第二部:物質の状態と変化 液体への溶解(基礎)

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  ここでは,溶液の濃度について, 【濃度の定義】, 【濃度表示の基礎】, 【濃度単位の主な使い分けと換算】, 【JIS K 0050 「化学分析方法通則」:量・単位の表し方】  に項目を分けて紹介する。

 濃度の定義

 溶液の濃度( concentration )に関しては,次に例示するように,立場により各種の表し方がある。

 国際純正応用化学連合(IUPAC)
 IUPACの発行する Gold Book では,混合物の組成の特徴を表す量として,次の四つの量が規定されている。
 質量濃度 ( mass concentration :単位 kg / m3 ) 物質量濃度 ( amount concentration :単位 mol / m3 ) 体積濃度 ( volume concentration :単位 m3 / m3 ) 数濃度 ( number concentration )

 標準化学用語辞典(日本化学会編)
 溶液中の溶質の割合を濃度という,いろいろな表し方がある。質量パーセント濃度モル濃度など。
 
 JIS K 0211 2013 「分析化学用語(基礎部門)」
 JISでは,濃度に関連する用語を次のように定義している。
 活量( activity ): ある成分の化学ポテンシャルに関連して与えられる一種の熱力学的濃度。
 含有率( concentration )とは,ある物質にある特定の成分が含まれている割合。
 濃度( concentration ): 溶液,固溶体,混合気体,分散系などにおける分析種の含有率を表す数値。各種の表し方がある。
 質量濃度( mass concentration :単位 kg / m3: 質量を混合物の体積で除したもの。
 物質量濃度,モル濃度( molarity :単位 mol / L )溶液 1 L 中に含まれる溶質の物質量。要素粒子を明記する。
 質量モル濃度( molality :単位 mol / kg )溶媒 1 kg 中に含まれる溶質要素粒子の物質量。溶質の要素粒子を明記する。
 質量分率,質量パーセント濃度( mass fraction :単位 % ): 質量単位を用いて表したある成分の全体に対する比率。質量分率 0.123,質量分率 12.3 %などと表す。
 体積分率,体積パーセント濃度( volume fraction :単位 % ): 体積単位によって表したある成分の全体に対する比率。体積分率 0.123,又は体積分率 12.3 %などと表す。
 物質量分率,モル分率( mole fraction ): ある成分の物質量を全成分の物質量の総和によって除した値。多成分系における各成分の濃度の表示方法の一つ。全成分の物質量分率の和は 1 となる。
 溶解度( solubility :単位 例えば g / 100g - H2O ): 飽和溶液中の溶質の濃度。
 溶解度積( solubility product ): ある溶液中で難溶性塩(固体)がその塩の構成イオンと平衡にあるとき,構成イオンの濃度又は活量の積。
 注記 Am Bn の塩では,[An+]m [Bm-]n で与えられる。ここで[ ]内は物質量濃度を表す。

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 濃度表示の基礎

 溶媒に溶質を溶解させた時の濃度を理解するため,基本単位の中で,基本量である物質量( mol ),体積( m3 ),及び質量( kg )を組み合わせた商の関係を下表に示す。


物質量,体積,質量の関係する基本単位
    物質量(mol)    体積(m3   質量(kg) 
  物質量(mol)    物質量分率 mol/mol 
  (モル分率) 
  モル体積 m3/mol    モル質量 kg/mol 
  体積(m3)    物質量濃度 mol/m3 
  又は,モル濃度 mol/L 
  体積分率 m3/m3 
  (体積パーセント濃度 Vol%) 
  質量濃度 kg / m3 
  (質量体積パーセント濃度 w/V%) 
  質量(kg)    質量モル濃度 mol/kg    比体積 m3/kg    質量分率 kg/kg 
  (質量パーセント濃度 wt%) 
 基本単位の中で,太字の単位が溶液の濃度に用いられ,細字のモル体積,モル質量,及び比体積は物質の基本特性を示す単位である。
 なお,青太字で示した単位を,パーセント表示する場合には,混同され易いので,( )内のの表示方法に従うのが望ましい。

 【参考】
 質量( mass )
 物体の動かし難さの度合いを表す量で,その定義は力学の歴史とともに推移している。物理学的には厳密には,運動の法則で動かし難さから定義される慣性質量(inertial mass),万有引力の法則で定義される重力質量(gravitational mass)がある。
 重量( weight )
 重さともいわれ,物体に働く重力(慣性力)の大きさをいい,重力は重力加速度により異なるので,重さは物体固有の性質ではない。すなわち,重力が異なる場所では,同じ物体でも重さは異なる。
 普段に何げなく用いられる用語であるが,質量とは定義が明確に異なるので混同は禁物である。
 物質量( amount of substance )
 物質を構成する要素として明示された要素粒子の数に比例する物理量の一つ。記号は mol(モル)。
 その比例定数は全ての物質について等しく,アボガドロ定数と呼ばれる。
 要素粒子( elementary entities )
 原子,分子,それらのイオン,ラジカル,電子,光子などの粒子,又はこれらの特定のグループ。
 アボガドロ定数( Avogadro's constant )
 アボガドロ数ともいい,記号 NA で表され,CODATA の推奨値は,2010年の推奨値 6.022 141 29 ( 27 ) × 1023 mol−1 ,2014年の推奨値 6.022 140 857(74) × 1023 mol−1 と CODATA の改訂で僅かであるが変るので,使用する際には推奨値の改訂年を明示するのが望ましい。

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 濃度単位の主な使い分けと換算

 質量モル濃度について
 JIS K 0211 2013 「分析化学用語(基礎部門)」では,質量モル濃度( molality )を“溶媒 1 kg 中に含まれる溶質要素粒子の物質量。”と定義している。
 すなわち,濃度に用いる単位のうち質量モル濃度( mol / kg )のみが一定量の溶媒に対する溶質の物質量を示す濃度表示であるが,その他の濃度では,一定量の混合物,即ち溶媒+溶質の全体に対する溶質の量(物質量,体積,質量)を示す濃度となっている。

 質量モル濃度は,溶媒の特性に注目する場合に用いられる濃度で,例えば【希薄溶液の性質】で紹介する溶媒の特性変化(蒸気圧上昇,沸点降下,凝固点降下)の解釈に用いられる。その他の濃度は,例えば,溶媒に溶けた溶質の量を分析する場合など,実用的な評価の場面で用いられることの多い量である。

 溶液の調整について
 多くの溶媒は,精度の高い実験や分析を行う場合に,操作時間内で無視できない量の揮発( volatilization )に至る。このため,計測中の溶媒成分の質量減少,体積減少となり,溶液の濃度が変化する。
 さらに,前項の【溶解現象とは】で紹介した理想溶液又は正則溶液として見なせない溶液(多くの一般的な溶液)では,溶媒分子と溶質分子との相互作用があるため,混合後の液体の体積は,混合前の各成分の体積の和と異なる。
 例えば,25 ℃で 100 ml の水に 100 ml エタノールを混ぜると,溶液の体積は 200 ml ではなく 190 ml 程度に減少する。(物理化学では,この影響を避けるため部分モル容積の概念を導入している。)
 このため,溶液の濃度調整や試料採取では,揮発の影響を抑え,混合後の体積をより正確に計測するため,ホールピペットやメスフラスコなどの検定済みの体積計を用いるのが一般的である。

 濃度単位の換算
 濃度単位の換算では,基本的に,体積を質量に換算することで容易に行うことができる。このためには,関連する溶媒及び溶質のモル質量( kg / mol )密度( kg / m3,及び全体量を体積単位の濃度(容量濃度)とする単位では,溶液の密度が情報として必要になる。
 なお,密度( density )とは,物質の単位体積あたりの質量をいい,物体の質量とそれと同体積のある標準物質( 4℃の水など)の質量との比を比重( specific gravity )という。

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 JIS K 0050 「化学分析方法通則」: 量・単位の表し方

  JIS K 0050 「化学分析方法通則」
 4 量及び単位
 量及び単位の表し方は,JIS Z 8000規格群に規定する国際単位系(SIと併用を認めている単位を含む。)によるほか,次による。ただし,強制法規がある場合において,やむを得ない場合は,この限りではない。

 a)  質量分率体積分率又は物質量分率(モル分率)については,質量分率 0.05 のように,無名数で表す。
 数値の後に空白を挿入して,0.01を表す%又は 0.001を表す‰(“パーミル”という。)を用いて表してもよい(質量分率 5 %)。また,%又は‰の後にどの分率によるかを表示してもよい{ 5 %(質量分率)}。
 注記 1 JIS Z 8000-1「量及び単位−第 1 部:一般」の6.5.5(単位1)には,“質量分率及び体積分率は,また,μg/g=10-6 又は ml/m3 = 10-9 という形式で表すこともできる。”と規定されていて,質量分率及び体積分率には,組立単位の使用が認められている。
 注記 2 JIS Z 8000-1の6.5.5(単位1)には,“ ppm,pphm,ppb,ppt などのような略号は,言語によるので,不明瞭であるため,用いてはならない。代わりに,10 のべき乗の使用が望ましい。”と規定されている。
 ただし,計量法では,単位として“質量百分率(%),質量千分率(‰),質量百万分率( ppm ),質量 10億分率( ppb ),質量 1兆分率( ppt ),質量 1 000兆分率( ppq ),体積百分率( vol %又は%),体積千分率( vol ‰又は‰),体積百万分率( vol ppm又はppm ),体積 10億分率( vol ppb又は ppb ),体積 1兆分率( vol ppt又は ppt ),体積 1 000兆分率( vol ppq又はppq )及びピーエッチ( pH )”を使用することとされているので,法定関係での分析においては,“強制法規がある場合において,やむを得ない場合”に該当して,ppmなどの使用が認められている。

 b)  表内のある行又は列の各欄の全てに%を用いて表した組成を示す場合,見出し欄に質量分率(%),%(質量分率)などのように,質量分率,体積分率又は物質量分率のいずれであるかを記載する。この場合,質量分率(%)などを表の単位記号としてもよい。
 なお,固体の組成で,質量分率の百分率で表すことが明らかな場合には,質量分率と記述せず,単に%だけとしてもよい。また,この場合,表の単位記号を%としてもよい。

 c)  質量濃度(質量を混合物の体積で除したもの)又は物質量濃度(物質量を混合物の体積で除したもの)の記載においては,体積の測定条件を明示する。ただし,20 ℃での液体の体積の場合又は 101.325 kPa,0 ℃での気体の体積の場合については明示しなくてもよい。

 d)  水素イオン活量の逆数の常用対数は,pHで表す。

 e)  水との混合比で表すことのできる試薬については,試薬の体積 a と水の体積 b とを混合した場合,“試薬名( a+b )”又は“化学式( a+b )”と表示してもよい。 なお,この表(省略)と異なる純度,物質量濃度又は密度の試薬を用いる場合,(a+b)の表示は適用できない。
 水との混合比で表すことのできる試薬(表から抜粋)
 塩酸( HCl ),硝酸( HNO3 ),過塩素酸( HClO4 ),ふっ化水素酸( HF ),臭化水素酸( HBr ),よう化水素酸( HI ),硫酸( H2SO4 ),りん酸( H3PO4 ),酢酸( CH3COOH ),アンモニア水( NH3 ),過酸化水素( H2O2

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