第三部:化学反応 化学反応とエネルギー

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  ここでは,化学反応における内部エネルギーとエンタルピーに関連し, 【内部エネルギーとは】, 【エンタルピーと内部エネルギー】に項目を分けて紹介する。

  内部エネルギーとは

 ここでは,化学反応によるエネルギー変化など熱力学による解説の理解を助けるため,基本となる内部エネルギー,エンタルピーについて,その概念などの要旨を紹介する。
 内部エネルギー( internal energy )
 系の全体が持っているエネルギー(運動エネルギー+位置エネルギー)を示し,一般的には記号 U で表される。
 相互作用が無く,大きさを持たない粒子で仮想される理想気体においては,平衡状態の内部エネルギー U は,次式で与えられる。
      U = N c R T
      ここで,物質量 N ,比例係数 c (=気体分子の自由度 ÷ 2 ),気体定数 R ,熱力学的温度 T

 しかし,実用気体では,構成粒子が大きさ(体積)を有すると共に,無視できない程度の粒子間相互作用を有するため,理想気体とは異なり,物質量,温度のみで内部エネルギーの絶対値を求めることができない。
 実際に求めることができるのは,状態に変化が生じた時の内部エネルギーの変化量である。

 ここで,状態が変化した時の内部エネルギー変化Δ U で表した場合に,変化量は,系に与えられた熱 Q から系が成した仕事 W を差し引いたものと考えることができるので,
      Δ UQW
となる。これは,【熱運動】で紹介したエネルギー保存則(熱力学第一法則)と同じである。
 ここで,平衡状態が,圧力 P0 が変化しない条件(等圧過程で,別の状態に遷移した場合には,系が成した仕事 W は,体積変化Δ V と圧力 P0 から,
     W = P0 Δ V
とできる。
 従って,内部エネルギー変化量 Δ U は,
      Δ UQ - P0 Δ V
となり,系に与えた熱量で書き換えると,
      QΔ U + P0 Δ V
となる。

 【参考】
 ( system )
 考察の対象として,注目する部分を系という。系には,物質とエネルギーの出入りが許される開放系( open system ),エネルギーの出入りは許されるが,物質の出入りが許されない閉鎖系( closed system ),及び物質とエネルギーの出入りが許されず,外界から完全に独立した孤立系( isolated system )に分けられる。
 仕事( work )
 エネルギーは,“物体や系が持つ仕事をする能力”と定義され,仕事の前後のエネルギー差( dE )が仕事 W に相当する。
 物理学においては,力 F を受けた物体が,力の方向に x 移動(変位)した時に,ベクトルの力と変位の積(内積)を,その力のした仕事 W(=Fx )という。
 熱力学における仕事は,対象の系と周囲(外界)との間でやり取りするエネルギーである。等温定圧過程(系の温度と圧力が一定での状態変化)で取り出せる仕事は,体積変化を伴う膨張仕事,電気仕事や光仕事などの体積変化を伴わない形態の非膨張仕事に分けられる。

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  エンタルピーと内部エネルギー

 エンタルピー( enthalpy )は,熱含量( heat content )とも言われ,一般的には記号 H で表される。
 系の圧力 P ,体積 V とし,内部エネルギーを U としたとき,エンタルピーH は,次のように定義される。
      H = U + P V
 ここで,平衡状態が,圧力( P0 )が変化しない条件(等圧過程で別の状態に遷移した場合のエンタルピー変化 Δ H は,
      Δ HΔ( U + P0 V )
となる。一方,等圧過程なので,圧力は状態遷移の前後で変わらないので,この式は,
      Δ H = Δ U + P0 Δ V
となる。前述の内部エネルギーで示した等圧過程の式と比較すると,
      Δ H Q
となる。すなわち,系のエンタルピー変化量Δ H は,系に与えられた熱量 Q となる。

 従って,系の内部エネルギー変化量Δ U は,系のエンタルピー変化量Δ H を用いて,
      Δ U ΔH - P0 Δ V
で表すことができる。

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