腐食概論:鋼の腐食
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大気腐食(実環境因子の影響)
海塩粒子量の測定について
JIS Z 2382「大気環境の腐食性を評価するための環境因子の測定」には,大気中の二酸化硫黄(SO2)と飛来海塩粒子(airborne sea salt particles)などを含む大気浮遊塩分の測定方法が規定されている。
当該JIS 規格に規定される大気浮遊塩分の計測方法は,日本での実績が多い「ドライガーゼ法」(dry guaze method)と,海外で実績がありISO 9225「Corrosion of metals and alloys -- Corrosivity of atmospheres -- Measurement of environmental parameters affecting corrosivity of atmospheres」にも規定される「ウェットキャンドル法」(wet candle method)の 2 種である。
ドライガーゼ法,ウェットキャンドル法の何れも塩分の捕集にガーゼを用い,通常の捕集期間として 1カ月暴露を規定している。
塩分の量は,暴露期間中にガーゼ表面に付着した塩化物イオン量を分析した後,ガーゼの単位面積当たり,一日当たりの塩化ナトリウム量(mdd:mgNaCl・m-2・day-1)に換算して表記される。
JIS 規格に従った計測結果を考察する場合の留意点(課題)を次に示す。
・ 計測結果は,回収時点にガーゼ表面に付着している塩量である。ガーゼの長期間(1カ月)暴露となるので,暴露期間中の一旦付着した塩の脱落や散逸に関する情報は得られない。
・ 飛来する塩のガーゼへの付着割合(捕集率)は,風速,相対湿度などの気象条件の影響を受ける。
・ 「ドライガーゼ法」には指向性があり,設置したガーゼ面の向きで捕集率が異なる。
・ 屋根や窓を設けた架台を用いる場合は,その影響(風の流れ,重力落下成分)を考慮したデータ解析が必要になる。
以上の留意点から分かるように,JIS 規格に従った計測値は,数値が得られるため,背景を無視して安易に取り扱われる場合が多いが,暴露した地域での飛来塩分の多寡について,季節変動や異なる地域との比較に用いることはできるが,得られた値を持って暴露期間中に飛来した全塩量との関係,構造物などの表面への付着量との関係について論じられないことを忘れてはいけない。
地域間の測定データの比較を目的とした場合でも,同一の方法で,同一の暴露期間のデータを用いて比較するように心がけるべきである。
例えば, 1週間毎に回収したものの累積値は,1カ月暴露したものの測定値と一致しないなど,ガーゼの暴露開始・回収時期や暴露期間の影響を著しく受ける。
ましてや,異なる方法で得られた結果を比較することは,決して行ってはいけない。
飛来する海塩粒子の絶対量把握が目的の場合は,JIS法ではなく,参考資料1),2)などの気象学で用いる方法を参考にするのが良い。
【参考資料】
1)鳥羽良明:“海塩粒子-大気と海洋との相互作用の一要素として-”,海と空Vol.41,No.3,No.4, pp.71-118,1966
2)中島暢太郎,鳥羽良明,田中正昭:“塩害に関する基礎的研究(第二報) 巨大海塩粒子連続サンプラーの試作と測定例”,京大防災研究所年報第11号B,pp.19-27(昭.43.3)
【参考】
飛来海塩粒子(airborne sea salt particles)
大気中に含まれるエアロゾル粒子の中の海塩粒子を指す。
海塩粒子(sea salt particle)とは,海岸の波打ち際及び/又は海上で波頭が砕けたときに発生する海水ミストが,風で運ばれて飛来した粒子。海塩粒子の大きさは,約 0.01μm~20μm である。【JIS Z 2381「大気暴露試験方法通則」】
ドライガーゼ法(dry gauze method)
【JIS Z 2382 「大気環境の腐食性を評価するための環境因子の測定」】(ドライガーゼ法による塩化物の測定 原理): 一定面積をもつ 2 枚重ねのガーゼを,雨を遮断して暴露すると,ガーゼ表面に塩化物が捕集される。この塩化物を化学分析によって定量する。分析結果から,塩化物の付着度を計算し,平方メートル・日当たりのミリグラム [mg/ (m2・d)] で表す。
ドライガーゼ法では,木製の外枠に,内寸法 100×100mm の木製の内枠をはめ込み,捕集面積を表・裏の両面を合わせて 200cm2とし,暴露直前に調製(洗浄・乾燥)したガーゼを二つ折りにし,しわが生じないように取り付ける。
直射日光及び雨雪を遮断できる構造で,ドライガーゼプレートの低端が地上から 1~1.2m の位置に,風通しを妨げないよう暴露する。暴露場所は,試験片を暴露する暴露試験装置の近くで,試験片の向きに合わせることが望ましい。
暴露期間 1カ月間に,ガーゼの方向に応じて付着した塩分を分析する。
ウェットキャンドル法(wet candle method)
【JIS Z 2382 「大気環境の腐食性を評価するための環境因子の測定」】(ウェットキャンドル法による塩化物の測定 原理):一定面積の織物を湿潤状態で雨を遮断して暴露すると,織物表面に塩化物が捕集される。この塩化物を化学分析によって定量する。分析結果から塩化物の付着度を計算し,平方メートル・日当たりのミリグラム [mg/ (m2・d)] で表す。
ウェットキャンドル法では,瓶の中に挿入した心棒に外科用ガーゼを巻き付け,オクタン酸を加えた 20%グリセリン溶液で常に濡れるようにして暴露し,1か月間暴露した後に全方向からガーゼに付着した塩分を分析する。
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