第二部:物質の状態と変化 液体への溶解(基礎)

  ☆ “ホーム” ⇒ “生活の中の科学“ ⇒ “基礎化学(目次)“ ⇒

  ここでは,溶液の濃度について, 【溶質が固体の場合の濃度調整】, 【物質量濃度(モル濃度)】, 【質量濃度(質量体積パーセント濃度)】, 【質量分率(質量パーセント濃度)】  に項目を分けて紹介する。

 濃度調整: 溶質が固体の場合

 物質の計量では,固体の場合には秤を用いた質量の計測が,液体の場合は,質量又は体積測定が一般的である。
 特に,溶液濃度を精度高く求める場合は,計量中の溶媒揮発の影響が少ない密栓できるメスフラスコなどの受け容積が計れる体積計を用いることが多い。

 溶質が固体の場合には,溶質の質量を天びん(はかり)で測定し,混合後の溶液の体積を体積計で計測するのが一般的である。この場合の濃度は,物質量濃度(モル濃度),質量濃度(質量体積パーセント濃度)や質量分率(質量パーセント濃度)で表示することが多い。

 【参考】
 質量( mass )
 物体の動かし難さの度合いを表す量で,その定義は力学の歴史とともに推移している。物理学的には厳密には,運動の法則で動かし難さから定義される慣性質量(inertial mass),万有引力の法則で定義される重力質量(gravitational mass)がある。
 重量( weight )
 重さともいわれ,物体に働く重力(慣性力)の大きさをいい,重力は重力加速度により異なるので,重さは物体固有の性質ではない。すなわち,重力が異なる場所では,同じ物体でも重さは異なる。
 普段に何げなく用いられる用語であるが,質量とは定義が明確に異なるので混同は禁物である。
 恒量 ( constant weight )
 同一条件の下で,物質を加熱・放冷・ひょう量などの操作を繰り返したとき,前後の質量の計量差が規定の値以下となった状態。( JIS K 0211 2013 「分析化学用語(基礎部門)」)
 溶媒( solvent )
 溶液において物質を溶解させるために用いる液体。( JIS K 0211 2013 「分析化学用語(基礎部門)」)
 固体,液体,気体を溶かす液体の呼称である。工業分野では,溶媒より広い意味合いを持たせた溶剤と呼ぶ。溶媒は,目的物質を良く溶かすこと,安定で溶質と化学反応しないことが求められる。
 溶媒は,極性(親水性)と無極性(疎水性)とに大別され,さらに,極性溶媒はプロトン性と非プロトン性とに分類される。
 溶質( solute )
 溶液における溶媒以外の化学種。( JIS K 0211 2013 「分析化学用語(基礎部門)」)
 一つの溶液において,溶かされた成分を溶質という。溶質は,固体,液体,気体のいずれでもよい。 溶媒への溶解性は,経験則として「似た者同士の相性が良い」と言い表せられるように,無極性分子は無極性溶媒に,極性分子は極性プロトン性溶媒に溶け易いと考えて大きな問題はない。
 受け容積( content volume )
 全量フラスコ,メスシリンダーなどの体積計に表示された体積となるように目盛られた標線まで満たされた液の体積。( JIS K 0211 2013 「分析化学用語(基礎部門)」)

 ページのトップへ

 物質量濃度(モル濃度)

 JIS K 0211 2013 「分析化学用語(基礎部門)」
 物質量濃度,モル濃度( molarity )
 溶液 1 L 中に含まれる溶質の物質量。要素粒子を明記する。

 溶液の滴定分析,化学反応に関わる実験や反応機構など考える際には,溶液 1 L 中に含まれる溶質の物質量としての物質量濃度で表示するのが便利である。
 物質量濃度は,全体の体積(溶媒+溶質)に対する溶質のモル数で表す。単位は,SI (国際単位系)表示では mol / m3 であるが,実用では,直観的に把握しやすい JIS の定義に沿った mol / L (モル/リットル)を用いる例が多い。
 なお,体積は温度で変化するので,用いる器具の検定時の温度で計測する。例えば,ビュレット,メスピペット,全量ピペット,全量フラスコ,首太全量フラスコ,メスシリンダー及び乳脂計などの正確な体積を求める際に用いられるガラス製体積計を規定するJIS R35051994 「ガラス製体積計」の「 6.目盛 (1)」には,“目盛は 20℃の水を測定したときの体積を表すものとして付されていること。”と定義されている。
 従って,JIS K 0050 「化学分析方法通則分析場所の状態」の標準条件( 20℃,65%RH )以外で濃度調整した場合には,温度補正が必要になった場合に備えて,濃度調整時の温度を明記しなければならない。

 ここでは,具体例として,溶媒に約 1 L (リットル)の水を用い,固体溶質として結晶水を持たない塩化ナトリウム( NaCl )を用いた塩化ナトリウム水溶液,結晶水(水和水)を持つ硫酸銅(Ⅱ)五水和物( CuSO4・5H2O )を用いた硫酸銅水溶液の濃度の求め方について紹介する。
 例 1 塩化ナトリウム水溶液
 20℃で 1 L (リットル)のメスフラスコ(許容誤差 0.4 mL )に,塩化ナトリウムを 100 g 入れ,適当量の水を加え,塩化ナトリウムが溶解したのを確認してから,メスフラスコの目盛線の上縁とメニスカス(液面の屈曲)の最深部が一致するまで水を加えた時のモル濃度は,塩化ナトリウムの式量( 58.44 )を用いて,100 / 58.44 mol / L = 1.711 mol / L = 1711 mol / m3 となる。
 例 2 硫酸銅水溶液
 溶質が結晶水(水和水)を持つような化合物でも,次に紹介する質量濃度や質量分率とは異なり,結晶水の量を考慮する必要はなく,対象とする溶質のモル数のみを計算すればよい。
 例えば,硫酸銅(Ⅱ)五水和物の質量( A ),式量( 249.6 )では,硫酸銅(Ⅱ)五水和物 249.6g で硫酸銅(Ⅱ) 1 mol になるので,硫酸銅(Ⅱ)のモル濃度は, A / 249.6 mol / L = ( A / 249.6 ) × 103 mol / m3 となる。

 【参考】
 標準状態(物理)( normal state )
 気体の標準状態には,基準の温度を 25℃(298.15 K)とする SATP (標準環境温度と圧力: standard ambient temperature and pressure ),基準の温度を 0℃( 273.15 K)とする STP (標準温度と圧力: standard temperature and pressure )である。
 気体の標準状態としては,現在は試験室環境に近い SATP ( 25 ℃ 100kPa )の使用が多い。しかし,気体関連のJIS 規格,日本の高等学校教育などでは STP ( 0 ℃ 100kPa )を標準状態とする場合がある。なお,1990年以前の圧力は,1気圧= 101.3325kPa を用いていた。
 標準状態(試験場所)( standard atmospheric conditions )
 JIS K 0211「分析化学用語(基礎部門)」
 標準状態(気体の)を“大気圧 101.325 kPa,気温 0 ℃の下に保持された状態。NTP( Normal Temperature and Pressure )と略記される。”と定義している。
 JIS Z 8703「試験場所の標準状態」( ISO 554 : Standard atmospheres for conditioning and/or testing−Specifications)
 標準状態を次のように定義している。
 標準状態は,標準状態の気圧のもとで標準状態の温度及び標準状態の湿度の各一つを組み合わせた状態とする。
  ★ 標準状態の温度は,試験の目的に応じて 20℃,23℃,又は 25℃のいずれかとする。
  ★ 標準状態の湿度は,相対湿度 50%又は 65%のいずれかとする。
  ★ 標準状態の気圧は,86kPa 以上 106kPa 以下とする。
 JIS K 0050 「化学分析方法通則分析場所の状態」
 分析場所の状態は,次による。
  a) 温度 : 標準温度は,20 ℃とする。分析場所の温度は,常温(20±5)℃又は室温(20±15)℃のいずれかとする。冷所とは,1 ℃∼15 ℃の場所とする。
  b) 湿度 : 標準湿度は,相対湿度 65 %とする。分析場所の湿度は,常湿(65±20)%とする。
  c) 気圧 : 分析場所の気圧は,86 kPa∼106 kPa とする。

 ページのトップへ

 質量濃度(質量体積パーセント濃度)

 JIS K 0211 2013 「分析化学用語(基礎部門)」
 質量濃度( mass concentration )
 溶質の質量を混合物の体積で除したもの。

 質量濃度は,全体の体積(溶媒+溶質)に対する溶質の質量で表す。単位は,SI 表示で kg / m3 であるが,数値を変えずに,直観的に把握しやすい g / L (グラム/リットル)を用いる例が多い。なお,前述したように,体積は温度で変化するので,JIS K 0050 「化学分析方法通則分析場所の状態」の標準条件( 20℃,65%RH )以外で濃度調整した場合には,温度補正が必要になった場合に備えて,濃度調整時の温度を明記しなければならない。
 なお,質量体積パーセント濃度で表示する場合は,g / ml 表示時の数値に対し,その百分率で表示する。

 ここでは,具体例として,溶媒に約 1 L (リットル)の水を用い,固体溶質として結晶水を持たない塩化ナトリウム( NaCl )を用いた塩化ナトリウム水溶液,結晶水(水和水)を持つ硫酸銅(Ⅱ)五水和物( CuSO4・5H2O )を用いた硫酸銅水溶液の濃度の求め方について紹介する。
 例 1 塩化ナトリウム水溶液
 20℃で 1 L (リットル)のメスフラスコ(許容誤差 0.4 mL )に,塩化ナトリウムを 100 g 入れ,適当量の水を加え,塩化ナトリウムが溶解したのを確認してから,目盛線まで水を加えることで,質量濃度 100 kg / m3 の( 10 wt / Vol %)の塩化ナトリウム水溶液 1 ± 0.0004 L を得ることができる。
 例 2 硫酸銅水溶液
 溶質が結晶水(水和水)を持つ化合物では,結晶水を除いた量を溶質の量としなければならない。
 例えば,硫酸銅(Ⅱ)五水和物では結晶水を除いた硫酸銅(Ⅱ)の質量を計算して濃度を求めなければならない。すなわち,20℃で 1 L (リットル)のメスフラスコ(許容誤差 0.4 mL )に,硫酸銅(Ⅱ)五水和物を質量( A g)加えてメスアップした場合には,硫酸銅(Ⅱ)五水和物の式量( 249.6 ),硫酸銅(Ⅱ)の式量( 159.6 )から,硫酸銅(Ⅱ)の濃度は,硫酸銅(Ⅱ)の質量を 0.615 A ( = A × 159.6 / 249.6 )として計算するので,質量濃度 0.615 A kg / m3 となる。

 ページのトップへ

 質量分率(質量パーセント濃度)

 JIS K 0211 2013 「分析化学用語(基礎部門)」
 質量分率,質量パーセント濃度( mass fraction )
 質量単位を用いて表したある成分の全体に対する比率。質量分率 0.123,質量分率 12.3 %などと表す。

 質量分率は,全体の質量(溶媒+溶質)に対する溶質の質量の比( kg / kg )で表示する。質量パーセント濃度で表す場合は,百分率を質量分率 X %,又は X wt %と表示する。

 ここでは,具体例として,溶媒に約 1 L (リットル)の水を用い,固体溶質として結晶水を持たない塩化ナトリウム( NaCl )を用いた塩化ナトリウム水溶液,結晶水(水和水)を持つ硫酸銅(Ⅱ)五水和物( CuSO4・5H2O )を用いた硫酸銅水溶液の濃度の求め方について紹介する。
 例 1 塩化ナトリウム水溶液
 1 kg の水に,塩化ナトリウムを 100 g 溶解した時の質量分率( wt %)は,
      0.1 / ( 1 + 0.1 ) ≒ 0.0909 ( kg / kg ) = 0.909
となる。
 なお,この溶液の質量は 1.1 kg である。9 wt %の塩化ナトリウム水の密度(25℃)約 1061 kg / m3 から,25 ℃での溶液の体積は,1.1 / 1061 = 0.001037 m3 = 1.037 L と計算される。
 一方,塩化ナトリウム固体 100 g の体積は,塩化ナトリウムの密度( 2180 kg / m3 = 2.18 g / ml)から,100 / 2.18 ≒ 45.9 ml と計算され,水 1 ㎏の 25 ℃での体積(997.044 ml )とを合計した体積 1.0429 L より,溶液の体積( 1.037 L )は小さくなる。
 質量濃度で例示した方法で試料を作成した場合は,その温度での溶液の密度( ρ kg / m3 )を計測することで,質量濃度 X kg / m3 は,X / ρ ( kg / kg ) で質量分率に換算できる。
 例 2 硫酸銅水溶液
 溶質が結晶水(水和水)を持つ化合物での考え方は,結晶水を除いた量を溶質の量とし,用いた水の量に結晶水を加えた量を溶媒の量とする。
 実質的には,結晶水量を溶質の質量,溶媒の質量の何れに考えても全体の質量は変化しないので,質量濃度の場合と同様に,結晶水を除いた量を溶質の量として計算すればよい。
 硫酸銅(Ⅱ)五水和物では,硫酸銅(Ⅱ)五水和物の質量( A ),水の質量( B )とした時,水和物の式量( 249.6 ),硫酸銅(Ⅱ)の式量( 159.6 )から,溶質の質量は 0.615 A ( = A × 159.6 / 249.6 )となり,質量分率( wt %)は,
      100 × 0.615A / [ ( B + 0.385A )+ 0.615A ]= 100 × 0.615A / ( B + A )
となる。

  ページの先頭へ