第二部:物質の状態と変化 希釈溶液の性質
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ここでは,最も身近で,溶媒としても広く用いられる水について,【水の特異性】, 【融点,沸点】, 【比熱容量,潜熱】, 【表面張力・誘電率】, 【その他の特徴】 に項目を分けて紹介する。
水の特異性
液体としての水は,他の物質に比較して,次に示す特異な性質を示す物質として知られている。
● 同等の分子量の他の液体に比較して融点・沸点が高い,単位質量当たりの比熱容量(比熱)・蒸発熱(気化熱)が主要な物質中で最大級の高い値をとる。
● 金属を除く物質の中では,表面張力が大きい。
● 密度と温度の関係は,多くの物質は温度低下で単調に増加するが,水はある温度(約 4℃)で最大値を持つ挙動(異常液体)を示す。
● 一部の物質(チタン酸バリウム,ロッシェル塩,シアン化水素など少数)を除き,一般的な物質の中で高い誘電率を持つ。 水は反磁性の性質を示す代表的な物質である。強力な磁石を近づけると水が反発して逃れるように動く現象は,旧約聖書の逸話にちなみ「モーゼ効果」と呼ばれている。
● 水ほど多くの物質を溶解できる液体(溶媒)は他になく,特に無機化合物をイオンに分解して溶かす力は抜群である。電解質(イオン性の物質)に限らず有機物についても溶かすことができる。
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融点,沸点
水( H2O )の分子量約 18 に近い分子量の水素化物,溶媒として広く用いられる液体の融点・沸点を下表に紹介する。
融点( melting point )
固体が液体に変わる現象を融解( melting , fusion )といい,変化している間は,熱を与えても温度が一定に保たれ,この温度を融点という。
液体から固体に変わる現象を凝固( freezing , solidification ),又は固化といい,変化している間は,熱を奪っても温度が一定に保たれ,この温度を凝固点( freezing point )という。通常は融点と同じである。
沸点( boiling point )
液体が気体に変わる現象を蒸発( evaporation ),又は気化という。熱を与え続けると,蒸発と共に液体の温度も上昇するが,ある温度に至ると熱を与えても温度の上昇が止まり,容器界面などからも激しく蒸発し始める。この温度を沸点という。
溶媒名 | 化学式 | 分子量 | 凝固点(℃) | 沸点(℃) |
---|---|---|---|---|
メタン | CH4 | 16.04 | -182.5 | -161.5 |
アンモニア | NH3 | 17.03 | -77.73 | -33.42 |
水 | H2O | 18.02 | 0.00 | 99.98 |
フッ化水素 | HF | 20.01 | -84 | 19.54 |
メタノール | CH3OH | 32.04 | -97.5 | 64.5 |
エタノール | C2H5OH | 46.07 | -114.1 | 78.37 |
アセトン | CH3COCH3 | 58.08 | -94 | 56.5 |
酢酸 | CH3COOH | 60.05 | 16.7 | 118.5 |
ベンゼン | C6H6 | 78.11 | 5.5 | 80.1 | シクロヘキサン | C6H12 | 84.16 | 6.5 | 20.2 |
クロロホルム | CHCl3 | 119.4 | -64 | 61.2 |
四塩化炭素 | CCl4 | 153.82 | -22.9 | 76.8 |
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比熱容量,潜熱(融解熱・蒸発熱)
比熱容量( specific heat capacity )
単に比熱とも呼ばれ,圧力または体積一定の条件で,単位質量の物質を単位温度上げるのに必要な熱量をいう。単位は J・kg‐1・K‐1 である。なお,一般的には,温度によって変化するので,比熱容量を表示する場合は,温度の指定が必要である。
液体や固体の体積は,温度による極端な変化はないが,気体は,温度によるエンタルピーや体積の変化が大きいため,圧力を一定に保ちながら測定した値と体積を一定に保ちながら測定した値で大きな違いがでる。
前者を定圧比熱容量(specific heat capacity at constant pressure),後者を定積比熱容量(specific heat capacity at constant volume)や定容比熱容量といわれている。
原子量,分子量(モル)当たりの熱容量を原子熱(比熱容量×原子量),分子熱(比熱容量×分子量)という。分子熱は,モル比熱,モル熱容量とも呼ばれる。
物質名 | 化学式等 | 分子量 | 比熱容量 (kJ・kg‐1・K‐1) |
モル熱容量 (J・mol‐1・K‐1) |
---|---|---|---|---|
水(液体) | H2O | 18.02 | 4.2 | 75.7 |
エタノール(液体) | C2H5OH | 46.07 | 2.4 | 110 |
アセトン(液体) | CH3COCH3 | 58.08 | 2.2 | 128 |
ベンゼン(液体) | C6H6 | 78.11 | 1.7 | 133 |
水銀(液体) | Hg | 200.6 | 0.14 | 28.1 |
ガラス(固体) | SiO2 | 60.08 | 0.8 | 48.1 |
アルミニウム(固体) | Al | 26.98 | 0.9 | 24.3 |
鉄(固体) | Fe | 55.845 | 0.44 | 24.6 |
銅(固体) | Cu | 63.546 | 0.38 | 24.1 |
銀(固体) | Ag | 107.868 | 0.23 | 24.8 |
潜熱( latent heat )
転移熱(heat of transition)といもいい,物質が温度を変えないで,相転移するために吸収または発生する熱をいう。すなわち,相転移が進行中の温度が一定のままとなる。例えば,融解熱,凝固熱,凝縮熱,蒸発熱,昇華熱などがある。
融解熱( heat of fusion )
固体が液体に変化するときに吸収する熱エネルギーを融解熱という。液体状態にある相を液相( liquid phase )という。
物質名 | 化学式等 | 分子量 | 融点(℃) | 融解熱 (J・g‐1) |
モル融解熱 (KJ・mol‐1) |
---|---|---|---|---|---|
水銀 | Hg | 200.6 | -39 | 11.7 | 2.35 |
水 | H2O | 18.02 | 0 | 335 | 6.04 |
亜鉛 | Zn | 65.38 | 419.6 | 101 | 6.60 |
アルミニウム | Al | 26.98 | 660.1 | 397 | 10.7 |
銀 | Ag | 107.868 | 961.9 | 105 | 11.3 |
金 | Au | 196.96657 | 1064 | 64.5 | 12.7 |
銅 | Cu | 63.546 | 1,083 | 210 | 13.3 |
鉄 | Fe | 55.845 | 1,530 | 271 | 15.1 |
蒸発熱( heat of evaporation )
蒸発するときに吸収するエネルギーを蒸発熱,又は気化熱( heat of vaporization )という。
物質名 | 化学式等 | 分子量 | 沸点(℃) | 蒸発熱 (J・g‐1) |
モル蒸発熱 (KJ・mol‐1) |
---|---|---|---|---|---|
液体窒素 | N2 | 14 | -196 | 199 | 2.79 |
液体酸素 | O2 | 16 | -183 | 213 | 3.41 |
四塩化炭素 | CCl4 | 153.82 | 77 | 50 | 7.69 |
ベンゼン | C6H6 | 78.11 | 80 | 130 | 10.2 |
エタノール | C2H5OH | 46.07 | 80 | 393 | 18.1 |
水 | H2O | 18.02 | 100 | 2,250 | 40.6 |
水銀 | Hg | 200.6 | 357 | 285 | 57.2 |
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表面張力,誘電率
表面張力( surface tension )
液体の表面に作用する表面積をできるだけ小さくしようとする力。液体表面の単位面積当たりの自由エネルギーで表す。( JIS K 3211「界面活性剤用語」)
一般に,二相間の界面において,界面の面積を縮小するように働く界面張力という。表面という場合は,気・液界面,気・固界面をいうので,この界面の界面張力を特に表面張力という。
表面張力は,表面に並んだ分子間の相互作用の結果として表れる。すなわち,表面張力は,分子間力の大きさの目安となる。
物質名 | 化学式等 | 分子量 | 沸点(℃) | 表面張力 (10-3 N・m-1) |
---|---|---|---|---|
ベンゼン | C6H6 | 78.11 | 80 | 28.9 |
エタノール | C2H5OH | 46.07 | 80 | 22.55 |
水 | H2O | 18.02 | 100 | 72.75 |
酢酸 | CH3COOH | 60.05 | 118.5 | 27.7 |
水銀 | Hg | 200.6 | 357 | 475 |
水銀は,室温付近で液体ではあるが,金属結合の物質で,分子間力が水素結合やファンデルワールス力の物質に比較し,桁違いに大きくなる。
誘電率( permittivity , dielectric constant )
電媒定数ともいい,誘電体の誘電分極が生じる程度を表す物質定数,すなわち,外部から電場を与えたとき,物質内の原子や分子の応答の程度を表す。
電束密度 D と電場の強さ E との関係 D = εE を与えるε(電束密度と電場の強さとの比)をいう。
JIS K 0213「分析化学用語(電気化学部門)」では,
a) 均質な物質をコンデンサの間に入れて電位差⊿E を加えて,電気量 Q が誘起されるとき Q/⊿E で表した量。
b) 相対誘電率の略称。
と定義している。
一般的に誘電率といった場合は,誘電体の誘電率を真空の誘電率でわった比誘電率(relative permittivity , dielectric constant)を指すことが多い。
比誘電率( εr )は,真空の誘電率( ε0 )との比(ε/ε0 =εr )をいう。従って,比誘電率は無次元量で,単位系によらず一定の値をとる。このため,多くの物質に対してデータの蓄積がある。
水の比誘電率は,一部の物質(チタン酸バリウム,ロッシェル塩,シアン化水素など少数)を除き,一般的な物質の中で高い値を持つ。
物質名 | 化学式等 | 分子量 | 比誘電率 |
---|---|---|---|
チタン酸バリウム | BaTiO3 | 233.192 | 約 5000 |
ロッシェル塩 | KNaC4H4O6·4H2O | 282.1 | 約 4000 |
シアン化水素(18℃) | HCN | 27.03 | 118.8 |
水(20℃) | H2O | 18.02 | 80.4 |
エタノール | C2H5OH | 46.07 | 16~31 |
ガラス | SiO2 | 60.08 | 5.4~9.9 |
石英 | SiO2 | 60.08 | 3.8 |
紙(セルロース) | (C6H10O5)n | 162×n | 2~2.6 |
空気 | N2,O2 | 28.8 | 1.00059 |
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その他の特徴
異常液体
多くの物質は,液相から固相への相変位で,密度( density )が僅かに増加(体積減少)するが,水( H2O )は,液相の分子配置よりかさ高い固相(結晶構造)になるため,液相から固相に相変位することで密度が減少(体積増加)し異常液体( abnormal liquid )と呼ばれる数少ない物質の一つである。
水は,沸点から約 4℃までは,温度の低下と共に密度が増加(体積が減少)するが,その後温度の低下と共に,密度が減少(体積が増加)する。
密度の減少は,固体の氷になっても続く(水分子の結晶化の特徴)ため,氷が液体の水に浮いたり,密閉容器に入れた水の凍結で容器が破損したりする。
水の磁気特性
水は反磁性の性質を示す代表的な物質である。強力な磁石を近づけると水が反発して逃れるように動く現象は,旧約聖書の逸話にちなみ「モーゼ効果」と呼ばれている。
水は液体の中では桁違いの誘電率を有し,水分子の回転のエネルギー準位に相当するマイクロ波( 18 G Hz )を効率よく吸収する。
何でもよく解かす
水は,電解質物質(イオン性の物質)に限らず多くの有機化合物も溶かすことができる。
水ほど多くの物質を溶かすことのできる液体(溶媒)は他になく,特に無機化合物をイオンに分解して溶かす力は抜群である。
水は結晶水やヒドロキシル基( OH基,水酸基ともいう)の形で他の結晶や鉱物と結合し,結晶水では 200 ℃位,ヒドロキシル基( OH基,水酸基ともいう)になったものは 600 ℃位に加熱しないと分解しないほど強く結合する。
水は,ヒドロニウムイオン( hydronium ion )と水酸化物イオン( hydroxide ion )に自己解離( self-ionization ;
なお,ヒドロニウムイオン( H3O+ )は,簡便のため水素イオン( H+ )で表されることが多い。
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