第二部:物質の状態と変化 気体の状態方程式

  ☆ “ホーム” ⇒ “生活の中の科学“ ⇒ “基礎化学(目次)“ ⇒

  ここでは,気体を扱う場合や化学的な実験などで用いられる標準状態の定義について紹介する。

 標準状態とは

 気体の標準状態( normal state )
 気体の標準状態には基準とする温度の選択により SATPSTP がある。 基準の温度を 25℃(298.15 K)とする SATP (標準環境温度と圧力: standard ambient temperature and pressure ),基準の温度を 0℃( 273.15 K)とする STP (標準温度と圧力: standard temperature and pressure )である。
 気体の標準状態としては,現在は試験室環境に近い SATP ( 25 ℃ 100kPa )の使用が多い。しかし,気体関連のJIS 規格,日本の高等学校教育など旧来の STP ( 0 ℃ 100kPa )を標準状態とする場合も多い。なお,1990年以前の圧力は,1気圧= 101.3325kPa を用いていた。

 標準状態,標準条件の定義例
 JIS (日本工業規格)や ISO (国際標準化機構)では,技術分野や対象物の違いで,標準状態,標準条件などの用語に関し定義が異なる場合もある。そこで,これらの用語を用いる場合には,温度,気圧や規格番号を明記するなど,誤解を与えないよう留意すべきである。

 JIS K 0211「分析化学用語(基礎部門)」
 標準状態(気体の)を“大気圧 101.325 kPa,気温 0 ℃の下に保持された状態。NTP( Normal Temperature and Pressure )と略記される。”と定義している。

 JIS Z 8703「試験場所の標準状態」( ISO 554 : Standard atmospheres for conditioning and/or testing−Specifications)
 標準状態を次のように定義している。
 標準状態は,標準状態の気圧のもとで標準状態の温度及び標準状態の湿度の各一つを組み合わせた状態とする。
  ★ 標準状態の温度は,試験の目的に応じて 20℃,23℃,又は 25℃のいずれかとする。
  ★ 標準状態の湿度は,相対湿度 50%又は 65%のいずれかとする。
  ★ 標準状態の気圧は,86kPa 以上 106kPa 以下とする。

 JIS K 0050 「化学分析方法通則分析場所の状態」
 分析場所の状態は,次による。
  a) 温度 : 標準温度は,20 ℃とする。分析場所の温度は,常温(20±5)℃又は室温(20±15)℃のいずれかとする。冷所とは,1 ℃∼15 ℃の場所とする。
  b) 湿度 : 標準湿度は,相対湿度 65 %とする。分析場所の湿度は,常湿(65±20)%とする。
  c) 気圧 : 分析場所の気圧は,86 kPa∼106 kPa とする。

 JIS P8111 「紙,板紙及びパルプ− 調湿及び試験のための標準状態」
 標準状態を“ 紙,板紙及びパルプの調湿及び試験のための標準状態は,23℃±1℃, ( 50±2 ) % r.h. とする。”と定義している。

 JIS K 5600_1_6 「塗料一般試験方法−第1部:通則−第6節:養生並びに試験の温度及び湿度」
 “標準条件(可能な場合常に使用するべき条件) 23±2℃及び相対湿度 (50±5) %,標準温度 23±2℃及び雰囲気の相対湿度”と定義している。
 【参考】
 気体( gas )
 物質の三態の一つで,一定の形と体積を持たず,自由に流動し,圧縮やずれに対する抵抗が小さく,圧力の増減で体積が容易に変化する状態である。また,外部から力を受けない状態では,気体の体積が無限に膨張する。
 気体を構成する粒子(原子や分子)は,自由かつランダムに動く熱運動をしている。気体の粒子は,それぞれ離れているため,粒子間には引力(分子間力)が働かない。
 温度(temperature)
 触感などによる主観的な冷温の程度を客観的に定めるため導入された概念である。
 熱力学第ゼロ法則「系 A と B が熱平衡,系 B と C が熱平衡の時,系 A と C も熱平衡にあると仮定できる。」により,系 A の体積,その他の物理的性質を元に決めた物理量を温度と名付けた時,系 B ,C とも同じ温度にあるとできる。
 熱力学的温度( thermodynamic temperature )
 一般的には絶対温度( absolute temperature )と呼ばれることが多い。イギリスの物理学者,初代ケルビン男爵がカルノーサイクル(温度の異なる 2 つの熱源の間で動作する可逆熱サイクル)で出入りするエネルギーから温度目盛を構築できることを提唱したことから始まる。
 熱力学的温度は,カルノーサイクルの効率が1となる温度(これ以上冷やせない温度)を基準とする温度で,この基準の温度に到達するには無限の仕事が必要となるので,この温度を絶対零度( 0 K ,-273.15 ℃)という。
 温度の単位は,ケルビン( K )を用いる。温度目盛の間隔は,セルシウス度と同じ,即ち 1 K = 1 ℃である。
 現在は,物質量の比により厳密に定義(国際度量衡委員会)された同位体組成を持つ水の三重点( triple point : 0.01 ℃ ,273.16 K )の熱力学温度の 1/273.16 を 1 ケルビン( K )と定義している。
 セルシウス温度( degree Celsius )
 セ氏,℃で表され,当初は大気圧( 1 気圧)における水の凝固点を 100 度,沸点を0 度としたが,セルシウスの死後に,凝固点(水の三重点)を 0 度,沸点を 100 度とする現在のセルシウス温度目盛に改められた。
 湿度( humidity )
 大気中に含まれる水蒸気量を数値で表したものを湿度という。指標は種々あるが,広く用いられる湿度は,絶対湿度と相対湿度である。
 絶対湿度( absolute humidity )
  容積絶対湿度 : 大気の単位容積に含まれる水蒸気の量を重量で示したもの(単位:g/m3)。
  重量絶対湿度 : 水蒸気を含む空気(湿潤空気)から水蒸気を除いた乾燥空気(dry air)の重量 m ( kg )に対する湿潤空気中の水蒸気の重量の比。単位は,kg / kg (DA),なお DA は dry air の略。
 相対湿度( relative humidity )
 ある気圧,温度での水の飽和水蒸気圧( P* )に対する大気中の水蒸気圧( P )の百分率。
 ある温度( T℃)における飽和水蒸気圧( P* )は,温度の関数(経験式)として求めることができる。大気環境の温度範囲では近似的にはティテン(Tetens)の式が,広い温度範囲ではワグナー(Wagner)の厳密水蒸気圧式が適用できる。

  ページの先頭へ