水環境】・水質の影響(陰イオン)の項で説明したように,塩化物イオンを多量に含むため,酸素の拡散束が増大しても,鋼表面の不動態化が妨げられる(不動態皮膜を塩化物イオンが破壊する)。このため,流速の増大と共に腐食速度が単調に増加し続けるという特徴がある。
 
 流速がさらに高くなると,淡水の場合と同様にエロージョン・コロージョンやキャビテーション・コロージョンの発生する領域に達する。特に,海岸等の海底付近では,砂等の流動によるサンドエロージョン(sand erosion)の影響も無視できない。

 【応力の影響】
 海洋環境において,【鋼腐食の基礎】で解説した腐食疲労(corrosion fatigue)については,他の環境に比較して海洋環境で発生し易いことが知られている。
 海洋構造物では,波浪がもたらす長周期の繰り返し応力を受ける場合には,溶接個所などの疲労を受け易い個所に電気防食を施すなどの対策が必要になる。

 【漏れ電流の影響】
 港湾等では,港湾設備や船舶から種々の漏れ電流(leakage current)がある。例えば,溶接作業時の溶接電流の漏れ,船舶電装品からの電流の漏れなどである。海水の電気伝導率(electric conductivity)が高いので,これらの漏れ電流があると,【土壌環境での腐食】で解説する迷走電流腐食(stray current corrosion)が懸念される。
 場合によっては,他の施設で実施する電気防食の電流の影響を受けることもある。このように,海洋環境では,海水の電気伝導率が高いことを考慮した防食設計が必要である。

 【表面付着物の影響】
 さび層の影響
 海水中のさび層(表面に沈着した腐食生成物の層)は,淡水中や大気中のさび層に比較し,多くの欠陥を含む保護性の低いさび層といわれている。原因として,さび層中のオキシ水酸化鉄やマグネタイトなどの腐食生成物(corrosion product)の組成や構造(緻密さ)の違いと推測されている。
 例えば,塩化物イオンなどハロゲンイオンの影響で生成する含水酸化鉄(β-FeOOH)は,大気環境,淡水環境などの腐食で生成するα-又はγ-FeOOHと結晶構造が大きく異なり,密度が小さい。さび層の保護性の低さの要因に結晶構造の違いが寄与していると推定される。
 従って,海水中でもさび層の形成と共に鋼の腐食速度は低下するが,淡水中の場合や大気中の場合に比較して,さび層の保護機能が小さく,経年による腐食速度の低下が小さいと考えられる。
 海洋生物の付着
 海中部,干満帯や飛沫帯の表面には,フジツボ類,セルブラ類,ホヤ類などの海洋動物が密に付着する。このため,水抵抗の増加や目視点検が困難になるとともに,生物種によってはすき間腐食(crevice corrosion)の原因になる場合もある。
 
 【参考】
 フィックの法則(Fick's laws of diffusion)
 気体,液体のみならず固体(金属)にも適用できる物質の拡散に関する基本法則である。フィックの法則には第 1法則と第 2法則がある。
 フィックの第 1法則
 “拡散束(流束;flax)は,濃度勾配に比例する”と表現される法則で,定常状態拡散(濃度が時間で変わらない)で適用される。拡散係数を D ,位置 x での濃度 c とした時,拡散束 J は,J = − D grad c あるいは J = − D ( dc /dx ) で与えられる。
 フィックの第 2法則
 実際の拡散で見られる濃度が時間に関して変わる非定常状態拡散に適用される。拡散係数 D が定数のとき,濃度 c の時間変化は,∂c /∂t = − div J = D∇2 cあるいは∂c /∂t = D (∂2 c /∂x2 ) で与えられる。
 侵食(erosion)
 一般的には,水や気体などの外力により機械的に起こる磨耗作用を侵食やエロージョンというが,通常は地質学でいうところの流水・雨水・海水・風・氷河などが地表の岩石や土壌を削り取ること(浸食や土壌浸食とも記される)を指す場合が多い。
 腐食疲労(corrosion fatigue)
 読み「ふしょくひろう」,腐食と繰り返し応力との相乗作用によって,金属材料に生じる強度低下。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
 繰り返しの応力単独の場合より金属疲労が促進され,応力から計算される疲労寿命より著しく短命になり,損傷・事故の原因になり易い。
 迷走電流腐食(stray current corrosion)
 正規の回路以外のところを流れる電流によって生じる腐食。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
 直流電鉄の線路付近の線路から漏れた電流による埋設鋼管などの局部的腐食として問題となる腐食現象である。
 電気抵抗率(electrical resistivity)
 物質の電気の通しにくさを表ために用いられる物性値で,単位はΩ・m(オームメートル)である。
 絶縁性の高い樹脂などでは,表面を流れる電流の寄与を考慮した表面抵抗率(シート抵抗;sheet resistance)と内部を流れる電流に対する体積抵抗率(volume resistivity)とを区別して扱われる。
 電気伝導率(electric conductivity)
 溶液がもつ電気抵抗率(Ω・m)の逆数。単位は S/m溶液がもつ抵抗率の逆数で,電極間距離を電極表面積と電気抵抗との積で除した値。SI 単位は S/m(ジーメンス/メートル)。【JIS K 0213 「分析化学用語(電気化学部門)」】
 注記 電気伝導率,電気伝導度及び測定セルのセル定数は,次の式で示す関係にある。
      L=J×LX
 ここに,L:測定試料の電気伝導率(S/m),J:セル定数( m-1 ),LX:測定した電気伝導度(S)
 すき間腐食(crevice corrosion)
 濃淡電池腐食(concentration cell corrosion)の一種で,金属又は金属と他の材料との間にすき間が存在する場合,すき間の内外においてイオン,酸素などの濃淡電池が構成されて生じる腐食。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
 酸素の濃淡のみで生じる濃淡電池は通気差電池(differential aeration cell)といわれ,これによる腐食を通気差腐食(differential aeration corrosion)という。

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