第二部:物質の状態と変化 コロイド溶液

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  ここでは,コロイド溶液の特徴的な現象について,【ブラウン運動】, 【チンダル現象】, 【電気泳動】, 【透析】  に項目を分けて紹介する。

  ブラウン運動

 媒質中に分散させた粒子は,浮力と重力のバランスにより,比較的短い時間で,重力が勝ると沈降し,浮力が勝ると浮上するのが一般的である。しかし,コロイド粒子は,媒質中に長時間均質な状態で浮遊できる。この要因の一つが,コロイド粒子のブラウン運動と考えられる。
 ブラウン運動は,イギリスの植物学者ブラウンが,1827 年に水中の花粉が破裂し,流れ出た粒子の運動を観察し発見した現象で,分散媒中のコロイド粒子が,媒質分子の熱運動で,粒子が不規則に運動する現象である。
 ブラウン運動によるコロイド粒子の運動は,次式で表される。

      < ( X - X0 )2 > / t = 2 RT / ( NA f )
  ここで,< ( X - X0 )2 > は t 時間後の粒子の平均位置からのずれの二乗平均を示し,R は気体定数,T は絶対温度,NA はアボガドロ数,f は移動度(mobility;媒質の粘度とコロイド粒子径に比例)を示す。

 ブラウン運動の式から,ブラウン運動による拡散の速さ(移動距離/時間)は,温度が高いほど,媒質の粘度やコロイド粒子系が小さいほど速くなることが分かる。
 ブラウン運動の特徴を要約すると,不規則な運動,粒子の独立した運動,永続的運動,温度が高くなるほど激しく運動,コロイド粒子が小さいほど激しく運動するなどである。
 一般的には,半径 100 nm 以下でブラウン運動の影響が顕著になり,コロイド粒子の沈降の速度がかなり遅くなる。
【参考】
 移動度(mobility)
 易動度ともいう。粒子に力が働くとその方向への流れ運動が起きるが,流れの速度は力の強さに比例し,比例係数fを移動度と呼ぶ。

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  チンダル現象

 チンダル現象( Tyndall effect )
 イギリスの物理学者ジョン・ティンダル( 1820 ~ 1893年)が発見したコロイド溶液の側面から強い光(光束)を当てると,粒子で光が散乱(ミー散乱)し,光路を観察できる現象である。
 チンダル現象は,コロイド粒子による光の散乱現象で,散乱光の強さは粒子の体積の 2 乗に比例する。従って,原子やイオンレベルの粒子では,肉眼で観察できるほどの散乱に至らないが,コロイド粒子の大きさで肉眼観察が可能になる。

 多くのコロイド溶液は濁ったものであるが,中には透明なコロイド溶液(可溶化)もある。一般的に,透明な溶液が可溶化したコロイド溶液なのか,分子レベルで溶解した溶液なのかを判別する手段の一つに,チンダル現象の確認方法がある。

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  電気泳動

 【疎水コロイド】電気二重層で紹介したように,コロイド粒子の表面は,正あるいは負に帯電している。
 コロイド溶液に電極を入れて,電圧をかけると,コロイド粒子は表面電荷と反対符号の極へと移動する。この現象を電気泳動( electrophoresis )という。
 この現象は,コロイドの表面の電荷,粒子の大きさ, 形状, 加えた電圧,溶液の pH ,温度などに影響される。すなわち,この現象を利用することで,異なるコロイド粒子を分離・精製できる。
 電気泳動を利用した実用技術には,臨床検査での血清タンパク質の分析,DNA 断片の分離・分析,タンパク質の分析や DNA の塩基配列決定など,科学捜査でのDNA型鑑定などが広く知られている。

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  透析

 【浸透圧】で紹介したイオンを透過できない半透膜より大きな細孔を持つ半透膜,すなわち,溶媒和したイオンは透過できるが,コロイド粒子が透過できない程度の細孔を持つ半透膜を選択(例えば,高分子膜,セロハン膜やコロジオン膜)した場合,コロイド溶液から小さいイオンや分子を除き,コロイド粒子のみが濃縮した溶液を得ることができる。この操作を透析( dialysis )という。
 人体の腎臓は,透析現象を利用し,人体に必要な血球,血小板,タンパク質などのを通さず,血液中の老廃物(尿素など)のみを取り除いている。腎臓の機能が衰えた場合に,この現象を利用した治療(人工透析)が行われている。

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