腐食概論:鋼の腐食
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大気腐食の基礎
物体の温度変化(熱の出入り)の原理について
物体の外部から受けたエネルギーが,原子や分子の運動エネルギーに変換されたとき,物体の温度が上昇する。
原子や分子の運動エネルギーは,熱伝導(thermal conduction),熱対流(heat convection),及び熱放射(themal radiation)の過程を経て,物質間でやり取りされる。この過程で,物体の外に放出される量が外から受ける量より多い場合には,物体の温度が下がることになる。
熱伝導は,物質の移動を伴わず,物質間の接触個所を通して,高温側から低温側へ熱が移動することをいう。熱伝導では,運動エネルギーが格子振動(lattice vibration)や伝導電子(conduction electron)の振動を介して移動する。
格子振動が卓越するダイヤモンドを除く物質では,伝導電子による寄与の方が大きいので,金属は,半導体や絶縁体よりも熱伝導性が良い。しかし,非常に硬いダイヤモンドは例外で,格子振動を介した熱伝導性の寄与が非常に大きく,金属より熱伝導性が良い。
熱放射は,原子や分子の運動エネルギーを電磁波(electromagnetic wave)として外に放射する現象で,移動に物質同士の接触は必要ない。
絶対温度が零度ではない全ての物体は,プランクの法則(Planck's law)により電磁波を放射している。電磁波を放射する物体は温度が下がり,放射を受けた物体の温度が上がる。
電磁波の波長は,原子や分子の運動エネルギーすなわち温度で変わる。ある温度 T(K)の黒体から放射される電磁波のピークの波長λmax(m)は,ウィーンの変位則(Wien's displacement law)により,次式で求められる。
λmax=0.002898/T
大気環境での一般的な温度範囲を 10~50℃とすると,放射される電磁波のピークの波長は,約 9~10μmとなる。これは,一般的な遠赤外線(far infrared radiation)の領域である。ちなみに 0.78~3μmを近赤外線, 3~5μmを中赤外線という。
【参考】
対流(convection)
流体(気体や液体)の巨視的な流れに伴い,流体の熱エネルギーや溶存物質などが運ばれる現象を対流(convection)や移流(advection)ともいう。
外力を与えて起こした対流を強制対流,流体内部の温度差,密度差,重力,表面張力などの自然の作用により自発的に起きる対流を自然対流と呼んで区別することもある。
熱の流れに注目した場合は,熱対流(heat convection)や対流伝熱という。
導体(conductor)
伝導体(conductor)ともいい,電気を通す物質(電導体,電気伝導体,電子伝導体),イオンを通す物質(電解質,イオン伝導体),熱を伝え易い物質(熱伝導体)などを意味する。
JIS C 5600「電子技術基本用語;Glossary of basic terms used in electrotechnology 」では,導体を“導電率(電気伝導率)又は熱伝導率の大きい物質。金属は自由電子又は正孔密度が高く,導電率,熱伝導率ともに大きい物質である。伝導体,良導体ともいう。”と定義している。
空間格子(space lattice)
結晶を構成する粒子(原子,イオン,分子)の構造単位で,それらを点で置き換えて理想化した網目状の格子を空間格子(space lattice)という。空間格子の最小の繰り返し単位(平行 6 面体)を単位胞( unit cell ),又は単位格子という。
単位胞の頂点から伸びる 3 つの稜のベクトル〈a, b, c〉を基本ベクトルと呼び,ベクトルの大きさ〈距離〉と単位ベクトルの成す角,α=∠bc,β=∠ca,γ=∠ab は単位胞の格子定数( lattice constant )と呼ばれる。
電磁波(electromagnetic wave)
電磁放射(electromagnetic radiation)とも呼ばれ,電場と磁場が互いに垂直な方向に変化することで形成される横波(波動)が,空間や物質中を伝わる現象である。
電磁波は,イギリスの物理学者マクスウェルが理論的に予言し,ドイツの物理学者ヘルツにより存在が実証された。その後,光,X線,γ線も電磁波であることが知られた。
電磁波は,波動の波長(又は周波数)により,電波(ラジオ波,短波 HF ,メートル波 VHF ,デシメートル波 UHF ,マイクロ波など),光(赤外線,可視光線,紫外線など),放射線の一種であるX線,γ線などに分けられる。
また,電磁波は,波と粒子の性質を持つため,波として散乱や屈折,反射,また回折や干渉などの現象を起こす。量子力学的には粒子として考えられ,物体が何らかの方法でエネルギーを失うと,そのエネルギーに相当する電磁波が光子として放出される。
プランクの法則(Planck's law)
プランクの放射則,プランクの放射法則(Planck's law of radiation),プランクの公式などとも呼ばれ,1900 年にドイツの物理学者マックス・プランク(1858 ~1947 年)が導いた黒体から輻射(放射)される電磁波の分光放射輝度又はエネルギー密度の波長分布に関する公式である。
JIS Z 8120(光学用語)では,“黒体の分光放射輝度を波長及び温度の関数として与える法則。”と定義されている。
ウィーンの変位則(Wien's displacement law)
黒体からの輻射のピークの波長が温度に反比例するという法則である。
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