第二部:物質の状態と変化 コロイド溶液

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  ここでは,溶媒に物質が分散している【コロイドとは】, 【コロイド分散系の種類】, 【コロイド溶液の分類】  に項目を分けて紹介する。

  コロイドとは

 一般的には,コロイド( colloid )とは,コロイド粒子( colloidal particle )が均質な媒質中に分散し,安定した状態にある系(分散系という)についていう。
 コロイド粒子は,直径 1 ~ 500 nm ( 10-9 ~ 5 × 10-7 m ) 程度と非常に小さい微粒子あるいは分子(巨大分子)をいう。
 原子半径は, 0.1 nm 程度であることを考慮すると,コロイド粒子を構成する原子は,103 ~ 109 で構成されていると考えられる。
 すなわち,コロイド粒子は,通常の光学顕微鏡では観察できず,通常のろ過で用いるろ紙では分別できない大きさである。分別しようとした場合には,概ね 1 ~ 10 nm の孔径を持つ限外ろ過膜などの半透膜を用いなければならない。
 コロイド粒子の形状観察(球状,棒状,板状,繊維状,膜状と種々の形状)には,特殊照明による微粒子の散乱光の観察できる限外顕微鏡や分解能 1 nm 以下の透過型電子顕微鏡 ( TEM ) などが必要となる。

 【参考】
 限外顕微鏡( ultramicroscope )
 暗視野顕微鏡ともいい,対物レンズに直接光が入らない照明装置で試料を照射し,暗視野中に輝く(チンダル散乱光)微粒子を観察する顕微鏡。通常の光学顕微鏡の限界分解能は約 0.25μmであるが,限外顕微鏡では 0.005μm程度まで確認できる。
 それまでの透過光線では,均一に見えていたコロイドの不均一性が明らかにされ,コロイド化学の発展に大きな貢献をした。
 透過型電子顕微鏡(TEM ; transmission electron microscope )
 TEM と略され,数十 kV から数百 kV の電子線がもつ波の性質を利用して物質の透過像を拡大する顕微鏡。【JIS K 0215「分析化学用語(分析機器部門)」】
 薄箔に加工した試料や粉末試料を透過した高速の電子が作る像を拡大観察する電子顕微鏡である。すなわち,試料の構造や構成成分の影響で透過する電子の密度変化を顕微鏡像として観察している。

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  コロイド分散系の種類

 分散系は,コロイド粒子(分散質:dispersoid ,分散相ともいう)が均質な媒質(分散媒 :dispers medium)に分散している系であるが,分散媒と分散質の状態(気体,液体,固体)により,次のように区分されている。
 分散媒気体
 分散質が気体の場合は,混合気体となり,コロイド分散系には分類されない。
 分散質が液体(霧,もや,リキッドスプレーなど),固体(煙,ほこりなど)の場合は,エアロゾル( aerosol ,エーロゾルともいう)と称する。
 さらに,液体の場合をリキッドエアロゾル,固体の場合をソリッドエアロゾルと分類する場合もある。

 分散媒液体
 分散媒が液体のものを総称して,ゾル( sol )又はコロイド溶液( colloidal solution )と称す。
 分散質が気体の場合は,泡( foam )と称し,身近な例には,シェービングフォームなどがある。
 分散質が液体の場合は,エマルション( emulsion ,乳濁液や乳剤ともいう)と称し,身近な例には,牛乳,マヨネーズ,木工用接着剤,エマルション塗料などがある。
 分散質が固体の場合は,サスペンション( suspension ,懸濁液ともいう)と称し,身近な例には,墨汁,泥水,絵の具,合成樹脂塗料,インキなどがある。

 分散媒固体
 分散媒が固体のものを総称して,固体コロイドと称す。
 分散質が気体の例(ソリッドフォーム)には,発泡スチロール,活性炭などがある。
 分散質が液体の例(ゲルという場合もある)には,ゼリーやゼラチンなどがある。
 分散質が固体の例(ソリッドゾル)には,色ガラス,合金,塗膜などがある。

 ゾル( sol )ゲル( gel )
 液体を分散媒とするコロイドをゾルと称し,固体分散媒のコロイドをソリッドゾル,気体分散媒のコロイドをエアロゾルと言う。
 分散媒自体は液体であっても,分散質の高分子化などで流動性を失い固体のように振舞うコロイドをゲルと呼ぶ。固体分散媒のコロイド(ソリッドゾル)をゲルに含めることもある。

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  コロイド溶液の分類

 分散媒が液体のコロイド溶液は,分散質の状態などで,次のように分類される。
 分散質の構造・特性による分類
 コロイド粒子の構造・特性により,分子コロイド( molecular colloid )相コロイド( phase colloid )に分類される。相コロイドは,さらに,コロイド粒子の構造の違いで,会合コロイド( association colloid )分散コロイド( dispersed colloid )に分類できる。
 分子コロイド
 高分子コロイド( polymer colloid )とも呼ばれ,分子量の大きい高分子が単独で分散する。この分散系の研究は,主に高分子化学という学問分野で扱われる。
 会合コロイド
 複数の分子やイオンが集まって(会合),コロイド粒子の大きさまでなったものである。例えば,洗剤などの界面活性剤分子は,溶液中の濃度がある量( 100 分子程度)を超えると,ミセル( micelle )と呼ばれる会合体を作る。
 分散コロイド
 分散媒に対し,不溶性物質の微結晶や凝集物などが分散している。この形態が実用的なコロイド溶液の多くを占めている。分散コロイドは熱力学的に不安定な系なため,容易にコロイド状態を破壊(塩析など)できる。

 水を分散媒とするコロイドの分類
 を分散媒とする場合に,電解質の投入で沈殿(凝析という)しやすいものを疎水コロイド( hydrophobic colloid ),沈殿しにくいものを親水コロイド( hydrophilic colloid )に区分される。
 水中のコロイド粒子は,次の項で紹介するように,粒子表面が帯電(電気二重層)することで,粒子間の静電的反発により凝集せずに安定して存在することができる。このため,電解質を投入すると,表面電荷のバランスが崩れ,粒子同士の凝集により沈殿する。
 親水コロイドの場合は,表面電荷の他に,多数の水分子が粒子表面に配位(溶媒和,水和)しているため,その立体的な障害により粒子間の距離が保たれ安定化する。
 加えて,親水コロイドで疎水コロイドを取り囲み,凝析を防ぐ形態の物がある。この場合の親水コロイドを特に保護コロイド( protective colloid )と呼ぶ。/strong>保護コロイドの例には,マヨネーズの卵黄,墨汁の膠(にかわ)などが相当する。
 一般的には,疎水コロイドには無機物質の分散コロイドが多く,親水コロイドには有機物質による分子コロイドや会合コロイドが多い。

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