第三部:化学反応 酸・塩基とは
☆ “ホーム” ⇒ “生活の中の科学“ ⇒ “基礎化学(目次)“ ⇒
ここでは,酸と塩基の理解に資するため, 【分類の考え方】, 【価数による分類】, 【強弱による分類】, 【硬軟による分類】, 【無機・有機による分類】, 【酸性酸化物,塩基性酸化物】に項目を分けて紹介する。
分類の考え方
酸,塩基は,性質の違い,用途の違いなどの実用に適するような分類がある。
例えば,同じ濃度の塩酸と酢酸の水溶液に亜鉛などの金属を加えると,塩酸では激しく水素を発生するが,酢酸での反応は穏やかである。このため,塩酸のように激しい性質の酸を強酸,酢酸のように穏やかな性質の酸を弱酸に分類されている。
強酸と弱酸の違いは,水溶液中での電離の程度(電離度α)の違いが反映したものである。
また,酸塩基反応を扱う場合には,酸(塩基) 1分子あたりで生じるイオン数(価数)の違いを考慮しなければならない。
このように,酸・塩基は,対象とする反応や機構など背景の違いで,価数による分類,強弱による分類,硬軟による分類,無機・有機による分類などが広く用いられている。
【参考】
酸の共通性質
1)酸味がある,2)亜鉛,アルミニウム,マグネシウム,鉄などの多くの金属と反応して水素を発生する,3)リトマスゴケから得られた染料リトマス( litmus )を用いた青色リトマス紙を赤くする,4)塩基を中和する,などが挙げられる。
塩基の共通性質
1)苦みがある,2)手につけるとぬるぬるする,3)リトマスゴケから得られた染料リトマス( litmus )を用いた赤色のリトマス紙を青くする,4)酸を中和する,などが挙げられる。
ページの先頭へ
価数による分類
化学では,種々な価( valence )が用いられているので,混乱しないよう,的確な把握を心がける。
酸・塩基の価数
【分子内結合:酸化数】で紹介したイオン価(イオンの価数),原子価(原子の価数)とは異なり,酸塩基反応で授受できる水素イオンの数をいう。
多段階で解離する酸や塩基については,その最大解離度数をいう。主な化合物の例を,次で紹介する強弱による分類と合わせて下表に紹介する。
なお,次に紹介する酸・塩基の強弱と価数には直接の関係はない。
価数での分類 | 代表例 | |
---|---|---|
酸 | 1 価 | 塩酸 ( HCl ),硝酸( HNO2 ),過塩素酸( HClO4 ),ギ酸( HCOOH ),酢酸( CH3COOH ) |
2 価 | 硫酸 ( NaOH ),炭酸( H2CO3 ),シュウ酸( (COOH)2 ) | |
3 価 | リン酸( H3PO4 ) | |
塩基 | 1 価 | 水酸化ナトリウム ( NaOH ),水酸化カリウム( KOH ),アンモニア( NH3 ),ピリジン( C5H5N ) |
2 価 | 水酸化マグネシウム( Mg (OH)2 ),水酸化カルシウム ( Ca (OH)2 ),水酸化バリウム( Ba (OH)2 ), 水酸化銅(Ⅱ)( Cu (OH)2 ),水酸化鉄(Ⅱ)( Fe (OH)2 ) |
|
3 価 | 水酸化アルミニウム( Al (OH)3 ),水酸化鉄(Ⅲ)( Fe (OH)3 ) |
ページの先頭へ
強弱による分類
電離度( degree of ionization )
電離度(α)は,溶液中の電解質が実際に電離している物質のモル比を示し,0 から 1 までの値をとる。
電離度(α)={電離した電解質のモル数}/{全電解質のモル数}
酸・塩基の強弱は,電解質( electrolyte )の溶媒中での電離度によって分類されるが,強弱の明確な評価基準はなく,経験的に,電離度が 1 に近い電解質を強酸,強塩基に,電離度の小さい電解質を弱酸,弱塩基に分類している。
なお,有機合成での材質改善などに用いられるフルオロスルホン酸( FSO3H )やトリフルオロメタンスルホン酸( CF3SO3H )など純硫酸よりも電離度が大きい媒体を超酸( superacid )ということがある。
参考:0.10 mol /L 水溶液の電離度の例, HCl 0.93 ,HNO3 0.93 ,HCOOH 0.043 ,CH3COOH 0.016
電離度は,温度,圧力,濃度の影響を受ける。特に,濃度の影響が大きく,濃度が低くなると電離度が大きくなり,無限希釈では 1 に限りなく近くなる。
溶液の濃度の影響が大きい電離度は,物性の指標としては扱いにくいため,定量的な評価では,次の項【電離平衡】で紹介する平衡定数(酸解離定数 pKa,塩基解離定数 pKb )を用いる。
強弱での分類 | 代表例(分子式;酸解離定数;pKa ) | |
---|---|---|
強酸 | 1 価 | 過塩素酸( HClO4 ;pKa<pKa(HCl) ),塩酸 ( HCl ;pKa=-8.0 ),硝酸( HNO2 ;pKa=-1.4 ) |
2 価 | 硫酸 ( H2SO4 ;pKa1=-5.0 ) | |
3 価 | - | |
弱酸 | 1 価 | ギ酸( HCOOH ;pKa= 3.75 ),酢酸( CH3COOH ;pKa= 4.76 ) |
2 価 | 炭酸( H2CO3 ;pKa1= 6.35 ),シュウ酸( (COOH)2 ;pKa1= 1.27 ) | |
3 価 | リン酸( H3PO4 ;pKa1= 2.15 ) | |
強塩基 | 1 価 | 水酸化ナトリウム ( NaOH ),水酸化カリウム( KOH ) |
2 価 | 水酸化カルシウム ( Ca (OH)2 ;pKa= 12.7 ),水酸化バリウム( Ba (OH)2 ;pKa= 13.4 ) | |
3 価 | - | |
弱塩基 | 1 価 | アンモニア( NH3 ;pKa= 9.25 ),ピリジン( C5H5N ;pKa= 5.23 ) |
2 価 | 水酸化マグネシウム( Mg (OH)2 ;pKa= 11.4 ),水酸化銅(Ⅱ)( Cu (OH)2 ;pKa= 7.3 ), 水酸化鉄(Ⅱ)( Fe (OH)2 ;pKa= 9.5 ) |
|
3 価 | 水酸化アルミニウム( Al (OH)3 ),水酸化鉄(Ⅲ)( Fe (OH)3 ) |
ページの先頭へ
硬軟による分類
酸および塩基の相性を,硬いおよび軟らかいという表現を使った分類で,HSAB則( Hard and Soft Acids and Bases )という。この場合の酸・塩基はルイスの定義による。
一般的にいうと,同じ性質ペア,すなわち軟らかい酸と軟らかい塩基のペア,硬い酸と硬い塩基のペアは反応しやすく,強い結合を形成する。
硬い酸( HA )
電気陰性度が低く,高い電荷密度,分極率が小さい。
例: H+ ,Li+ ,Na+ ,Mg2+ ,Ca2+ ,Al3+ ,Fe3+ ,Si4+ ,BF3 ,AlCl3 など
軟らかい酸( SA )
電気陰性度が高く,電荷密度が低いため分極化しやすい。
例:Cu+ ,Ag+ ,Au+ ,Hg+ ,Hg2+ ,BH3 ,RS+ ,I+ ,Br+ ,I2 ,Br2 ,ニトロベンゼン,金属原子,カルベンなど( R は有機基)
中間の酸の例: Fe2+ ,Cu2+ ,Zn2+ ,R3C+ など( R は有機基)
硬い塩基( HB )
比較的電荷密度が小さい。
例: F– ,H2O ,OH– ,CH3CO2– ,Cl– ,NO3– ,ROH ,RO– ,NH3 ,RNH2 など( R は有機基)
軟らかい塩基( SB )
電気陰性度が比較的小さく,電荷密度が大きく分極しやすい。
例: R2S ,RSH ,RS– ,I– ,SCN– ,R3P ,CN– ,CO ,エチレンベンゼン,H– ,R– など( R は有機基)
中間の塩基の例:アニリン,ピリジン,Br– ,NO2– など
【参考】
ルイス酸・塩基( Lewis acid,base )
ギルバート・ニュートン・ルイス( Gilbert Newton Lewis )が 1923年に定義した酸・塩基。
酸とは電子対を収容しうる空の軌道をもつ原子を含むもの,塩基とは非共有電子対をもつもの。すなわち,電子対を受け取る物質はルイス酸,電子対を与える物質はルイス塩基となる。
ギルバート・ニュートン・ルイスは,アメリカ合衆国の物理化学者( 1875 ~ 1946年)で,共有結合の発見(ルイスの電子式),ラジカル(不対電子対)の定義,酸・塩基の定義(ルイス酸・塩基),熱力学の再構築による化学熱力学の提唱,光化学実験,光子( photon )の命名などで知られる。
ページの先頭へ
無機・有機による分類
無機酸,無機塩基( mineral acid , mineral base )
無機化合物の化学反応で得られる酸,塩基で,【強・弱による分類】で例示したように,一般的に認識されている酸・塩基の多くが無機化合物である。
有機酸( organic acid )
有機化合物の酸の総称で,身近なもののその多くは,カルボキシル基(-COOH )を持つカルボン酸( RCOOH )である。
他に,スルホ基(-SO3H )を持つスルホン酸,ヒドロキシ基(-OH ),チオール基(-SH ),エノール(二重結合の片方の炭素にヒドロキシ基が置換したアルコール)を特性基として持つ化合物が知られる。
一般的には,有機酸の多くは弱酸に分類される。有機酸の多くは,有機溶媒に溶け易い。水を溶媒とした場合には,ギ酸や酢酸のような分子量の小さい有機酸は溶け易いが,その他の分子量の大きい有機酸は水に溶け難い。
有機塩基( organic base )
一般的には,プロトンを受容するブレンステッド塩基を指す。ピリジン( C5H5N ),トリエチルアミン( C6H15N )など,多くは窒素原子を含むアミンや複素環式化合物で,窒素上に容易にプロトンを受容してアンモニウムなどのカチオン(陽イオン)となる。
ページの先頭へ
酸性酸化物,塩基性酸化物
酸化物の中には,水に溶けてヒドロニウムイオン( H3O+ )を生じたり,H+ を受け取ったりするものがある。これらは,ブレンステッド・ローリーの定義による酸・塩基に分類される。
酸性酸化物
水と反応して酸を生じる。塩基と反応して塩と水になる酸化物などである。
例: SO2 ,SO3 ,NO2 ,CO2 ,P4O10 などの非金属元素の酸化物
塩基性酸化物
水と反応して塩基を生じる。酸と反応して塩と水になる酸化物などである。
例: N2O ,CaO ,CuO ,MgO ,BaO ,Fe2O3 などの金属元素の酸化物
両性酸化物
酸とも塩基とも反応し塩と水になる酸化物である。
例: Al2O3 ,ZnO ,SnO ,PbO などアルミニウム( Al ),亜鉛( Zn ),スズ( Sn ),鉛( Pb )の酸化物
ページの先頭へ