化 学 (物質の状態と変化)

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 【蒸気圧降下】

 混合溶液の蒸気圧変化
 理想溶液として扱える希薄溶液は,理想溶液の定義にあるように,ラウールの法則に従う溶液である。
 ラウールの法則に従うとは,【はじめに】に紹介したように,各成分の蒸気圧は,純液体時の蒸気圧と混合溶液中のモル分率の積で表すことができる。
 すなわち,混合溶液の各成分の純液体の時の蒸気圧を P*i ,各成分のモル分率をχi とすると,各成分の蒸気圧を Pi は,
      Pi = P*i χi
と表せる。
 混合溶液の全蒸気圧 P は,全成分の圧力の和で表せるので,
      P = ΣPi = ΣP*i χi
となる。
 簡単のため,1 種類の液体で構成される溶媒(蒸気圧 P*0 ,n0 モル)と 1 種類の溶質(蒸気圧 P*A ,nA モル)の溶液では,全蒸気圧( P は次のように記述される。
   モル分率 :χ0 = n0 / ( n0 + nA ) ,χA = nA / ( n0 + nA )
   全蒸気圧 : P = P*0 × n0 / ( n0 + nA ) + P*A × nA / ( n0 + nA )
          = P*0 ( n0 + nA × P*A / P*0 ) / ( n0 + nA )

 この式から,ある温度での混合溶液の全蒸気圧( P )とその温度での純溶媒の蒸気圧( P*0との間には,溶質の蒸気圧( P*Aとの関係で,
    P*A = P*0 の場合は,P = P*0 (蒸気圧変わらず)
    P*A > P*0 の場合は,P > P*0 (蒸気圧上昇)
    P*A < P*0 の場合は,P < P*0 (蒸気圧降下)
になることが分かる。
 ③の関係,すなわち,溶質の蒸気圧が溶媒よりも低い場合,溶液の全蒸気圧は純溶媒に比べると下がる。この現象を蒸気圧降下という。
 高等学校教育などでは,溶媒に不揮発性の溶質を溶解すると蒸気圧が降下すると紹介している。しかし,不揮発性や揮発性に関し明確な定義はない。そこで,ここでは対象とする溶媒の蒸気圧より圧倒的に低い蒸気圧の溶質を不揮発性の溶質とする。

不揮発性の溶質を溶かした溶液で,なぜ蒸気圧が低下するのか?

 【気体分子の熱運動】で紹介した気体分子の速度分布同様に,液体分子も与えられた温度で,幅広いエネルギー分布を持つと考えてよい。
 分子のエネルギー分布が広いので,溶媒分子の中には,一定の値を超えるエネルギーを持つ分子がある確率で存在する。
 ここで,一定の値が,液体表面から分子間力を振り切るエネルギーとした場合に,このエネルギーを超える溶媒分子は,大気に気体として蒸発できる。同時に,気体分子が液体の表面に衝突することで,気体から液体に凝縮する。ある条件が整うと,液体表面から脱出する分子数と液体表面に衝突し凝縮する分子数が同じになる。この状態を気液平衡の状態という。
 不揮発性の溶質が溶液中に存在する場合を考える。同じ熱条件では,溶媒分子と溶質分子は,純溶媒の場合と同じエネルギー分布を持つ。しかし,溶質分子は,蒸気圧が圧倒的低いので,溶媒分子が気化できる一定の値のエネルギーに至っても,溶質分子は液体表面から脱出できないことになる。
 すなわち,気化できる分子の数は,純溶媒の場合に比較して,液体表面の溶質分子の量に比例して減少し,空間中の気体分子の数が減少することになる。空間の体積が同じであれば,気体状態方程式により,気体分子の数の減少は,圧力の減少となる。
 この現象は,液体表面に存在する不揮発性分子がスクリーンの役をし,溶媒分子の蒸発を妨げている状況とイメージできる。

不揮発性の溶質を少量溶かした希薄溶液で,蒸気圧低下はどの程度?

 ラウールの法則より,蒸気圧の減少量は,
      ⊿ P = P*0 - P = P*0 - ( P*0 × χ0 + P*A × χA ) = P*0 ( 1 - χ0 ) + P*A × χA
 ここで, 1 - χ0 = χA と置けるので,
      ⊿ P = ( P*0 + P*A ) χA
となる。
 不揮発性の溶質の場合は,蒸気圧に圧倒的な差( P*0 ≫ P*A )があるので,⊿ P ≒ P*0 χA とできる。
 また,希薄溶液では,溶媒の物質量( n0 モル)と溶質の物質量( nA モル)との関係( n0 ≫ nA )から,誤差範囲内で,溶質のモル分率もχA = nA / ( n0 + nA ) ≒ nA / n0とできる。
 従って,蒸気圧減少量は,
      ⊿ P = ( P*0 + P*A ) χA ≒ P*0 nA / n0
となる。
 ここで,溶媒の質量を W ( g ) ,溶媒分子のモル質量を M0 ( g / mol ) とすると,n0 = W / M0 である。従って,圧力減少量は,
      ⊿ P ≒ P*0 nA M0 / W = 1000 P*0 M0 ( nA / 1000 W )
と書け,nA / 1000 W は,溶媒 1 ㎏に含まれる溶質のモル数,即ち溶質の質量モル濃度 m ( mol / kg )である。また,希薄溶液の種類が決まれは,溶媒種は既知で不変あり,純溶媒の蒸気圧,モル質量は一定の値に決まる。すなわち,1000 P*0 M0定数 K として扱える。
 従って,希薄溶液のある温度での蒸気圧減少量は,
      ⊿ P ≒ K m
とでき,溶質の質量モル濃度に比例することが分かる。

【参考】

 なお,溶質が塩のように,イオン解離する物質の場合は,電解質溶液として,ファントホッフの因子を導入した補正が必要になる。

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