第二部:物質の状態と変化 コロイド溶液

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  ここでは,水を媒質とするコロイドの一種である【親水コロイドとは】, 【分子コロイド】, 【会合コロイド】  に項目を分けて紹介する。

  親水コロイドとは

 親水コロイド( hydrophilic colloid )
 水を分散媒とする場合に,電解質の投入で沈殿(凝析という)しやすいものを疎水コロイド(hydrophobic colloid ),沈殿しにくいものを親水コロイドに区分される。

 分散質の安定化では,粒子表面に電気二重層を形成する方法の他に,粒子表面を分散媒の分子で完全に覆い,熱運動での粒子同士の衝突において,ファンデルワールス力( Van der Waals force )が有効に作用する距離より離れた距離に維持する方法(立体障害)がある。分散媒が水の場合に,この方法で安定化するコロイドを親水コロイドという。
 一般的には,疎水コロイドには無機物質の分散コロイドが多く,親水コロイドには有機物質による分子コロイド会合コロイドが多い。そこで,分子コロイドと会合コロイドの概要を具体的な例を用いて紹介する。

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  分子コロイド

 分子コロイド
 高分子コロイド( polymer colloid )
とも呼ばれ,分子量の大きい高分子が単独で分散する。この分散系の研究は,主に高分子化学という学問分野で扱われる。ここでは,分子コロイドとして扱われるデンプン,タンパク質,ゴム樹液の高分子を紹介する。

 デンプン(澱粉: starch )
 デンプンは, ( C6H10O5 )n で表され,多数のα-グルコース分子(ブドウ糖: 5個の OH基を持つ環状化合物)がグリコシド結合( glycosidic bond )(糖分子と別の有機化合物とが脱水縮合して形成する共有結合)によって重合した高分子である。
 デンプンは,直鎖状で比較的分子量の小さいアミロースと枝分かれが多く分子量の大きいアミロペクチンに分けられる。
 デンプン水中に懸濁し加熱すると,デンプン粒の吸水による膨張,デンプン粒の崩壊でゲル状に変化する。この現象を糊化(こか)という。デンプンの糊化は,多数の水酸基を持つので,分子の隙間に水分子が入り込み,構造の緩みで各枝が水中に広がるために起こる現象で,デンプンの溶解ではない。
 なお,デンプンの特性を利用した用途には,増粘安定剤,コロイド安定剤,保水剤,ゲル化剤,粘結剤などがある。

 タンパク質(蛋白質: protein )
 タンパク質とは,20種類存在するアミノ酸( amino acid )が鎖状に重合した高分子化合物である。
 アミノ酸とは,アミノ基( −NH2カルボキシル基( −COOH )の両方の官能基を持つ有機化合物の総称である。タンパク質を構成するアミノ酸の数や種類,結合の順序などで,分子量約 4000前後から億単位(ウイルスタンパク質)まで多種類存在する。
 タンパク質の基本的な構造は, アミノ酸のカルボキシル基が別のアミノ酸のアミノ基と脱水縮合(ペプチド結合)し,酸アミド結合( −CO − NH− )を形成し鎖状に高分子化(ポリペプチド)したものである。
 鎖状のポリペプチドは,側鎖が相互作用で結びつきαヘリックスと呼ばれるらせん構造や水素と酸素残基が結合したシート状の構造など二次構造を作る。
 さらに,タンパク質全体として「三次構造」をとる。三次構造とは,二次構造の特定の組み合わせが局部的に集合したものである。
 人の全タンパク質の約 30 %を占め,真皮,靱帯,腱,骨,軟骨などを構成するタンパク質として知られるコラーゲン( Collagen )は,“―(グリシン)―(アミノ酸 A )―(アミノ酸 B )―”と,グリシン( glycine )が 3 残基ごとに繰り返す一次構造を有する。コラーゲンタンパク質分子を構成する 1 本のペプチド鎖の分子量は 10 万程度で,分子の長さ約 300 nm ,太さ 1.5 nm ほどである。
 グリシンは,グリココルとも言われ,最も単純な形(示性式: H2NCH2COOH )を持つアミノ酸である。

 ゴム樹液
 天然ゴムの原料は,ゴムノキの樹液に含まれる cis-ポリイソプレン( (C5H8)n :平均分子量 30万程度)を主成分とする物質である。
 コムの樹液中では水溶液に有機成分(タンパク質,アルカロイド,糖,油,タンニン,樹脂,天然ゴムを含む複雑な組成)が分散したラテックス( latex )として存在する。
 ラテックスとは,水中にポリマーの微粒子が安定に分散した系(エマルション)で,自然界に存在する乳状の樹液,又は界面活性剤で乳化させたモノマーを重合することによって得られる液を指す。

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  会合コロイド

 会合コロイド
 複数の分子やイオンが集まって(会合),コロイド粒子の大きさまでなったものである。例えば,洗剤などの界面活性剤分子は,溶液中の濃度がある量( 100 分子程度)を超えると,ミセル( micelle )と呼ばれる会合体を作る。

ドデカン酸塩の分子構造

ドデカン酸塩の分子構造

 石鹸とは
 身近な界面活性剤( surface active agent ,surfactant )として,石鹸を例に紹介する。石鹸は,やし油や牛脂などの油脂を原料とする。油脂とは,脂肪酸( R-COOH )とグリセリン( C3H5(OH)3 )とのエステル化合物である。
 油脂にアルカリ(例えば,水酸化ナトリウム NaOH )を加えて加熱することで,エステル結合( R – COO − R' )が加水分解し,グリセリンと界面活性剤である高級脂肪酸塩( R-COO-Na )に分解する。これに多量の塩を含む水(飽和食塩水など)を加えることで,高級脂肪酸塩が凝集するので,不純物と分離精製できる。
 油脂の加水分解で得られる高級脂肪酸は,原料にした油脂で異なる。例えば,やし油では炭素数 12 のドデカン酸(一般名ラウリン酸,分子量 200.32 )と炭素数 16 のヘキサデカン酸(一般名パルミチン酸)が得られる。
 牛脂を用いた場合には,パルミチン酸の他に,炭素数 18 のオクタデカン酸(一般名ステアリン酸)や炭素数 20 の cis – 9 - オクタデセン酸(一般名オレイン酸)が得られる。
 高級脂肪酸塩は,図に示す例のように,分子内に水との親和性に富む親水性( hydrophile )の部分と,水との親和性に乏しい疎水性( hydrophobic )の部分を持つ。このような構造の分子は,両親媒性( amphiphilic )とも呼ばれる。

 コロイド粒子の安定化
 分子コロイドや会合コロイドなど,親水コロイドは,多量の親水性官能基( -OH, -COOH, -CO- , -NH2 など)を持つ。コロイド粒子表面の親水性官能基が水分子(分散媒)を,【水素結合と分子の凝集】で紹介した効果で,強く引き付ける(水和)。
 この結果,コロイド粒子表面に多量に存在する水和水が立体障害になり,ファンデルワールス力による引力に逆らい,一定の距離を保つことができる。
 親水コロイドを疎水コロイドに加えると,疎水コロイドの表面に親水コロイドが付着し,疎水コロイドが凝析しにくくなる。加えた親水コロイドを保護コロイド( protective colloid )という。この例には,墨汁のニカワ,マヨネーズの卵黄などがある。
 親水コロイドの凝集では,親水基と水和水の水素結合を切り,粒子表面から水和水を取り除かなければならない。凝集させる方法には,多量の電解質添加や親水性の溶媒(アルコールなど)の添加がある。
 電解質のイオンは,親水性の官能基より水との相互作用が強いので,水中のイオン濃度を高くすることで,粒子の水和水を除去できるようになり,親水コロイドを凝集できる。この現象を塩析( salting out )という。
 実際には,疎水コロイドの凝集に必要な量よりはるかに多い量(例えば,5 mol/L 以上の高濃度の塩化ナトリウム水)の添加が必要である。

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