第二部:物質の状態と変化 気体の圧力

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  ここでは,気体の圧力などの諸性質の理解を助ける基本知識として,【圧力の測定】, 【気圧の測定】, 【低圧(真空)の測定】  に項目を分けて紹介する。

 圧力の測定

 圧力の測定は,大気圧付近の圧力を計るための器具(気圧計),大気圧を大きく超える圧力を計るための器具(圧力計),大気圧以下の圧力を測るための器具(真空計)に分けられる。
 工業用途に用いられる大気圧を超える圧力を計るための器具(圧力計)として,日本産業規格( JIS )にはアネロイド型圧力計が規定されている。
 JIS B 7505-1 アネロイド型圧力計−第1部:ブルドン管圧力計
 1 適用範囲
 この規格は,アネロイド型圧力計の中で,ブルドン管を弾性素子に用いてブルドン管の圧力による変形量を機械的に拡大して直接ゲージ圧力(基準圧との差圧)を測定する単針・同心の丸形指示圧力計(以下,ブルドン管圧力計という。)について規定する。
 6 種類
 6.1 測定圧力による種類 ブルドン管圧力計の測定圧力による種類は,圧力計,真空計及び連成計とする。
 なお,圧力計とは,正のゲージ圧力を測定するもの。真空計とは,負のゲージ圧力を測定するもの。連成計とは,正及び負のゲージ圧力を測定するもの。その目盛は,正のゲージ圧力を示す圧力部と,負のゲージ圧力を示す真空部とからなる。
 JIS B7505-2 アネロイド型圧力計−第 2 部:取引又は証明用
 1 適用範囲
 この規格は,計ることのできる圧力が絶対圧力で 0.1 MPa 以上 200.2MPa 以下,かつ,最小の目量が,計ることのできる最大の圧力と最小の圧力との差の 150 分の 1 以上のアネロイド型圧力計について規定する。この規格は,日本国内で取引又は証明に使用するものについて適用できる。ただし,蓄圧式消火器用の圧力計及びアネロイド型血圧計には適用しない。

圧力計の例

圧力計の例
写真出典:安藤計器製作所,入江(株),(株)シンクロンのHP

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  気圧の測定

 日本では気象業務法や各種法令で,気象観測には気象測器検定に合格した液柱型水銀気圧計,アネロイド型気圧計,又は電気式気圧計を用いることが規定されている。
 高い精度を必要としない産業用の圧力計などには,構造が簡単で堅牢なブルドン管気圧計が用いられている。
 液柱型水銀気圧計( mercury barometers )
 フォルタン水銀気圧計とも呼ばれ,一端を封じたガラス中空管( 80cm 以上)に水銀を満たし,解放端を水銀浴に倒立させる。すると,ガラス管の上部が真空(トリチェリの真空)になり,気圧に応じて水銀柱の高さが変動する。この原理は,1643年ころにイタリア人のエヴァンジェリスタ・トリチェリが発明したといわれている。
 アネロイド型気圧計( aneroid barometer )
 内部を減圧した円盤形,又は円筒形の金属製容器で,気圧の変動に応じて膨らんだり凹んだりする動きを針の動きに変えて気圧を記録する気圧計である。温度による影響が大きいため精密な測定はできないが,小型のものができるので,家庭用や携帯用としても広く用いられている。
 電気式気圧計( electric barometer )
 20世紀になり,半導体等を用いたセンサで気圧を記録する方法が用いられている。センサには,静電容量式のものと振動式のものとがある。
 静電容量式は,半導体のコンデンサを形成し,気圧による電極間の距離変化を静電容量の変化として記録するものである。
 振動式は,振動板に取り付けた圧電素子を用い,気圧の変化に伴う振動板の共振周波数の変化を記録するものである。 これらの気圧計は,センサの形状と精度から各種の物が製品化されている。また,デジタル出力が可能なため,自動計測などでの実用が多い。
 気象庁では,アメダス等の自動観測装置への組込み用として,1982年から円筒振動式気圧計を,1995年から静電容量式のセンサを用いた気圧計を採用している。
 ブルドン管圧力計( Bourdon tube gage )
 1849 年にフランスのウジューヌ・ブルドン( Eugene Bourdon )が発明したアネロイド型の気圧計である。C 形の扁平密閉管が気圧変動で変形するのを利用して気圧変動を記録できる。精度はやや低いが,構造が簡単で堅牢なため産業用の圧力計として用いられている。

 【参考】
 気象業務法(昭和二十七年法律第百六十五号)
 第一章 総則(目的)第一条
 この法律は、気象業務に関する基本的制度を定めることによつて、気象業務の健全な発達を図り、もつて災害の予防、交通の安全の確保、産業の興隆等公共の福祉の増進に寄与するとともに、気象業務に関する国際的協力を行うことを目的とする。
 第二章 観測(観測に使用する気象測器)第九条
 第六条第一項若しくは第二項の規定により技術上の基準に従つてしなければならない気象の観測に用いる気象測器、第七条第一項の規定により船舶に備え付ける気象測器又は第十七条第一項の規定により許可を受けた者が同項の予報業務のための観測に用いる気象測器であつて、正確な観測の実施及び観測の方法の統一を確保するために一定の構造(材料の性質を含む。)及び性能を有する必要があるものとして別表の上欄に掲げるものは、第三十二条の三及び第三十二条の四の規定により気象庁長官の登録を受けた者が行う検定に合格したものでなければ、使用してはならない。ただし、特殊の種類又は構造の気象測器で国土交通省令で定めるものは、この限りでない。
 第五章 検定(合格基準等)第二十八条
 第九条の登録を受けた者(以下「登録検定機関」という。)は、別表の上欄に掲げる気象測器について、検定の申請があつたときは、その気象測器が次の各号に適合するかどうかについて検査し、適合すると認めるときは、合格の検定をしなければならない。
 一 その種類に応じて国土交通省令で定める構造(材料の性質を含む。)を有すること。
 二 その器差が国土交通省令で定める検定公差を超えないこと。
 気象測器検定規則(平成十四年国土交通省令第二十五号)
 気象業務法の一部を改正する法律(平成十三年法律第四十七号)の施行に伴い、気象業務法(昭和二十七年法律第百六十五号)の規定に基づき、及び同法を実施するため、気象測器検定規則(昭和二十七年運輸省令第百二号)の全部を改正する省令を次のように定める。
 第一章 検定(気象測器の種類)第二条
 法第九条(気象業務法)の検定は、次の各号に掲げる気象測器の種類に応じて行うものとする。
 一 ガラス製温度計,二 金属製温度計,三 電気式温度計,四 ラジオゾンデ用温度計,五 液柱型水銀気圧計,六 アネロイド型気圧計,七 電気式気圧計,八 ラジオゾンデ用気圧計,九 乾湿式湿度計,十 毛髪製湿度計,十一 露点式湿度計,十二 電気式湿度計,十三 ラジオゾンデ用湿度計,十四 風杯型風速計,十五 風車型風速計,十六 超音波式風速計,十七 電気式日射計,十八 貯水型雨量計,十九 転倒ます型雨量計,二十 積雪計,二十一 複合気象測器(ラジオゾンデその他の前各号に掲げる気象測器の二以上が構造上一体となっているものをいう。)
 なお,校正は,計量法(平成四年法律第五十一号)第百三十五条若しくは第百四十四条の規定に基づく校正又はこれと同等のものとして気象庁長官が認める校正と規定されている。

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  低圧(真空)の測定

 真空( vacuum )とは
 JIS Z 8126 – 1 「真空技術‐用語‐第 1 部:一般用語」で“通常の大気圧より低い圧力の気体で満たされた空間の状態。”と定義し,慣習的な真空領域についても,圧力の高い順に,低(粗い)真空( low ( rough ) vacuum : 105 Pa ~ 102 Pa ),中真空( medium vacuum : 102 Pa ~ 10-1 Pa ),高真空( high vacuum : 10-1 Pa ~ 10-5 Pa ),超高真空( ultra - high vacuum : 10-5 Pa 以下)と定義している。
 真空計( vacuum gauge )とは
 JIS Z 8126 – 3 「真空技術−用語−第 3 部:真空計及び関連用語」では,次の注記と共に,“気体・蒸気の大気圧より低い圧力を測定する計器。”と定義される。
 注記 1 真空計は,圧力計の一種である。注記 2 真空計には,圧力を直接には測定せず,特定の条件の下で圧力に関連した他の物理量を測定しているものが多い。注記 3 真空計は,測定子と制御器とが一体になり圧力を信号出力するトランスデューサ真空計,測定子,制御器と表示器とが一体になっている真空計など様々なタイプがある。
 真空計の一般的な分類 ( JIS Z 8126 – 3 )
 差圧真空計( differential vacuum gauge ):圧力差を測定する真空計。例えば,弾性変形の範囲内で隔膜又は液柱を用いる。
 絶対真空計( absolute vacuum gauge ):物理量の測定だけから圧力が求められる真空計。
 全圧(真空)計( total pressure vacuum gauge ):気体の全圧を測定する真空計。
 分圧(真空)計( partial pressure vacuum gauge, partial pressure analyser, residual gas analyser ):混合気体の成分の分圧に関係する量を測定する真空計。
 注記 1 分圧計の感度は気体の種類によって異なる。注記 2 この種のゲージは,“残留ガス分析計”とも呼ばれる。
 
 1 台で大気圧(1.013 × 105 Pa )から高真空( 0.1 Pa 未満)を測定できる真空計は存在しなので,目的とする気圧に応じた真空計を選択しなければならない。次に,代表的な測定範囲の異なる全圧真空計の概要を紹介する。
 液柱型水銀気圧計
 水銀柱を用いた液柱差真空計( liquid level manometer )は,大気圧付近の低真空の測定に用いられる全圧真空計である。中空のガラス管( U 字管)に水銀を入れ,一方の端を測定する気体と連結させることで,水銀液面の変動から大気圧との差圧を計測できる。測定範囲は,大気圧から 10 Pa程度までである。
 10 mPa 程度までの高真空を測定できるように工夫された液柱型水銀気圧計にマクラウド真空計がある。
 熱伝導率式圧力計
 熱伝導真空計( thermal conductivity gauge )は,気体の熱伝導率の圧力変化を利用する全圧真空計である。すなわち,気体の中に電熱線を入れ,その冷却速度から気圧を計測する。
 この種にピラニ真空計( Pirani gauge )がある。測定する空間に金属線をさらすタイプで,金属線に電流を流し発生したジュール熱と平衡温度での電気抵抗から圧力を求める。測定範囲は 1000 ~ 10-1 Pa 程度である。
 電離真空計
 電離真空計( ionization vacuum gauge )は,高真空に適した高感度の圧力計である。気体分子に電子が衝突して生じるイオンを測定し,圧力を間接的に測定する。電子顕微鏡,質量分析計などの超高真空( 10-5 Pa 以下)が必要な場合の計測には,このタイプの真空計が用いられる。電離真空計には,熱陰極タイプ( hot cathode ionization gauge )と冷陰極タイプ( cold cathode ionization gauge )がある。これらのタイプでは,気体の電離,すなわち気体分子のイオン化が必要なため,気圧約 1 Pa 以上の気体には適用できない。
 熱陰極タイプでは,電流で加熱したフィラメントから出る電子ビームで気体分子をイオン化する。例えば,一般的な真空管の構造をもつ,熱陰極(フィラメント)を管の軸上に置き,グリッド状陽極及びプレート状集イオン電極をフィラメントと同軸的に配置した三極管形電離真空計( triode gauge )が広く用いられている。測定範囲としては,10-1 ~ 10-8 Pa 程度である。
 冷陰極タイプは,電磁界中の冷陰極放電によって気体を電離する方法が用いられ,陰極と陽極の位置関係で,一対の平行平板陰極間に環状陽極を置き,それらの軸に平行に磁界をかけるペニング真空計( Penning gauge )と同軸円筒状に電極を配置し,陽極を内側に配置し,電界に垂直に磁界をかける逆マグネトロン真空計( inverted magnetron gauge )の 2 種に分けられる。なお,逆マグネトロン真空計は 10-10 Pa まで測定可能である。

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