化 学 (物質の状態と変化)

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 【実在気体の溶解量】

 文献等で紹介される溶解度は,単一の気体に対して表記されている。しかし,実際の気体は,空気のように複数種の物質で構成される混合気体である。
 ここでは,混合気体の各成分の溶解量を求める方法について紹介する。

ヘンリーの法則

 イギリスの化学者ウィリアム・ヘンリー( William Henry )( 1775 ~ 1836 年)が1803年に気体の溶解性について,ヘンリーの法則( Henry's law )を発見している。ヘンリーの法則とは,圧力のあまり高くない範囲で「一定の温度において,一定量の溶媒に溶けることができる気体の物質量は,その気体の圧力(分圧)に比例」である。
 気体分子と溶媒との相互作用が小さく,理想溶液に準じる希薄溶液では,ヘンリーの法則に従い,気相中の気体の分圧( p )と溶液中の気体の物質量モル分率:χ)とに次の関係が成立する。
      p = KHχ
 ここで,KHヘンリー定数と呼ばれ,圧力に依存しないが温度に依存する定数である。
 モル分率χは,【溶液の濃度】で紹介したように,溶媒の物質量が nA モル,溶質の物質量が nB モルのとき,χ = nB / ( nA + nB ) となる。
 ヘンリーの法則が成立する希薄溶液では,物質量に溶媒≫ 溶質と圧倒的な差があるので,
      χ = nB / ( nA + nB ) ≒ nB / nA
とできる。
 このことは,混合気体であっても,各気体の分圧を知ることで,溶解量を求めることができることを意味する。

溶解量の求め方【各成分の溶解度既知】

 ブンゼンの吸収係数やオストヴァルトの溶解度係数などは,温度一定で一定容量の溶媒に溶解する気体の体積である。
 気体の圧力と体積の関係は,気体の状態方程式で決まる。気体定数 R ,気体のモル数 nB とすると,圧力 P ,溶解した気体の体積 V との関係は,
      PV = nBRT
で表せる。
 これに,気相の圧力と溶液中の気体の量の関係であるヘンリーの法則とから気体の体積は,
      V = nB ・ RT/ ( KH ・ nB / nA ) = nA ・ RT/ KH
となる。
 溶媒の体積は圧力が変わってもほとんど変化しないので,溶媒の物質量 nA は変化しない。従って,温度一定なら気相の圧力が変化しても,溶解している気体の体積は変化しない
 すなわち,圧力(気体の分圧)と溶解量に比例関係があることが分かる。
 以上より,溶解度(ブンゼンの吸収係数やオストヴァルトの溶解度係数)と気体の分圧が分かっている場合には,溶媒の体積( mL)とから,次式を用いて 1 気圧の環境下で,溶解している気体の体積( mL )が求められる。
     気体の体積( mL )=溶解度×(溶媒の体積/溶解度の基準体積)×(気体の分圧/溶解度の基準圧力)
 なお,希薄溶液の場合は,溶媒の体積)≒(溶液の体積)と置くことができる。
 溶解量( g )への換算は,気体の分子量とモル体積を用いて計算できる。標準状態( 0 ℃,1 気圧)では,モル体積が約 22.414 L / mol となるので,溶解量は,
      溶解量( g )=溶解量( mL )×気体の分子量/22414
で得られる。

溶解量の求め方【各成分のヘンリー定数既知】

 溶質の物質量(モル)は,nB ≒ nA × p / KH とでき,ヘンリー定数と気体の分圧が分かっている場合には,溶液の量( g )とから,次式で溶解量( g )が求められる。
   溶媒の物質量( nA mol )≒ 溶液の量( g )/ 溶媒の分子量
   溶解量( g )=気体の分子量×溶媒の物質量×(気体の分圧/ヘンリー定数)
 大気成分(窒素,酸素)の溶解量について
 大気は,【混合気体(空気)について】で紹介したように,乾燥空気の大部分が窒素( 78.084 容量%)と酸素( 20.9476 容量%)で占められ,残りの約 1 容量%がその他成分である。
 ここで,簡単のため,大気の組成(体積比)を窒素:酸素= 4 : 1 と仮定する。【混合気体の状態方程式】で紹介したように,分体積の法則,分圧の法則により,大気圧(= 1 気圧= 760 mmHg ≒ 101.325 kPa)では,それぞれの分圧は,窒素( 4/5 気圧)と酸素( 1/5 気圧)となる。
 【参考】に示すように,0 ℃,1 気圧の溶解度は,窒素( 0.0231 mL / 1mL )酸素( 0.0489 mL / 1mL )で,ヘンリー定数窒素( 4.09 × 107 mmHg )酸素( 1.91 × 107 mmHg )である。
 ここで,0 ℃,1 気圧で大気と接触する水 1 L ( 1 kg )に溶解する窒素(分子量 28.02 )の溶解量( g )と酸素(分子量 32.0)の溶解量( g )を,溶解度を用いた計算方法とヘンリー定数のを用いた計算方法とを比較した結果,両方法で得られた結果によい一致が見られた。
 溶解度から得られる溶解量
   窒素= 0.0231 × ( 1000 mL ) × ( 4/5 ) × ( 28.02 g/mol ) / ( 22414 mL / mol )= 0.023202 g ≒ 23.2 mg
   酸素= 0.0489 × 1000 × ( 1/5 ) × 32 / 22414 = 0.013963 g ≒ 14.0 mg
 ヘンリー定数から得られる溶解量
 水の分子量( 18.0 )から溶媒の物質量は,55.6 mol( 1000 / 18 )となるので,
   窒素= ( 28.02 g/mol )× ( 1000 / 18 mol )× ( 4/5 × 760 mmHg ) / 4.09 × 107 mmHg = 0.023141 g ≒ 23.1 mg
   酸素= ( 32.0 g/mol )× ( 1000 / 18 mol )× ( 1/5 × 760 mmHg ) / 1.91 × 107 mmHg = 0.014148 g ≒ 14.1 mg

【参考】

● 溶解度の例


0℃における主な気体の水への溶解度とヘンリー定数「化学便覧など」
物質名 化学式 分子量 溶解度 単位 ヘンリー定数
×10-7mmHg
  アンモニア NH3 17.03 1299 mL / 1g
  塩化水素 HCl 36.46 550.4 mL / 1mL
  二酸化硫黄 SO2 64.7 79.789 mL / 1mL
  硫化水素 H2S 34.09 4.621 mL / 1mL
  二酸化炭素 CO2 44.01 1.713 mL / 1mL 0.0555
  アルゴン Ar 39.95 0.0578 mL / 1mL 1.68
  酸素 O2 32.0 0.0489 mL / 1mL 1.91
  一酸化炭素 CO 28.01 0.0354 mL / 1mL
  水素 H2 2.01 0.0214 mL / 1mL 4.42
  窒素 N2 28.02 0.0231 mL / 1mL 4.09
  ネオン Ne 20.18 0.0114 mL / 1mL 7.68
  ヘリウム He 4.0 0.0097 mL / 1mL 10.0

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