第二部:物質の状態と変化 液体への溶解(基礎)

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  ここでは,溶液の濃度について, 【溶質が液体の場合の濃度調整】, 【ガラス製体積計】  に項目を分けて紹介する。

 濃度調整:溶質が液体の場合

 物質の計量では,固体の場合には秤(はかり)を用いた質量の計測が,液体の場合は,質量又は体積の測定が一般的である。
 特に,溶液濃度を精度高く求める場合は,計量中の揮発に留意し,この影響が少ない栓付などの体積計を用いる。

 溶質が液体の場合には,溶質の容量と混合後の溶液の容量を適切な体積計を用いて計測するのが一般的である。この場合の濃度は,体積分率(体積パーセント濃度)で表示することが多い。
 溶質の質量を計算,又は計測できる場合には,物質量濃度(モル濃度),質量濃度(質量体積パーセント濃度)で表示することもある。

 例 メタノール水溶液
 溶質が揮発性の高い液体の場合の溶液調整例として,メタノール( CH3OH )を用い,溶媒に 1 L (リットル),又は 1 kg の水を用いた場合の濃度調整例を紹介する。
 メタノールの 20℃での蒸気圧が約 133 hPa と水の蒸気圧 23 hPa に比較して非常に高く,揮発性の高い溶液である。このため,大気開放の容器に入れたのでは,恒量にならず,精度よい体積や質量の計測は困難である。
 そこで,体積や質量を計測する場合には,メタノール揮発の影響を極力排除するための工夫が必要である。例えば,出し容積の規定されるビュレットやメスピペットを用い,大気との接触時間を極力短くし,規定の量を採取するようにする。
 入り容積の規定される全量フラスコ(メスフラスコ)に適当量の水を入れ,採取したメタノールを直ちに移し,均一に混合することで,メタノールの揮発を抑えることができる。
 最後に全量フラスコの標線まで水を加えて一定の体積とすることで,誤差の少ない体積分率(体積パーセント濃度)を求めることができる。

 メスピペットを用いて,メタノール 10 ml ( 10-5 m3)を採取し,1 L の全量フラスコで調整した水溶液の体積分率は,0.01 (= 1 Vol %)となる。
 20 ℃のメタノールは,密度 791.8 kg / m3モル質量 32.04 g / mol である。従って,メスフラスコに添加したメタノールの質量は, 10-5 m3 × 791.8 kg / m3 = 7.918 g ,物質量は,7.918 g / 32.04 g / mol= 0.2471 mol となるので,物質量濃度(モル濃度) 247.1 mol / m3質量濃度(質量体積パーセント濃度) 7.918 kg / m3 ( 0.7918 w /V %) と計算される。
 このように,溶質の質量は密度と体積から計算できるが,その温度での適切な密度が文献等で得られない場合には,比重瓶を用いて直接測定する必要がある。また,密度を求めずに,質量を直接求める方法には,溶質を入れる前の全量フラスコの質量と溶質を入れた後の全量フラスコの質量差から求める方法などが考えられる。

 参考
 JIS K 0211 2013 「分析化学用語(基礎部門)」
 体積分率,体積パーセント濃度( volume fraction )
 体積単位によって表したある成分の全体に対する比率。体積分率 0.123,又は体積分率 12.3 %などと表す。
 物質量濃度,モル濃度( molarity )
 溶液 1 L 中に含まれる溶質の物質量。要素粒子を明記する。
 質量濃度( mass concentration )
 質量を混合物の体積で除したもの。
 受け容積( content volume )
 全量フラスコ,メスシリンダーなどの体積計に表示された体積となるように目盛られた標線まで満たされた液の体積。
 出し容積( delivery volume )
 全量ピペット,ビュレットなどの体積計の表示された標線目盛まで満たされた液が,排出されたときの体積。
 恒量( constant weight )
 「同一条件の下で,物質を加熱・放冷・ひょう量などの操作を繰り返したとき,前後の質量の計量差が規定の値以下となった状態。」

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 ガラス製体積計

 JIS R 3505 1994 「ガラス製体積計」

体積計

体積計


 1. 適用範囲
 この規格は,体積計に受け入れられた液体(受用)又は体積から排出した液体(出用)の体積を測定するガラス製の体積計のうち,ビュレット,メスピペット,全量ピペット,全量フラスコ,首太全量フラスコ,メスシリンダー及び乳脂計(以下,体積計という。)について規定する。
 3. 計量単位
 体積計の体積の計量単位及びその記号は,リットル( l 又は L ),デシリットル( dl 又は dL )又はミリリットル( ml 又は mL )とする。
 5. 体積の許容誤差 (ml) (抜粋)
 ビュレット : 10 ± 0.02 mL ,50 ± 0.05 mL
 メスピペット: 10 ± 0.05 mL ,50 ± 0.2 mL
 全量(ホール)ピペット: 10 ± 0.02 mL ,50 ± 0.05 mL
 メスシリンダー: 100 ± 0.5 mL ,300 ± 1.5 mL ,500 ± 2.5 mL ,1000 ± 5.0 mL
 全量(メス)フラスコ: 100 ± 0.1 mL ,300 ± 0.25 mL ,500 ± 0.25 mL ,1000 ± 0.4 mL
 6. 目盛(抜粋)
 目盛は,次のとおりとする。
 (1) 目盛は,20℃の水を測定したときの体積を表すものとして付されていること。
 (2) 目盛は,図 1(省略)に示すように水際の最深部と目盛線の上縁とを水平に視定して測定するものとして付されていること。
 9.材料
 材料は,ほうけい酸ガラスであって,線膨張係数が 55×10-7/℃以下のものとする。
 
 【参考】
 ppmとは
 不純物や有害物質の報道などで,濃度の単位として,ppm をよく目にする。
 過去には,大気中のガス濃度( mL / m3 )のみならず,塵埃濃度( mg / m3 )や水溶液中の不純物(μg / L )も ppm で表記されるなど,あたかも単位のように扱われていた。
 しかし,ppm は,parts per million すなわち百万分率といい百分率(%)と同じく比率を表しているので,分子と分母の単位が異なる場合には用いるべきではなく,物質量分率( mol / mol ),体積分率( m3 / m3 ),及び質量分率( kg / kg )の場合にのみ,その比率を表記するときに用いるべきである。
 このため,現在は,主に体積分率( m3 / m3 ),及び質量分率( kg / kg )で表示できる場合で,濃度が非常に小さい場合に限って用いるのが基本となっている。
 分率には,百分率(:パーセント 1 / 100 ),千分率(:パーミル 1 / 1000 ),
 百万分率( ppm : parts per million 1 / 106 ),十億分率( ppb : parts per billon 1 / 109 ),
 一兆分率( ppt : parts per trillion 1 / 1012 ),一千兆分率( ppq : parts per quadrillion 1 / 1015 )などがある。
 メニスカス( meniscus )
 細い管内の液体表面がつくる半球状の表面。液体と管壁との相互作用(濡れ性)により,水とガラスのように液体が管壁を濡らす場合にメニスカスはへこみ,水銀のように管壁を濡らさない場合はふくらむ。
 ビュレット,ピペット,シリンダー,フラスコなどの体積計では,メニスカスの下面を読むか上面を読むかで値が異なる。

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