化 学 (物質の状態と変化)

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 【疎水コロイド】

 水を分散媒とする場合に,電解質の投入で沈殿(凝析という)しやすいものを疎水コロイド( hydrophobic colloid )という。 103 ~ 109の原子の集合体であるコロイド粒子が,水中に分散し安定したコロイド溶液になるためには,いくつかの条件が必要になる。
 第一に粒子が分解しないこと,例えば塩化ナトリウムの微粒子を水中に分散させても,直ちにナトリウムイオンと塩化物イオンに解離し,個々の水和イオンとして水に分散し,電解質溶液になってしまう。従って,コロイド粒子は,水に対して不溶性(又は難溶性)の物質であることが必要となる。
 第二に,粒子同士が衝突しても,凝集してさらに大きな粒子にならないこと,すなわち,分子間力で粒子同士が結合しないよう,粒子間に働く適切な斥力が必要である。
 凝集に抗する粒子間の斥力に粒子表面の帯電による静電的斥力を主にしているコロイドは,電解質の投入で凝析しやすい。この種のコロイドが疎水コロイドである。
 次には,疎水コロイドの分散の主要因である粒子表面の帯電現象について解説する。

分散質/分散媒界面の電荷発生

 分散質/分散媒の界面では,後述の過程を経てイオン(陽イオン,陰イオン)が発生する。発生したイオンの分散質表面への 吸着で,粒子の電位が決定する。
 分散質表面では,分散質の特性と分散媒の条件( pH ,電解質濃度など)に応じて,特定のイオンが強く吸着(優先吸着)する。この界面電荷を決定するイオンを電位決定イオンと呼ぶ。
 例えば,難溶性イオン結晶( AB )の場合,粒子界面で A ,B が発生する。分散媒中に他の物質由来の A が多ければ A の吸着が多くなり,粒子は正の電荷を持ち,で B が多けれは負の電荷を持つ。
 粒子が酸化物や 水酸化物の場合は,粒子表面のヒドロキシル基( OH基,水酸基ともいう,吸着した水和水を含む)が,分散媒の pH に応じて電荷を有する。 pH が高い場合は,H を 放出し – O となり,pH が低い場合には,H を取り込み – OH2 となる。
 すなわち,分散媒の pH により粒子界面の電荷は正や負に変わり, 0 になる pH がある。この pH を等電点( iep : iso-electric point ,無電荷点ともいう)といい,粒子の種類によって異なる。例えば, 酸化アルミニウム(α – Al2O3 )の等電点は pH 9.1 ,水酸化鉄 (Ⅱ)( Fe(OH)2 )で pH 12 ,マグネタイト( Fe3O4 )は pH 6.5 などである。
 有機系物質でカルボキシル基( – COOH ),フェノール性水酸 基( – OH ),アミノ基( – NH2 )のような官能基をもつ粒子では,これらの基が解離し電荷を持つ。
 タンパク質のような– COOH と – NH2両方を持つ粒子は,等電点を持ち pH が高い場合は負の電荷( - COO )を,pH が低い場合には正の電荷( - NH3 )を持つ。
 純水中の油滴,気泡のような疎水性物質でも,水の解離で生じた H, OH の影響で電荷を持つ。この場合に,H が水に対する親和性が 大きいため,疎水性物質の粒子は OH の優先吸着により負の電荷を持つのが一般的である。すなわち,酸化物を除く鉱物性の粒子は,負の電荷をもつことが多いと考えてよい。

電気二重層

 粒子の表面が帯電すると,その電荷と反対の電荷を持つイオン(対イオン)が集まり,粒子表面近くの濃度が高くなる。このようにして形成したコロイド粒子周りの層を電気二重層( charge double-layer )という。電気二重層の生成要因とその構造は次の通りである。
 【無機塩の水への溶解】で紹介したように,溶媒中のイオンは,その周りを比較的強い力で溶媒分子に取り囲まれている。このため,反対符号のイオンであっても,溶媒和半径以内には互いに近づけない。
 しかし,表面に電荷を持つ粒子の場合には,近づいた反対符号のイオン(対イオン)の粒子方向の溶媒分子が外れ,粒子表面に特異的な吸着をしていると考えられている。
 図に示すように,特異的なイオン吸着により,溶媒和イオンの半径程度の範囲に硬く結びついた層が存在する。この層をスターン層(イオン固定層ともいう)という。
 スターン層の外側には,粒子表面の電荷と静電的な釣り合いを採るため対イオンの豊富なイオン拡散層と呼ばれる層がある。

電気二重層(模式図)

電気二重層(模式図)

 コロイド溶液に電極を入れ,電界をかけた時,後述の【コロイド溶液の特徴】で紹介する電気泳動いう現象が起きる。電界に従って,コロイド粒子が移動するが,この時に,粒子回りのイオン拡散層には粒子と共に移動するイオンと,周りの溶液に取り残されるイオンとに分かれる。この境界をすべり面と呼び,すべり面の電位をゼータ電位(ζ 電位)という。

コロイド粒子の安定化

 電気二重層の存在により,分子間力(ファンデルワールス力)による引力に逆らい,一定の距離を保つことができる。
 すなわち,ファンデルワールス力に対して電気二重層による斥力が勝ると,互いの粒子は安定して分散状態を維持できるが,少量の電解質の添加で粒子の電荷が中和され,電気二重層による斥力が劣り,粒子同士はお互いに凝集する。この現象を凝析(凝結)という。
 分子間力は,コロイド粒子固有であるが,静電的反発力は電気二重層の厚さに依存する。電解質添加により,周囲のイオン分布が変化する。すなわち,分散媒中の対イオンが増えることで,コロイド粒子周辺の対イオンが粒子表面方向に押しやられ,電気二重層の厚さが減少する。この結果として,分子間力が強く働く距離まで粒子同士が近づき凝集してしまう。
 なお,凝集に必要な塩濃度は,そのイオン価数の 6 乗に反比例(シュルツ・ハーディの法則)する。
 同様の現象は,加熱によっても起きる。すなわち,加熱により粒子の熱運動が増大することで,衝突時の粒子間の距離が小さくなり,分子間力が強く作用し凝集する。

【参考】

● シュルツ・ハーディの法則( Schulze-Hardy rule )
 負に帯電する疎水コロイドの凝析における凝析価と添加した電解質の陽イオン価数との関係に関する経験則である。
 「コロイド帯電電荷と反対電荷を持つ電解質の添加によりコロイドは沈殿するが,この時の凝析価は一価の陽イオンを基準にして,イオン価数の6乗に反比例する」
●凝析価( coagulation value,flocculation value )
 コロイド溶液を一定時間内に凝結させる添加物質の最小濃度を,その物質のそのコロイド溶液に対する凝析価という。凝結価ともいわれる。

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