腐食概論鋼の腐食

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 淡水環境の腐食

 水質の影響(陽イオン他)

 陰イオンと対になる陽イオン(cation , positive ion)や淡水中に分散している固形分の鋼腐食にに与える影響について解説する。
 淡水中に含まれる カルシウムイオン(Ca2+),マグネシウムイオン(Mg2+),Mアルカリ度(M alkalinity),全溶解固形物質(TDS ; total dissolved solid)は,その量と pH 変化などで,鋼表面に沈着するなど,腐食反応(corrosion reactiom)に影響する場合がある。
 特に,カルシウムイオンは,二酸化炭素と反応し,炭酸カルシウム(CaCO3)として鋼表面に沈着し,酸素やイオンの拡散抑制に寄与する被覆を形成することが知られている。
 鋼表面に沈着(deposition)するか否かは,温度,カルシウムイオン濃度,Mアルカリ度,全溶解固形物質濃度及び,pHに依存する。
 
 カルシウムイオン濃度,Mアルカリ度,全溶解固形物質濃度が一定のとき,CaCO3 が鋼表面に沈着し始める pH(溶解も析出もしない pHで pHs と記す)と,鋼の曝される溶液の pHとの差(pH-pHs)を飽和指数(ランゲリア指数;Langelier's index)と称し,飽和指数が正の場合には,CaCO3 が析出すると評価できる。
 飽和指数は,計測した水温,Caイオン濃度,Mアルカリ度,全溶解固形物質濃度別にランゲリア指数換算表を用いて計算することができる。具体的な方法については参考資料1),2)が参考になる。
 
 一般的には,飽和指数になるのは,常温中性の場合には,Caイオン濃度,Mアルカリ度が何れも数百ppm以上の場合である。日本の淡水で該当するのは,一部の地下水のみである。
 また,この条件に至る場合として,淡水を循環水や冷却水として用いたときに,水の蒸発で陽イオンが濃縮した場合が考えられる。

 【参考資料】
 1):S. Powell, H. Bacon, J. Lill : Ind. Eng. Chem., 37, 842 (1945)
 2):E. Nordell : Water Treatment, Reinhold, p.287 (1961)
 【参考】
 陽イオン(cation , positive ion)
 カチオン(cation)ともいい,正の電荷を帯びたイオンをいう。
 イオン(ion)
 原子,又は分子が 1 個,又は数個の電子を授受することで電荷を持つ物質を指す。
 最外殻の軌道電子を放出することで,単原子,又は原子団(複数の原子が結合)は正の電荷を持つ陽イオンになる。
 最外殻の電子軌道に電子を受け取ることで,単原子,又は原子団は負の電荷を持つ陰イオンになる。
 歴史的には,ファラディーが電気分解の実験で,陽極(アノード:anode )に向かう粒子と陰極(カソード:cathode )に向かう粒子を発見し,これらの粒子をイオン(ion)と名付け,陽極に向かう粒子を陰イオン(anion :アニオン),陰極に向かう粒子を陽イオン(cation :カチオン) と呼んだのが始まりである。
 腐食(corrosion)
 金属がそれをとり囲む環境物質によって,化学的又は電気化学的に侵食されるか若しくは材質的に劣化する現象。【JIS Z 0103「防せい防食用語」】
 腐食反応(corrosion reaction)
 腐食現象に関わる化学反応,電気化学反応の総称としていう場合が多い。
 Mアルカリ度(M alkalinity)
 希釈硫酸を用いて水をpH 4.8に調整するために必要な酸の量を求め,これを炭酸カルシウム(CaCO3)濃度に換算した値で,カルシウムイオンとマグネシウムイオンなどのアルカリイオン量の指標となる。
 WHOでは,Mアルカリ度 120(ppm)以下を軟水,これ以上を硬水と分類し,日本では 100以下を軟水,100~300を中硬水,300以上を硬水と分類している。
 ランゲリア指数(Langelier's index)
 給水系における水の腐食性の指標となる水中の炭酸カルシウム(CaCO3)の析出傾向を示す数値。
 水の実際の pH と水中の炭酸カルシウムが溶解も析出もしない平衡状態にあるときの pH(pHs)の差から求める。
 ランゲリア指数が小さいほど炭酸カルシウムは溶解しやすく,腐食性が強いことを示し,日本の水道では,「水質管理目標設定項目」に,基準値は「-1程度以上とし極力0に近づける」とされている。
 全溶解固形物質(total dissolved solid)
 全溶解性蒸発残留物質ともいい,TDSで表される。水を蒸発・乾固したときに残る物質(蒸発残留物)は,蒸発操作で重炭酸塩の中に改変を受けるものがあるため,蒸発残留物量を補正して計算した値として総溶解固形物質(TDS)が用いられる。TDS の数値が低いほど不純物が少ないことを示す。

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