腐食概論:鋼の腐食
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大気腐食の基礎
鋼橋などの屋外の鋼板での結露の発生について
【鋼板の温度変化】
鉄鋼(steel)については,熱容量(3.54×106Jm-3K-1),熱伝導(80.4Wm-1K-1)とコンクリートの熱容量(2.1×106Jm-3K-1),熱伝導(1.7Wm-1K-1)に比較して,熱の移動が圧倒的に速く,内部まで容易に多量の熱を蓄えることができる。しかし,鉄鋼の放射率(emissivity)は,金属光沢がある場合に 0.03,酸化物で覆われたときで 0.5~0.8とコンクリートの約 0.9に比較し非常に低い。これらの数値から,少なくとも鉄鋼は,コンクリートに比較して,温まり難い物質と言える。しかし,実体験とはかなり印象が異なる。
例えば,炎天下におかれた自動車やトタン屋根は,早期に触れないくらい熱くなること,春や秋の早朝に自動車やトタン屋根が結露しているのを経験している。
実用の鋼板の場合は,裸使用は少なく,多くの場合に,表面を塗装して用いる。電磁波の放射率は,物体表面に依存するので,塗装鋼板の放射率は塗膜の放射率と考えることができる。すなわち塗膜の放射率 0.95前後の値になると考えられる。
自動車外板(0.6~0.9mm程度)やトタン屋根(0.5mm以下)のように薄い板の場合は,熱容量は大きいが,単位面積当たりの体積が小さいので,少ない熱エネルギーで容易に温度が上がる。また,自動車はゴムタイヤで,トタン屋根は木材で,大地や他の物質と熱的に絶縁されている。これらの要因により,自動車外板やトタン屋根は,太陽光の影響で容易に温度が上がり,放射冷却での温度低下が大きい結果となる。
【鋼構造物の温度変化】
鋼橋などの大型の鋼構造物(steel structure)では,9mmを超える厚い鋼板(最近では100mm程度まで)が用いられている。また,直射日光を直接受ける部位,床版などで日光が遮断され,反射光の影響しか受けない部位など,構造部位で日射の影響が著しく異なる。このため,構造物では,構造の影響,熱容量や熱伝導の影響を考慮した考察が求められる。下図には,鋼部材が日光の影響を直接を受けない構造の道路橋(試験橋)で,部位別の温度変化を計測した例である。
図は,アスファルト面の下部に,通常用いられるコンクリート製床版に代わり,軽量のアルミニウム製床版(アルミニウム:熱容量2.4×106Jm-3K-1,熱伝導率237 Wm-1K-1)を用いた試験橋での結果である。
特に注目されるのは,金属部材の温度が,正午より翌日朝 6時ころまで,気温より高い温度で推移している。
一方,日出後(計測日 2010年6月10日の日出 4時32分,日入 19時01分) 1時間半以上経過した午前 6時過ぎから正午までは,気温より数℃から最大 5℃低い温度で遅れて変化している。
この例では,放射冷却による熱放出の影響が最も大きい天面を向く部材(アスファルト面)は,日の出前に気温より低い温度になった。鋼桁などは,地面や地面と平行な面を向くため,放射冷却の影響が小さく,日の出前に外気温を下回る温度にならない。
しかし,日の出後の気温上昇に比較し,アスファルト面以外の部材の温度上昇が遅れて進み,午前中は外気温より低い状態が継続している。午前中の相対湿度によっては,この時間帯に結露する可能性がある。
【参考資料】
1)長尾隆史,萩澤亘保,大倉一郎:アルミニウム橋研究会ALST研究レポート22「道路橋用アルミニウム床版-鋼桁橋の温度変化測定」 2011 年11 月
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