腐食概論腐食の基礎

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 ここでは,腐食現象に関連し, 【局部腐食:酸素の濃淡電池】, 【金属表面の濡れ(接触角)】, 【主な用語】 を紹介する。

 腐食現象の分類

 局部腐食:酸素の濃淡電池

 金属表面に付着する電解液中で溶存酸素やイオンの濃度差が生じると,濃度差に依存した電位差が発生する(濃淡電池;concentration cell)。例えば酸素濃度が低い状態が解消されないような条件が整うと,酸素濃度の低い個所がアノードとして固定され,腐食し続けることになる。この腐食は,濃淡電池腐食(concentration cell corrosion)といわれる。
 この中で,酸素の濃淡のみで生じた濃淡電池を通気差電池といい,これによる濃淡電池腐食を通気差腐食(differential aeration corrosion)という。
 
 身近な例としては,下図の左に例示すように,電解質を多く含む水(塩水)に鋼などの金属の一部が浸っている場合の塩水との接触部付近(海洋構造物では一般的)では,接触部付近(水面)の酸素濃度が高く,水面から深い箇所の酸素濃度が低い状況が生じる。
 図中央に例示するように,何らかの原因で生じたさびこぶが塩水などで覆われた場合には,“さびこぶ”外周の酸素濃度が高く,“さびこぶ”中央の酸素濃度が低い状況が生じる。
 図右に例示すように,部材を合せた構造の端部が塩水で濡れた場合に,部材の合せ部のすき間において,すき間入口部の酸素濃度が高く,すき間奥部の酸素濃度が低い状況が生じる。この状況では,すき間部の腐食として観察される。これは,一般的な通気差腐食であり,厳密な意味でのすき間腐食(crevice corrosion)とは異なるが,一般的にはすき間腐食と称する例が多い。

濃淡電池(通気差電池)腐食例

濃淡電池(通気差電池)腐食 模式図

 すき間部の腐食について
 腐食の過程は次のように考えられている。
  鋼部材の合せ面が塩を含む水で濡れた場合に,初めに“すき間入口部”の酸素を還元することで腐食が進み,内部の酸素濃度が次第に低下する。
  ある程度酸素濃度が低下すると,“すき間内部”と“すき間入口部”に,【表面の揺らぎ】で紹介したネルンストの式に従う電位差が発生し,溶存酸素の多い“すき間入口部”をカソード,“すき間内部”をアノードとする濃淡電池(通気差電池ともいう)が形成する。
 “すき間入口部”の酸素がカソード反応で消費されても,“すき間内部”は金属で囲まれ,酸素の供給が望めないので,均一腐食のようなアノード部とカソード部における酸素濃度の逆転はない。このため,アノードは“すき間内部”に固定される。
  腐食の進行と共に,電荷保存則に従い,すき間外部から塩化物イオン( Cl-)などの陰イオンがすき間内部に移動し,アノード塩化物イオンの濃縮と pH低下が進む。
  一方で,生成した鉄イオンは,【腐食反応】で示した加水分解酸塩基反応,及び酸化反応を受け固体の腐食生成物としてすき間入口付近で沈着する。これにより,鉄イオンの外部への流出量が抑えられる。
  乾燥過程で,侵入した塩化物イオン量に見合う鉄イオンが塩化鉄(FeCl2)となり固着する。塩化鉄は,濡れ時に再溶解し,塩化物イオンと鉄イオンになる。
 塩化物イオンと反応できない余剰の鉄イオンは,加水分解や乾燥時に侵入した空気による酸化で腐食生成物として固着(濡れ時に再溶解しない)する。
  濡れと乾燥の繰り返しで,すき間内部の腐食生成物量が増加し,膨張圧で部材が膨らむこともある。

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 金属表面の濡れ(接触角)

 固体表面に接触している気体が液体に置き換えられる現象を濡れ(wetting)という。大気中での濡れ易さ,濡れ難さは,固体の表面張力(固/気間の界面張力γSG),液体の表面張力(気/液間の界面張力γLG),固/液間の界面張力γSL の関係により決まる。
 固体表面に液滴を乗せた場合を考える。重力の作用を無視した時には,下図左に示すように,気体・液体・固体の接触する境界線では,界面張力が釣り合う。すなわち,
     γSG=γSL+γLGcosθ
の関係(ヤングの式)が成り立つ。境界線において液体面が固体面と成す角度θを接触角(angle of contact , contact angle)という。
 固/気間の界面張力γSG は,固/気間の界面の面積を小さくしようとする力で,固/液の境界線を広げようとする。一方,固/液間の界面張力γSL は,固/液間の界面の面積を小さくしようとする力で,固/液の境界線を広げようとする。
 すなわち,γSG>γSL の場合は濡れ広がろうとし,逆の場合は液滴がはじかれ,固体との接触面積を小さくしようとする。
 
 上式(ヤングの式)において,濡れは,接触角θ<90°の場合をいい,接触角が小さいほど濡れ易いといえる。
 イメージ的には,θ= 0°の場合,液滴は固体表面全体にわたって濡れ広がる。0 <θ< 90°の場合は,液滴は限られた範囲で広がるが液滴の形状を保つ。θ>90°の場合は,液滴は全く濡れ広がることが無く,接触面積を極小にするよう働くので,液滴の量が少ないほど球形に近くなる。
 清浄な表面を持つ固体の水との接触角の例:ガラス~ 3°,鉄鋼 約 5°,ナイロン 約 70°,ろう約 105°
 備考:大気中に放置されたガラスは,表面が汚染(油分など)され,比較的大きな接触角を持つ水滴として付着するのが一般的である。しかし,丁寧に洗浄することで,ガラス表面に垂らした水滴の濡れ広がりを観察できる。

接触角と濡れ

接触角と濡れ

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 主な用語の概説

 マクロ腐食電池(macro-galvanic cell)
 マクロセルともいわれ,アノードとカソードがはっきりと区別できる程度の大きさをもち,その位置が固定されている腐食電池をいい,異種金属接触電池,通気差電池などがこれに属する。【JIS Z 0103「防せい防食用語」】
 濃淡電池腐食(concentration cell corrosion)
 読み「のうたんでんちふしょく」,金属表面に接触する水溶液中のイオンや溶存酸素の濃度が局部的に異なるために生じた電池による腐食。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
 濃淡を原因とする電位差で生じた電池(マクロ腐食電池)による腐食で,広義の電池作用腐食(ガルバニック腐食;galvanic corrosion)の一種である。なお,酸素の濃淡電池形成の場合を通気差腐食(differential aeration corrosion)などともいう。 
 通気差腐食(differential aeration corrosion)
 読み「つうきさふしょく」,溶存酸素濃度の差異によって生じた電池による腐食。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
 すき間腐食(crevice corrosion)
 濃淡電池腐食(concentration cell corrosion)の一種で,金属又は金属と他の材料との間にすき間が存在する場合,すき間の内外においてイオン,酸素などの濃淡電池が構成されて生じる腐食。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
 酸素の濃淡のみで生じる濃淡電池は通気差電池(differential aeration cell)といわれ,これによる腐食を通気差腐食(differential aeration corrosion)という。
 ネルンストの式(Nernst equation)
 酸化還元反応: ox + ze- ⇆ red
が平衡状態の時,基準電極(標準水素電極)との電位差 E (平衡電極電位)を与える次式をネルンストの式という。
      E = E0 + ( RT /zF ) ln ([ox] /[red] )
 ここで,E0 :標準電極電位,R :気体定数( 8.314 JK-1mol-1 ),T :熱力学的温度( K ),z :酸化還元反応にて授受される電子数,F :ファラデー定数( 96,485 C mol-1 ),ln :自然対数,[ox] :酸化型の化合物の活量,[red] :還元型の化合物の活量である。なお,25 ℃の時は,RT /F = 0.0592 となる。
 電荷保存則(law of conservation of charge)
 電荷保存則,電気量保存の法則,電気中性条件ともいい,確認できる全ての反応(化学反応,原子核反応,粒子の崩壊・対生成・対消滅など)で電荷が保存されない事例が発見されていないという経験的事実から導き出された“電荷の総量は永遠に変わらない → 閉じた系の正・負の電荷の代数和は常に一定”という法則である。
 界面張力(interfacial tension)
 二つの相が接するとき,単位面積当たりの界面自由エネルギー。【JIS K 3211「界面活性剤用語」】 気・液界面の場合は,一般的には表面張力という。
 界面自由エネルギー( surface free energy )とは,“液体や固体の界面が内部に比べ過剰にもっている自由エネルギー”。【JIS K 3211「界面活性剤用語」】
 表面張力(surface tension)
 液体の表面に作用する表面積をできるだけ小さくしようとする力。液体表面の単位面積当たりの自由エネルギーで表す。【JIS K 3211「界面活性剤用語」】
 互いに接する 2相の界面において,それら2相の接触面積を現象する向きに作用する力。【JIS H0400「電気めっき及び関連処理用語」】

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