第二部:物質の状態と変化 気体の量と体積

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  ここでは,気体の法則気体分子運動論との関連について, 【グレアムの法則と分子運動】, 【ボイルの法則と分子運動】, 【シャルルの法則と分子運動】 に項目を分けて紹介する。

  グレアムの法則と分子運動

 グレアムの法則
 同一圧力で微細な空隙を通り抜ける気体の速度は,気体の密度の平方根の逆数に比例することを発見したグレアム( Thomas Graham, 1805~1869年)にちなんだ法則「気体の拡散速度が分子量の平方根に逆比例」をいう。
 これを式で表すと,同一温度,同一圧力では,気体の密度は,気体分子の質量に比例するので,気体 A (質量 mA )と気体 B(質量 mB )の分子の速度(根二乗平均速度質量の関係は,
   νA / νB = ( mB / mA )1/2
となる。

 グレアムの法則と分子運動
 容器の中の気体は,異なった運動エネルギーを持つ粒子の集合体である。従って,粒子には,平均速度,平均運動エネルギーがあり,ある温度では全ての粒子の平均運動エネルギーが同じになる。
 このことは,質量が著しく異なる粒子の気体でも,同じ温度では同じ平均運動エネルギーを持つことを意味する。
   1/2 mAνA2 = 1/2 mBνB2
  ∴ νA / νB = ( mB / mA )1/2


 【参考】
 根二乗平均速度( root-mean-square speed )
 速度の絶対値の二乗平均平方根,すなわち,個々の速度の二乗の統計平均(二乗平均速度〈ν2 )の平方根〈ν21/2 である。
 根二乗平均速度は,多数の分子の運動を扱う気体分子運動論( kinetic theory of gases )などで用いられる。単原子分子(質量 m )の二乗平均速度(〈ν2 〉)は,次の通りである。
   〈ν2 〉= 3 kT/m = 3 RT / NA m = 3 RT / M
 ここで,k :ボルツマン定数(約 1.281 × 10-23 JK-1 ),NA :アボガドロ定数( 6.022 × 10-23 mol-1
     R :気体定数( = kNA : 8.314 JK-1 mol-1 ),T :熱力学温度( K :ケルビン),M :分子量
である。
 なお, 1原子分子の持つ平均運動エネルギー E は,E =〈1/2・mν2 〉= 3/2 kT となり,温度に比例することが分かる。

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  ボイルの法則と分子運動

 ボイルの法則
 ボイルの法則とは,「一定温度で,一定量の気体の体積 V は圧力 P に反比例する」である。この関係を式で示すと,
   PV = C(一定)
    C :温度が変わらなければ一定の比例定数
とできる。

 ボイルの法則と分子運動
 容器の中に気体分子が1個存在する状況を仮定する。気体分子がピストンの中を往復運動している。
 ある温度のとき,気体分子がピストンの壁に 1 秒間に X 回衝突している。
 次いで,温度を変えずにピストンを押し込み,体積を半分にした場合,ピストンと反対側の壁との距離が半分になる。温度を変えていないので,気体分子の速度も変わらない。
 従って,壁に衝突する回数は,1 秒間に 2X 回となる。圧力は気体粒子の衝突する回数に比例するので,粒子の種類によらず,体積は圧力に逆比例する。

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  シャルルの法則と分子運動

 シャルルの法則
 シャルルの法則とは,「圧力が一定のとき,理想気体の体積は熱力学的温度に比例する」である。この関係を式で示すと,
   V = C・T ,∴ V / T = C(一定)
と単純化できる。
 分子運動
 容器の中の気体の温度を上げると,粒子の平均運動エネルギーが増加する。熱力学的平衡状態では気体粒子(分子)の速度は,分布関数(マクスウェル分布)に従う。
 ここで,分子の質量 m ,ボルツマン定数 k ,熱力学的温度(ケルビン) T とすると,分子速度νは,マクスウェル速度分布
   【 4 π( m / 2π k T ) ν2 exp ( - m ν2 / 2kT ) 】
で表せる。
 マクスウェル速度分布からは,分子速度のピーク νmax = ( 2 k T / m )1/2,平均速度νave = ( 4 / π)1/2νmax となる。気体分子運動論における理想気体(単原子分子)の根二乗平均速度〈ν2 〉= 3 k T / m となる。
 従って,分子の平均運動エネルギーは,E = 1 / 2・m〈ν2 〉= 3/2・k T と熱力学的温度に一次の関係にある。すなわち,熱力学的温度が 2 倍になると平均運動エネルギーが 2 倍になる。

 シャルルの法則と分子運動
 次に,【ボイルの法則】で説明したピストンにおいて,気体の温度を上げたとき,ピストンに加える力を変えない(圧力一定)ようにするために,必要な壁の距離 L の変化量を考える。
 質量 m で速度νの粒子がピストンの壁に完全弾性衝突したとき,壁が粒子 1 個から 1 回の衝突で受ける運動量(力積は,作用反作用の法則より,粒子の運動量の 2 倍(= 2 mνとなる。
 粒子が壁に衝突してから,つぎに壁と衝突するまでの時間を t とすると,粒子はこの間に往復 2 L の距離を速度νで進むので,次の衝突までの時間 t =2 L / νとなり,その逆数は衝突回数 ν/ 2 Lとなる。
 従って,ピストンの壁が単位時間に粒子から受ける運動量は,1回の衝突の運動量と衝突回数の積
    2 mν×ν/ 2 L = 2 / L
となる。
 式から,ピストンの壁が気体の粒子から受ける圧力は,2 に比例(平均運動エネルギーに比例)し,ピストンの距離 L に反比例することが分かる。
 すなわち,熱力学的温度を 2 倍にすると,平均運動エネルギーが 2 倍になるので,圧力を変えないためには,ピストンの距離を 2 倍(体積を 2 倍)に( V / T =一定)にしなければならない。

 【参考】
 熱力学的温度( thermodynamic temperature )
 一般的には絶対温度と呼ばれることが多い。イギリスの物理学者,初代ケルビン男爵がカルノーサイクル(温度の異なる 2 つの熱源の間で動作する可逆熱サイクル)で出入りするエネルギーから温度目盛を構築できることを提唱したことから始まる。
 熱力学的温度は,カルノーサイクルの効率 1 となる温度(これ以上冷やせない温度)を基準とする温度で,この基準の温度に到達するには無限の仕事が必要となるので,この温度を絶対零度( 0 K ,-273.15 ℃)という。
 温度の単位は,ケルビン( K )を用いる。温度目盛の間隔は,セルシウス度と同じ,即ち 1 K = 1 ℃である。
 現在は,物質量の比により厳密に定義(国際度量衡委員会)された同位体組成を持つ水の三重点( triple point : 0.01 ℃ ,273.16 K )の熱力学温度の 1/273.16 を 1 ケルビン( K )と定義している。
 マクスウェル分布( Maxwell distribution )
 熱力学的平衡状態で気体分子の速度が従う分布関数(マクスウェル-ボルツマン分布:Maxwell - Boltzmann distribution ともいう)である。
 マクスウェル速度分布からは,分子速度のピーク νmax = ( 2 k T / m )1/2,平均速度νave = ( 4 / π)1/2 νmax となる。また,二乗平均速度〈ν2 〉= 3 k T / m となる。
 ここで,m :分子の質量,k ボルツマン定数,T :温度(ケルビン)
 弾性衝突( elastic collision )
 一般に,2 つの弾性体の衝突をいう。反発係数 e の値に応じて,完全弾性衝突( e=1 ),塑性衝突又は完全非弾性衝突( e=0 ),非弾性衝突( 1>e>0 )と区分して呼ばれることがある。
 弾性体( elastic body )
 力を加えていると変形するが,力を除くともとに戻る物体をいう。フックの法則に従う弾性体を線形弾性体又はフック弾性体という。
 反発係数( coefficient of restitution )
 2 つの物体の衝突前後の接触面の法線方向の相対速度の比で,跳ね返りの程度の違いを表す。

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