第二部:物質の状態と変化 液体への溶解(実例)
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ここでは,実在気体(混合気体)の溶解量の求め方について,【各成分の溶解度既知の場合】, 【各成分のヘンリー定数既知の場合】, 【溶解度の例】 に項目を分けて紹介する。
各成分の溶解度既知の場合
文献等で紹介される溶解度は,単一の気体に対して表記されている。しかし,実際の気体は,空気のように複数種の物質で構成される混合気体である。
ここでは,混合気体の各成分の溶解量を求める方法について紹介する。
一般的な文献等では,溶解度をブンゼンの吸収係数やオストヴァルトの溶解度係数などで表記している。これらは,下記の参考に示すように,ある温度における一定容量の溶媒に溶解する気体の体積で表される。
気体の圧力と体積の関係は,気体の状態方程式で決まる。気体定数 R ,気体のモル数 nB とすると,圧力 P ,溶解した気体の体積 V との関係は,
PV = nBRT
で表せる。
これに,気相の圧力と溶液中の気体の量の関係であるヘンリーの法則とから気体の体積は,
V = nB ・ RT/ ( KH ・ nB / nA ) = nA ・ RT/ KH
となる。
溶媒の体積は圧力が変わってもほとんど変化しないので,溶媒の物質量 nA は変化しない。従って,温度一定なら気相の圧力が変化しても,溶解している気体の体積は変化しない。
すなわち,圧力(気体の分圧)と溶解量に比例関係があることが分かる。
以上より,気体成分の溶解度(ブンゼンの吸収係数やオストヴァルトの溶解度係数)と気体の分圧が分かっている場合には,溶媒の体積( mL)とから,次式を用いて 1 気圧の環境下で,溶解している気体の体積( mL )が求められる。
気体の体積( mL )=溶解度×(溶媒の体積/溶解度の基準体積)×(気体の分圧/溶解度の基準圧力)
なお,希薄溶液の場合は,(溶媒の体積)≒(溶液の体積)と置くことができる。
溶解している気体の体積から溶解量( g )への換算は,気体の分子量とモル体積を用いて計算できる。標準状態( 0 ℃,1 気圧)では,モル体積が約 22.414 L / mol となるので,溶解量は,
溶解量( g )=気体の体積( mL )×気体の分子量/22414
で得られる。
大気(窒素,酸素)の溶解量について
地表付近の大気は,【混合気体(空気)について】で紹介したように,乾燥空気の大部分が窒素( 78.084 容量%)と酸素( 20.9476 容量%)で占められ,残りの約 1 容量%がその他成分である。
ここで,簡単のため,大気の組成(体積比)を窒素:酸素= 4 : 1 と仮定する。【混合気体の状態方程式】で紹介したように,分体積の法則,分圧の法則により,大気圧(= 1 気圧= 760 mmHg ≒ 101.325 kPa)では,それぞれの分圧は,窒素( 4/5 気圧)と酸素( 1/5 気圧)となる。
下に紹介する【溶解度の例】に示すように,0 ℃,1 気圧での各成分の溶解度(ブンゼンの吸収係数)は,窒素( 0.0231 mL / 1mL ),酸素( 0.0489 mL / 1mL )である。
ここで,0 ℃,1 気圧で大気と接触する水 1 L ( 1 kg )に溶解する窒素(分子量 28.02 )の溶解量( g )と酸素(分子量 32.0)の溶解量( g )を溶解度から求めると次のようになる。
窒素の溶解量= 0.0231 × ( 1000 mL ) × ( 4/5 ) × ( 28.02 g/mol ) / ( 22414 mL / mol )= 0.023202 g ≒ 23.2 mg
酸素の溶解量= 0.0489 × 1000 × ( 1/5 ) × 32 / 22414 = 0.013963 g ≒ 14.0 mg
【参考】
ブンゼンの吸収係数( Bunsen's absorption coefficient )
対象とする気体の分圧が 1 気圧( 760 mmHg ,101325 Pa )のとき,温度( t ℃)での単位体積( 1 mL )の溶媒に溶解する気体の体積( mL )を標準状態( 0℃,1 気圧)の体積に換算した値( mL / mL )をいう。これは,単に溶解度係数とも呼ばれる。類似の表記として,後述の気相の全圧で規定した表記法もある。
オストヴァルトの溶解度係数( Ostwald's solubility coefficient )
温度( t ℃)で,対象とする気体の分圧が 1 気圧のとき,単位体積( 1 mL )の溶媒に溶解する気体の体積( mL )を,その実験温度( t ℃),1 気圧で計測した値( mL / mL )をいう。
従って,気体の状態方程式からブンゼンの吸収係数(α)とオストヴァルトの溶解度係数(β)には次の関係が成立する。
β=α×( 273.15 + t )/ 273.15
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各成分のヘンリー定数既知の場合
ヘンリーの法則( Henry's law )とは,イギリスの化学者ウィリアム・ヘンリー( William Henry )( 1775 ~ 1836 年)が1803年に気体の溶解性について発見した法則で,圧力のあまり高くない範囲で「一定の温度において,一定量の溶媒に溶けることができる気体の物質量は,その気体の圧力(分圧)に比例」である。
気体分子と溶媒との相互作用が小さく,理想溶液に準じる理想希薄溶液では,ヘンリーの法則に従い,気相中の気体の分圧( p )と溶液中の気体の物質量(モル分率:χ)とに次の関係が成立する。
p = KHχ
ここで,KHはヘンリー定数と呼ばれる。
モル分率χは,【溶液の濃度】で紹介したように,溶媒の物質量が nA モル,溶質の物質量が nB モルのとき,χ = nB / ( nA + nB ) となる。
ヘンリーの法則が成立する理想希薄溶液では,物質量に 溶媒 ≫ 溶質 と圧倒的な差があるので,
χ = nB / ( nA + nB ) ≒ nB / nA
とできる。
このことは,混合気体であっても,各気体の分圧を知ることで,溶解量を求めることができることを意味する。
すなわち,溶質の物質量(モル)は,nB ≒ nA × p / KH とでき,ヘンリー定数と気体の分圧が分かっている場合には,溶液の量( g )とから,次式で溶解量( g )が求められる。
溶媒の物質量( nA mol )≒ 溶液の量( g )/ 溶媒の分子量
溶解量( g )=気体の分子量×溶媒の物質量×(気体の分圧/ヘンリー定数)
大気(窒素,酸素)の溶解量について
大気は,【混合気体(空気)について】で紹介したように,乾燥空気の大部分が窒素( 78.084 容量%)と酸素( 20.9476 容量%)で占められ,残りの約 1 容量%がその他成分である。
ここで,簡単のため,大気の組成(体積比)を窒素:酸素= 4 : 1 と仮定する。【混合気体の状態方程式】で紹介したように,分体積の法則,分圧の法則により,大気圧(= 1 気圧= 760 mmHg ≒ 101.325 kPa)では,それぞれの分圧は,窒素( 4/5 気圧)と酸素( 1/5 気圧)となる。
次に紹介する【溶解度の例】に示すように,0 ℃,1 気圧のヘンリー定数は窒素( 4.09 × 107 mmHg ),酸素( 1.91 × 107 mmHg )である。
ここで,0 ℃,1 気圧で大気と接触する水 1 L ( 1 kg )に溶解する窒素(分子量 28.02 )の溶解量( g )と酸素(分子量 32.0)の溶解量( g )は,ヘンリー定数を用いて次のようにして求められる。
水の分子量( 18.0 )から溶媒の物質量は,55.6 mol( 1000 / 18 )となるので,
窒素の溶解量= ( 28.02 g/mol )× ( 1000 / 18 mol )× ( 4/5 × 760 mmHg ) / 4.09 × 107 mmHg = 0.023141 g ≒ 23.1 mg
酸素の溶解量= ( 32.0 g/mol )× ( 1000 / 18 mol )× ( 1/5 × 760 mmHg ) / 1.91 × 107 mmHg = 0.014148 g ≒ 14.1 mg
この結果は,前述の溶解度を用いた計算結果とよい一致が見られる。
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溶解度の例
物質名 | 化学式 | 分子量 | 溶解度(0℃) | 単位 | ヘンリー定数 ×10-7mmHg |
---|---|---|---|---|---|
アンモニア | NH3 | 17.03 | 1299 | mL/1g | - |
塩化水素 | HCl | 36.46 | 550.4 | mL/1mL | - |
二酸化硫黄 | SO2 | 64.7 | 79.789 | mL/1mL | - |
硫化水素 | H2S | 34.09 | 4.621 | mL/1mL | - |
二酸化炭素 | CO2 | 44.01 | 1.713 | mL/1mL | 0.0555 |
アルゴン | Ar | 39.95 | 0.0578 | mL/1mL | 1.68 |
酸素 | O2 | 32.0 | 0.0489 | mL/1mL | 1.91 |
一酸化炭素 | CO | 28.01 | 0.0354 | mL/1mL | - |
水素 | H2 | 2.01 | 0.0214 | mL/1mL | 4.42 |
窒素 | N2 | 28.02 | 0.0231 | mL/1mL | 4.09 |
ネオン | Ne | 20.18 | 0.0114 | mL/1mL | 7.68 |
ヘリウム | He | 4.0 | 0.0097 | mL/1mL | 10.0 |
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