第二部:物質の状態と変化 コロイド溶液

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  ここでは,水を媒質とする会合コロイドの一種である【界面活性剤とは】, 【ミセルの形成と構造】, 【界面活性剤(ミセル)の特徴】  に項目を分けて紹介する。

  界面活性剤とは

 界面活性剤( surface active agent ,surfactant )
 親水性と疎水性の官能基を持ち,水溶液中でミセル,ベシクル,ラメラ構造を形成することで,極性物質と非極性物質を均一に分散させる働きや,溶液の表面張力を弱める作用を持つ物質の総称である。

界面活性剤の水溶液中での構造例

界面活性剤の水溶液中での構造例

 ベシクルやラメラ構造は,細胞膜などので見られる脂質の構造として広く知られている。ここは,コロイド溶液の紹介を目的とするため,一般的なミセルについて紹介する。

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  ミセルの形成と構造

界面活性剤の配置とミセルの生成【模式図】

界面活性剤の配置とミセルの生成【模式図】

 水溶液中に界面活性剤を投入すると,まず界面活性剤が水の表面(水面)や水中の油などの疎水性の物質の界面に吸着する。この時,水面や油の界面では,疎水性の基が水から逃れ,疎水性の物質(空気や油など)を向き,水分子が吸着(水和)した親水性の基が水中の方向に向く。
 さらに界面活性剤を投入し,ある濃度( C0まで上がると,表面は界面活性剤の分子で埋め尽くすように,全面に配列する。
 濃度( C0を超えると,行き場を失った界面活性剤の分子は,疎水基同士を重ね合わせ,親水基を水側に向けて互いに集まる。この段階では,界面活性剤のみのミセルを形成する。この濃度( C0 )を臨界ミセル濃度( critical micelle concentration : CMCという。

 ミセル内部には,分散媒と異なる性質の物質を取り込むことができる。このため,界面活性剤を用いることで,極性,非極性の両方の物質を均一に分散した溶液を得ることができる。
 従って,CMC 以上の水溶液を撹拌すると,ミセル内に空気を取り込んだ,油などの疎水性物質を取り込んだ物ができる。水などの溶媒に溶け難い物質を界面活性剤で分散できるようになる現象を可溶化( solubilization )という。
 界面活性剤を入れた溶液の性質は,CMC を境に劇的な変化が起きる。また,CMC の値が小さいほど界面活性剤の性能が高いと評価できる。なお,CMC 以上の濃度では,ミセルの粒子としての大きさは変わらず,ミセルの数が増える。
 このため,溶化できる異質物質の量は,界面活性剤の濃度に比例する。しかし,ある濃度を超えるとミセル同士の衝突により,ミセルの構造が棒状,層状,層状ミセルの集合体(リオトロピック液晶)に変化し,全体に白濁やゲル化様に変わる

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  界面活性剤(ミセル)の特徴

 温度依存性
 イオン性界面活性剤は,低温で疎水基の結晶化で機能低下する。この結晶化する温度をクラフト点( Krafft temperature )という。
 非イオン性界面活性剤は,高温で水への溶解性が低下(エーテル結合部と水分子との水素結合が切れ始める)し白濁する。この温度を曇点( cloud point )という。

 起泡と消泡
 分散媒が液体で分散質が気体の場合(気/液コロイド)は,( foam )と称し,この状態にすることを起泡( foaming )という。 分散媒のみの泡は,気体を薄い液膜で包んだもので,泡同士の接点に毛管現象で液が吸い寄せられ液膜が薄くなり,終には泡を維持できなくなる。 しかし,界面活性剤の泡は,液膜が薄くなると,分子同士の反発である厚さより薄くなることに抵抗する。このため,泡の持続時間が長くできる。
 起泡の逆の現象を消泡( antifoaming )という。起泡性は界面活性剤同士の反発に起因しているので,泡を消すには,エタノールなどの親水性の有機溶媒を水と同程度加える方法,界面活性剤を気液界面から取り去る方法,50 ~ 60 ℃に加温し液膜の水分を蒸発させるなどの方法がある。

 濡れ(ぬれ)性改善
 固体表面への液体付着を濡れ( wetting ) という。界面活性剤には,気/液界面や固/液界面の界面張力を低下させる。このため,固体の濡れ性を向上させる効果がある。
 具体的には,布の染色を容易(染料の浸みこみ)にする,紙などへにインクの浸透,定着を改善するなど,浸透・保湿作用の向上に用いられる。

 除菌作用
 カチオン性界面活性剤や両性界面活性剤には,細菌を吸着し洗い流す作用が強いので,消毒液や薬用石鹸などで利用される。

 帯電防止作用
 界面活性剤は,親水基に水分子を吸着(水和)するので,静電気発生を抑制できる。合成繊維やプラスチック製品に用いることで,埃や汚れが付着抑制,静電気による火災抑制を目的に用いられる。

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