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 鉄及び鋼

 ステンレス鋼

 ステンレス鋼(Stainless steel)は,高濃度のクロム(Cr),ニッケル(Ni)を含む合金鋼で,「不銹鋼」(ふしゅうこう),「ステンレス」,「ステン」や「サス」とも呼ばれる。
 JIS G 0203「鉄鋼用語(製品及び品質)」では,ステンレス鋼を“クロム含有率を 10.5%以上,炭素含有率を 1.2%以下とし,耐食性を向上させた合金鋼。常温における組織によってマルテンサイト系,フェライト系,オーステナイト系,オーステナイト・フェライト系及び析出硬化系の 5 種類に分類される。”と定義している。
 
 ステンレス鋼は,含有するクロム(Cr)が空気と触れることで,酸化して鋼表面に緻密な不動態皮膜を形成することで優れた耐食性を示す鋼として知られている。
 ステンレス鋼の不動態皮膜は数nm(ナノメートル,10-9m)程度のごく薄いクロムの含水水酸化物で構成されている。
 不動態(passive state)とは,標準電位列で卑な金属であるにもかかわらず,電気化学的に貴な金属であるような挙動を示す状態をいう。
 一般的には,金属をとり囲む環境の影響で,電気化学列で卑な金属(腐食しやすい金属)が,表面を酸化物で覆われるなどして本来の活性を失い,貴な金属のように挙動する状態を不動態といい,この状態になることを不動態化(passivity)と理解されている。
 不動態化は,酸化力のある酸にさらされた場合,陽極酸化処理によっても生じる。不動態となる酸化被膜(不動態被膜)の典型的な厚みは,数 nm である。
 すべての金属が不動態となるわけではなく,不動態になりやすいのは,アルミニウム,クロム,チタンなどやその合金である。
 ステンレス鋼は,金属組織の違いから次の5つに分類される。

  1. マルテンサイト系ステンレス鋼 (martensitic stainless steels)
  2. フェライト系ステンレス鋼 (ferritic stainless steels)
  3. オーステナイト系ステンレス鋼 (austenitic stainless steels)
  4. オーステナイト・フェライト二相ステンレス鋼 (austenitic-ferritic duplex stainless steels)
  5. 析出硬化ステンレス鋼 (precipitation hardening stainless steels)
 これらの品質については,JIS G 4304「熱間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯:Hot-rolled stainless steel plate, sheet and strip」に規定されている。
 ステンレス鋼の代表的なものとして,オーステナイト系の18%クロム(Cr)8%ニッケル(Ni)の(18-8)ステンレス鋼(SUS304)が知られている。その他にも,ステンレス鋼には次に例示する材料がある。


マルテンサイト系ステンレス
記号 化学成分(%)の例
Ni Cr その他
   SUS403       ―       11.5~13       ―   
  SUS420    ―    12~14    ― 

フェライト系ステンレス
記号 化学成分(%)の例
Ni Cr その他
   SUS405       ―      11.5~14.5    Al (0.1~0.3) 
  SUS430    ―    16~18    ― 

オーステナイト系ステンレス
記号 化学成分(%)の例
Ni Cr その他
 SUS201    3.5~5.5    16~18    Mn(5.5~7),N(≦0.25) 
 SUS202    4~6    17~19    Mn(7.5~10),N(≦0.25) 
 SUS301    6~8    16~18    ― 
 SUS302    8~10    17~19    ― 
 SUS303    8~10    17~19    Mo(≦0.60) 
 SUS304    8~10.5    18~20    ― 
 SUS305    10.5~13    17~19    ― 
 SUS316    10~14    16~18    Mo (2~3) 
 SUS317    11~15    18~20    Mo (3~4) 
 SUS317    11~15    18~20    Mo (3~4) 

オーステナイト・フェライト系ステンレス
記号 化学成分(%)の例
Ni Cr その他
   SUS329J1      3~6      23~28      Mo (1~3)  

 ステンレス鋼に関する JIS 製品規格には, JIS G 4303「ステンレス鋼棒:Stainless steel bars」, JIS G 4304「熱間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯:Hot-rolled stainless steel plate, sheet and strip」, JIS G 4305「冷間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯:Cold-rolled stainless steel plate, sheet and strip」, JIS G 4308「ステンレス鋼線材:Stainless steel wire rods」,JIS G 4309「ステンレス鋼線:Stainless steel wire rods」, JIS G 4313「ばね用ステンレス鋼帯:Cold rolled stainless steel strip for springs」, JIS G 4314「ばね用ステンレス鋼線:Stainless steel wires for springs」, JIS G 4315「冷間圧造用ステンレス鋼線:Stainless steel wires for cold heading and cold forging」, JIS G 4316「溶接用ステンレス鋼線材:Stainless steel wire rods for welding」, JIS G 4317「熱間成形ステンレス鋼形鋼:Hot-formed stainless steel sections」, JIS G 4318「冷間仕上ステンレス鋼棒:Cold finished stainless steel bars」, JIS G 4319「ステンレス鋼鍛鋼品用鋼片:Stainless steel blooms and billets or forgings」, JIS G 4320「冷間成形ステンレス鋼形鋼:Cold-formed stainless steel sections」, JIS G 4321「建築構造用ステンレス鋼材:Stainless steel for building structure」, JIS G 4322「鉄筋コンクリート用ステンレス異形棒鋼:Stainless steel bars for concrete reinforcement」などがある。
 
 【参考資料】
 1)谷野満,鈴木茂「鉄鋼材料の科学―鉄に凝縮されたテクノロジー」内田老鶴圃(2006)
 2) 大澤直 『金属のおはなし』 日本規格協会,2008年
 3) 齋藤勝裕 『金属のふしぎ』 ソフトバンククリエイティブ,2009年

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