腐食概論鋼の腐食

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 海洋環境での腐食

 海洋環境の腐食の観点からの環境区分

 海洋構造物では,海水面(sea level)からの距離で腐食性が大きく異なるため,環境を次のように分けて考えるのが一般的である。
 
 海上大気部
 大気部の中で,次に示す飛沫帯より上部を意味する。海水飛沫を常時浴びる部位ではないが,飛沫帯に近い部位では,気象条件次第で,海水飛沫(かいすいしぶき,sea water spray , spraya splash)や高濃度の飛来海塩粒子(airborne sea salt particles)の影響を受け,腐食性は比較的高いといえる。
 しかし,高度とともに,飛来海塩粒子の濃度が低下するので,海上大気部の多くは,後述する大気環境(海岸環境)と同様の腐食環境と考えられる。
 
 飛沫帯(splash zone , supralittoral zone)
 飛沫帯(ひまつたい)とは,次に示す干満帯の直上にあたる大気部である。この部分は,波が構造物に衝突し,砕けた海水飛沫常時浴びる
 従って,この位置にある部材の表面は,薄い海水膜で常時覆われるため,腐食性が最も高い環境である。
 
 干満帯(tidal zone)
 干満帯(かんまんたい)とは,潮汐(ちょうせき:tide)で海中への没水と大気露出が繰り返される範囲,すなわち干潮時の海表面(干潮位 L.W.L(low water level))と満潮時の海表面(満潮位 H.W.L(high water level))の間をいう。この部位は,概して 1 日 2 回の海水への浸漬と大気露出が繰り返される。
 干満帯は,海洋生物(marine life , marine species , marine organism)の付着量が最も多い部位,流木(drift wood , drift timber)の衝突の付着などの影響を受ける部位でもある。
 干満帯の範囲は,地域により大きく異なる。例えば,日本海側では 1m 未満であるが,太平洋側では 2m 程度となる。有明湾のように 5mを超える地域もある。
 
 海中部
 海中部とは,干潮時の海水面干潮位 L.W.L)から海底土壌の表面までをいう。
 海中部は,常に海水に浸されている環境ではあるが,海表面からの距離(水深)と共に,腐食に影響する環境条件が変化する。
 水深とともに水温,及び溶存酸素(dissolved oxygen)の濃度が変化(一般的には低下)する。このため,金属の腐食にとっては,海水面に近いほど厳しい環境といえる。また,海水面付近では海洋生物付着の影響も考慮する必要がある。
 さらに,海水の電気導電率(electric conductivity)が高いので,異種金属接触腐食や迷走電流の影響を受けやすい環境である。一方で,電気防食(electrolytic protection)の適用に適した環境でもある。
 
 海底土中部
 海底土中は,基本的には,陸上部の土壌中と同様に考えてよい。一般的には,陸上部の土壌に比較して,電気導電率が高く,バクテリア等の生物の影響を受けやすいなどの特徴がある。
 【参考】
 腐食環境(corrosive environment)
 用語「腐食環境」の明確な定義はないが,一般的には,金属やコンクリートなどの材料が,腐食現象により期待耐用期間より早い時期に,実用に耐えない状態になるほど腐食性の高い環境を意味して用いることが多い。
 JIS Z 2381「大気暴露試験方法通則:General requirements for atmospheric exposure test」では,暴露試験場の環境区分を明確にするため,地域的な気象の特徴による気候区分,大気の汚染状況による大気汚染区分,海塩粒子の飛来量による海塩区分の考え方を附属書(参考)として紹介している。
 大気環境の腐食性を評価する方法として,実用金属の腐食に影響する環境汚染因子の二酸化硫黄(硫黄酸化物),大気浮遊塩分(海塩粒子)の付着度を測定に関し JIS Z 2382「大気環境の腐食性を評価するための環境汚染因子の測定:Determination of pollution for evaluation of corrosivity of atmospheres」が,環境の腐食性を金属の腐食度から評価できるように JIS Z 2383「大気環境の腐食性を評価するための標準金属試験片及びその腐食度の測定方法:Standard specimens of metals and alloys, Determination of corrosion rate ofstandard specimens for the evaluation of corrosivity of atmospheres」が規定されている。
 潮汐(ちょうせき)(tide)
 約半日の周期でゆっくりと上下に変化する海面の水位(潮位)の昇降現象のこと。
 飛来海塩粒子(airborne sea salt particles)
 大気中に含まれるエアロゾル粒子の中の海塩粒子を指す。
 海塩粒子(sea salt particle)とは,海岸の波打ち際及び/又は海上で波頭が砕けたときに発生する海水ミストが,風で運ばれて飛来した粒子。海塩粒子の大きさは,約 0.01μm~20μm である。【JIS Z 2381「大気暴露試験方法通則」】
 溶存酸素(dissolved oxygen)
 DOと略称され,水中に溶解している酸素の量を意味し,一般的には水の汚染の程度を示す指標として用いられる。海洋や河川では,4~5mg/L を下回ると水中生物の生命が脅かされるといわれている。
 酸素の溶解量は水温,溶解塩類の濃度,気圧などにより影響を受ける。ちなみに,1気圧の蒸留水の飽和溶存酸素量は,20℃で 8.84mg/L ,25℃で 811mg/L ,30℃で 7.53mg/L である。
 電気抵抗率(electrical resistivity)
 物質の電気の通しにくさを表ために用いられる物性値で,単位はΩ・m(オームメートル)である。
 絶縁性の高い樹脂などでは,表面を流れる電流の寄与を考慮した表面抵抗率(シート抵抗;sheet resistance)と内部を流れる電流に対する体積抵抗率(volume resistivity)とを区別して扱われる。
 電気伝導率(electric conductivity)
 溶液がもつ電気抵抗率(Ω・m)の逆数。単位は S/m溶液がもつ抵抗率の逆数で,電極間距離を電極表面積と電気抵抗との積で除した値。SI 単位は S/m(ジーメンス/メートル)。【JIS K 0213 「分析化学用語(電気化学部門)」】
 注記 電気伝導率,電気伝導度及び測定セルのセル定数は,次の式で示す関係にある。
      L=J×LX
 ここに,L:測定試料の電気伝導率(S/m),J:セル定数( m-1 ),LX:測定した電気伝導度(S)
 電気防食(electrolytic protection)
 電流の作用を用いて人為的に金属の電位を制御し,腐食を制御する方法。
 水溶液環境に接している金属の電極電位を操作する方法により,電極電位を基準値(防食電位)以下に下げるカソード防食法(cathodic protection ,陰極防食ともいう),電極電位を上げて不働態領域に保つアノード防食法(anodic protection ,陽極防食ともいう)の二種に大別される。

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