第一部:化学と物質構造・イオン結合

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  ここでは,イオン結合について,【イオン結合とは】, 【イオン結合の表記】, 【イオン結晶の特徴】  に項目を分けて紹介する。

 イオン結合とは

 イオン結合( electrovalent bond )
 の電荷を持った原子,又は分子(陽イオン: cation,positive ion )との電荷を持った原子,又は分子(陰イオン: anion,negative ion )とが静電気力クーロン力,静電的引力と静電的斥力)によってできる結合をいう。
 イオン結合で構成される物質は,同符号のイオンには静電的斥力が,異符号のイオンには静電的引力が働く,これらの力のバランスにより,陰イオンと陽イオンが規則的な繰り返しで配置したイオン結晶となる。
 イオン結合に限らず,全ての化学反応は,電荷保存則( law of conservation of charge)に従う。すなわち,電荷保存則は,電気量保存の法則,電気中性条件ともいい,“閉じた系の総電気量は時間的に一定”と表現される。言い換えると,系外への出入りが無い限り,反応前後で電荷の総量が変わらないことを意味する。

 【参考】
 陰イオンと陽イオン
 イオン(ion)とは,原子や原子団(分子)が電子を得たり失うことで電荷を帯びた状態をいう。陰イオン( anion,negative ion )とは,負の電荷を帯びたイオンをいう。陽イオン( cation , positive ion )とは,正の電荷を帯びたイオンをいう。
 歴史的には,ファラディーが電気分解の実験で,陽極(アノード:anode )に向かう粒子と陰極(カソード:cathode )に向かう粒子を発見し,これらの粒子をイオン(ion)と名付け,陽極に向かう粒子を陰イオン(anion :アニオン),陰極に向かう粒子を陽イオン(cation :カチオン) と呼んだのが始まりである。
 ファラデー( Michael Faraday )
 マイケル・ファラデー(1791年~1867年)は,イギリスの化学者,物理学者。ファラデーの電磁誘導の法則,ファラデーの電気分解の法則,ファラデー定数など電磁気学,電気化学への貢献で知られる。
 クーロンの法則( Coulomb’s Low )
 フランスの物理学者クーロンが提案した電磁気学の基本法則で,電荷のクーロンの法則と磁荷のクーロンの法則がある。
 電荷のクーロンの法則とは,荷電粒子間に働き,反発又は引き合う力(クーロン力)が,それぞれの電荷の積に比例し,距離の 2乗に反比例(逆 2乗の法則)する。
 電荷を帯びた 2つの荷電粒子間に働くクーロン力 ( F ) は,2つの粒子の電荷の大きさ ( q1 と q2 ) ,粒子間の距離 ( r ) から次式を用いて求められる。
      F = k×( q1×q2 )/r2
      ここに,k は比例定数
 磁荷のクーロンの法則とは,磁気を帯びた粒子間に働く力に関しても,電荷のクーロンの法則と同様に,距離の逆 2乗の関係がある。
 クーロン( Charles-Augustin de Coulomb )
 シャルル=オーギュスタン・ド・クーロン(1736年 ~ 1806年)は,フランスの物理学者で,帯電した物体間に働く力を測定からクーロンの法則を発見した。業績に因んで,電荷の単位に「クーロン」が用いられている。
 単位クーロン( coulomb )は,電荷・電気量の SI 組立単位で,時間と電流の積( c = s A )で表される。

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  イオン結合の表記

 イオン結晶は,陽イオンと陰イオンの規則正しい繰り返しで構成されているので,イオン結合を表す時は,陽イオンと陰イオンの組み合わせで電気的中性を保つ最も簡単な整数の比で表した化学式(組成式を用いる。

 組成式の書き方
 1 ) 陽イオンを先に書き,続けて陰イオンの順に書く。
 2 ) 陽イオンと陰イオンのそれぞれの価数の最小公倍数となるように,イオンの数を決める。
 例えば,硫酸ナトリウムの場合は,1 価のナトリウムイオン( Na+ ),2 価の硫酸イオン( SO42- )で構成されている。陽イオンの価数 1 と陰イオンの価数 2 の最小公倍数 2 となるように, Na+イオン 2 個, SO42-イオン 1 個で,陽イオンを先に書いた Na2SO4 が硫酸ナトリウムの組成式となる。

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  イオン結晶の特徴

 イオン結晶は,陰イオンと陽イオンが強い静電気力で結ばれているので,固体のイオンが自由に動くことができる液体や気体になる温度,すなわち融点沸点(又は分解温度)は,例えば有機化合物の固体など分子間力で結びつく固体より著しく高いのが一般的である。
 例えば,有機高分子化合物の耐熱温度が数百℃以下なのに対し,イオン結晶の塩化ナトリウム( NaCl )は融点 800.4 ℃,沸点 1413 ℃,硫酸ナトリウム( Na2SO4 )は融点 884 ℃である。
 イオン間の結合が強いので,結晶に強い外力を加えて変形させると,同符号のイオンの接近で斥力が働くため,一方向に割れる。すなわち,イオン結晶は,硬くて脆い性質を持つ。
 固体状態のイオン結晶は,イオンの移動が無いため,電気を導かない(絶縁性)。しかし,融解して液体状態なった場合や水などの極性溶媒に溶解した場合には,イオンが容易に移動できるため,電荷の移動,すなわち電気の伝導性(導電性)を示す。

 【参考】
 溶媒( solvent )
 固体,液体,気体を溶かす液体の呼称である。工業分野では,溶媒より広い意味合いを持たせた溶剤と呼ぶ。溶媒は,目的物質を良く溶かすこと,安定で溶質と化学反応しないことが求められる。
 溶媒は,極性(親水性)と無極性(疎水性)とに大別され,さらに,極性溶媒はプロトン性と非プロトン性とに分類される。

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