化 学 (物質の状態と変化)

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 【溶解度】

 溶解現象として,最も身近に経験されるのは,水に対する無機塩の溶解である。それ以外にも,水に限らず液体の多くは,多くの物質を溶解できると考えてよい。問題となるのは,溶解する物の種類と溶解できる量であり,その最大量(飽和溶液濃度)を溶解度( solubility )という。
 例えば,高等学校教育など一般的には“水にヘキサンは溶けない”と認識されている。これは,【溶解現象とは】で紹介したように,「似た者同士は相性が良い」の原則から,無極性分子【双極子とは】参照)のヘキサンは,極性プロトン性溶媒【溶解現象とは】参照)であるとの相性が悪いためこのような認識になっていると考えられる。
 しかし,実際には,多くの溶媒は,多くの物質を溶解できると考えてよい。問題となるのは,溶液中の濃度が実用上で問題となる範囲にあるかどうかである。
 
 例えば,水に対するヘキサンの溶解度(溶解度の表記は複数ある)は, 20℃で約 0.0013 g / 100g - H2O ( 13 mg / L )程度ある。これは,水道水の水質基準{有機物(全有機炭素の量:TOC); 3 mg / L以下}と比較して十分に高い濃度であり,水質を問題とする場合にはヘキサンの水への溶解が問題となる。
 さらに言うと,溶解度がヘキサンより著しく低いPCB (ポリ塩化ビフェニール:25℃の溶解度 0.0240 mg / 100g - H2O )は,水生環境急性有害性(96時間の暴露で魚類の半数が死滅する濃度) LC50が 0.008 mg / L /96H とされ,溶解度より著しく低い濃度( ppt オーダー)であっても環境汚染や健康影響の観点から問題となる。このため,環境分析などの実用上では水への溶解性が無視できない物質として取り上げられる。

溶解度(飽和溶液の濃度)の表記

 溶質の状態,即ち固体・液体と気体では溶解度の表記法が異なる。
 固体・液体の溶解度
 表記は,一定温度( 20 ℃での測定例が多い)で,溶媒 100 g に対する溶質の質量( g )で表記する場合,飽和溶液 100 g に溶けている溶質の質量( g )で表する場合が多い。なお,飽和溶液 100 g に対する溶解度で表した場合には,溶媒量は 100 g から溶解度(溶質の質量)を差し引いた量になる。
 溶解度の単位無名数であるが,一般には溶媒種を明確にするため「 g / 100g ‐溶媒の化学式」等を付して表記する。
 歴史的には,溶媒 1 L (リットル)又は 1kg に対する溶質の質量( g )やモル数( mol )で表す例もある。
 
 気体の溶解度
 表記には,ブンゼンの吸収係数(一定温度,1 気圧の気体が溶媒 1 ml に溶ける体積を標準状態に換算して表す)の他に,後述の【気体の溶解】で紹介する複数の表記法がある。
 一般的には,気体の液体への溶解度は温度の上昇と共に減少する。固体や液体の溶解度と単位が異なるので,これらと比較する場合は不便となる。この場合は,次の要領で単位の換算ができる。
 溶媒 100g 当たりの溶質の量に換算する場合は,気体の状態方程式( PV = nRT )から溶媒 1ml 中に含まれる物質量(モル濃度) n を計算し,溶質のモル質量( M )から溶質の質量( m = M × n )を求めるとともに,溶媒の密度(ρ : kg/m3 )から 100 g 当たりの溶媒の体積( X ml = 105 / ρ)を求めることで,溶媒 100 g 当たりの溶解量 m × X が求められる。

【参考】

● 飽和溶液( saturated solution )
 ある温度と溶解度曲線の交点の溶液を飽和溶液といい,後述の【固体・液体の溶液平衡】で説明するように,固体表面から溶液中に溶解する粒子(分子,イオン)の数と溶液中から固体表面に析出する粒子の数が等しく,見かけ上の質量変化がない状態をいう。
 なお,飽和濃度より低い濃度の状態を不飽和溶液( unsaturated solution ),飽和濃度(溶解度)より高い濃度の状態を過飽和溶液( supersaturated solution )という。
 過飽和溶液は,溶液の準安定な状態で,濃度増加が緩やかな時に容易に表れる。この状態では,何らかのきっかけ(容器の凹凸,圧力変動)などで速やかに平衡状態(飽和溶液)に変化(微細な結晶の多量発生など)するので,大きな結晶粒子を得たい場合には,過飽和に至らないよう結晶の成長を促す核となる種結晶( seed crystal )や毛羽立った糸などを用いるのが一般的である。

溶解度曲線の例

溶解度曲線の例

● 溶解度曲線
 溶解度は,温度の影響を受ける。そこで,溶質ごとの特性把握を目的に温度と溶解度の関係を図示した溶解度曲線が活用される。
 多くの溶質は温度の上昇で溶解度も上昇するが,例に示したように,変化量の小さい物資,溶解度が減少する物質もある。
 溶解現象の詳細については,熱力学で説明されるが,熱力学の詳細な解説を予定していないので,ここでは割愛する。
 
 注:溶解度は,溶質の質量を無水物として表記するので,例えば硫酸銅(Ⅱ)五水和物( CuSO4・5H2O )など結晶水(水和水)を持つ化合物の水への溶解度では,水和水は溶媒の量として計算される。

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