第二部:物質の状態と変化 気体の圧力
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ここでは,気体の圧力などの諸性質の理解を助ける基本知識として,【圧力の分類】, 【圧力の単位】 に項目を分けて紹介する。
圧力の分類
気圧などの圧力測定( pressure measurement )では,測定技術や対象とする圧力により,表示方法や圧力の示す意味が異なる。
絶対圧とゲージ圧
絶対圧( absolute pressure )とは,完全な真空(絶対真空)を基準とする量をいう。
しかしながら,実用的には,目的に応じた基準圧(reference pressure)を 0 として表示するゲージ圧( gauge pressure )を用いる例が多い。例えば,タイヤ圧などは大気圧を 0 とし,加える圧力を規定している。
すなわち,ゲージ圧は,基準圧との差圧( differential pressure )を意味し,工業生産現場などでは絶対圧より利用価値の高い値である。
静圧と動圧
気体や液体が静止している時,圧力は全方向に等しく加わる。この時の圧力を静圧( static pressure )という。
一方,流体では,流れの影響で,流速や方向により圧力が変わる。流れの影響で変動する圧力を動圧( dynamic pressure )という。
気体や液体の流れの中に置かれた物体の面に加わる圧力は,測定面と流れの方向との関係で決まる。この圧力を全圧( Stagnation pressure :静圧+動圧)という。
流速と圧力に関する関係(ベルヌーイの定理;Bernoulli's theorem )を用いて,流れの速度の計測などに用いられる。例えば,飛行機の速度計測に用いられるピトー管( pitot tube )はその一例である。
【参考】
圧力( pressure )
垂直応力が押し合う場合,すなわち,物体の表面あるいは内部の任意の面に向かい垂直に押す単面積当たりの力をいう。
静圧( static pressure )
静止流体中の物体と流体との境界面に対する垂直応力。
動圧( dynamic pressure )
ベルヌーイの定理における流体の運動エネルギーを表わす項 1/2 ρv2 をいう。
ベルヌーイの定理( Bernoulli's theorem )
ベルヌーイの法則ともいわれ,流体の挙動を平易に表すことができ,力学的エネルギー保存則に相当する定理である。
定常的に流れている非圧縮性,非粘性の完全流体の任意の点において,圧力水頭,速度水頭および高さの和は一定である。
言い換えると,空気や水の流れがはやくなると,そのはやくなった部分は圧力が低くなる。はやく流れるほど圧力は下がる。
ベルヌーイの式は,完全流体の速さと圧力と外力のポテンシャルの関係を記述する式であるが,完全流体でなくともわずかな修正で成立する場合が多い。
ピトー管( pitot tube )
流体の流れの速さを測定する計測器で,航空機の速度計や風洞などに使用されている。
ピトー管は,二重になった管を基本構造とし,内側の管は先端部分 A に,外側の管は側面 B に穴が空き,二つの管の奥の圧力計で圧力差(動圧という)を測定することで流速が求められる。
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圧力の単位
圧力,気圧に用いられる単位には,Pa (パスカル),bar(バール),atm (気圧),mmHg (水銀柱ミリメートル),Torr(トル)などがある。それらの関係は次の通りである。
101325 Pa = 1.01325 bar = 1 atm = 760 mmHg = 760 Torr
Pa (パスカル; pascal )
圧力・応力の SI 組立単位で,1m2 あたりに 1N の力が加わった場合の圧力を 1Pa (パスカル)と定められる。
Pa = N・m‐2 = m‐1・kg・s‐2
SI組立単位( SI derived unit )とは,国際単位系 (SI) の基本単位を組み合わせて作ることができる単位をいう。
bar(バール; bar )
圧力・応力のCGS組立単位で,1 cm2 あたりに 106 dyn (ダイン)の力が作用した時の圧力を 1 bar(バール)と定義される。
SI組立単位系のニュートン( N )とダイン( dyn )には,1N = 1kg・m/s2 = 105g・cm/s2 = 105dyn の関係にある。従って,バール( bar )とパスカル( Pa )の関係は,1 bar = 106 dyn /cm2 = 1010 dyn /m2 = 105 N /m2= 105 pa となる。
気象分野の気圧表記に mbar(ミリバール)が長い期間用いられていた。現在では,hpa(ヘクトパスカル)を用いるのが一般的になっている。なお,換算に際して数値の変更が必要ない単位 hpa ( 100 Pa = 10-3 bar = 1mbar )が用いられている。
atm (気圧; air pressure )
気圧は,気体の圧力を指す単位で,単に「気圧」という場合は,大気圧( atmospheric pressure )を指すことが多い。気圧の単位には,大気を意味する atmospher から atm の記号が用いられている。読みは「エーティーエム」である。
大気圧は,場所や気象条件によって異なるため,海面での大気圧を標準気圧( standard atmosphere )として定め,この値を 1 気圧( 1atm )と定義している。
標準気圧は,1954 年の第 10 回国際度量衡総会( CGPM )で 101,325Pa (パスカル)と定められた。これは,それまで一般的な大気圧 760mmHg をパスカルに換算し,小数点以下の端数を切り捨てたものである。
なお,気圧は,日本の計量法に基づく計量単位規則 第二条(別表第二)に圧力の法定の単位として定められる計量単位である。
mmHg(水銀柱ミリメートル)とTorr(トル)
水銀柱ミリメートルとトルは,同じ単位の別名(1 Torr = 1 mmHg )である。mmHgは,「ミリ水銀」「ミリエイチジー」「ミリメートルエイチジー」と読まれることがある。
圧力を求める方法の一つに,その圧力によって支えられる流体の柱の高さを使う方法が用いられていた。密度の高い水銀( Hg ) は,標準気圧で約 760 mm の水銀柱を支えることができる。そこで,慣習的に標準気圧を 760 Torr ,760 mmHg としてきた。
0℃の水銀の密度( 13.5951 g・cm-3 )と水の密度( 0.999972 g・cm-3 )を用いて水の柱に換算すると,10.33 mH2O (又は mAq ) が 1 気圧になる。すなわち,水深 10 mまで潜ると,約 2 気圧の圧力を受けることになる。
水銀柱ミリメートルは,国際単位系 (SI) の単位ではないが,いまだに血圧の計量単位として使われている。なお,国際単位系では,「その他の非 SI 単位」として挙げられ,使用することも可能であるが推奨されているわけではない。
なお,日本の計量法に基づく計量単位規則 第五条(特殊の計量に用いる計量単位 別表第六)では,トルは「生体内の圧力の計量」,水銀柱ミリメートルは「生体内の圧力の計量」及び「血圧の計量」に限って用いられる単位として定められる計量単位とされている。
【参考】
SI単位
国際単位系( International System of Units )の単位で,メートル法の後継として,1954年の第 10回国際度量衡総会 (CGPM) で採択された国際単位系は,世界中で広く使用されている単位系である。
国際単位系は,メートル条約に基づきメートル法のなかで広く使用されていた 力学の単位に関する MKS単位系の基本単位である長さ( m ;メートル),質量( kg ;キログラム),時間( s ;秒)に加えて,電流( A ;アンペア),熱力学温度( K ;ケルビン),物質量( mol ;モル),光度( cd ;カンデラ)を加えた単位系である。
MKS単位系
長さの単位メートル( m )・質量の単位キログラム ( kg )・時間の単位秒( s )を基本単位とする単位系である。公式の単位系として,1889年に国際度量衡局 (BIPM) で採用された。
MKS単位系は力学の単位のみを含む。このため,電磁気学では,電流の単位アンペア( A )を基本単位に加えた MKSA単位系を用いている。なお,一般的には,MKSA単位系を含めて MKS単位系ということもある。
CGS単位系
長さの単位としてのセンチメートル ( cm ),質量の単位としてのグラム ( g ),時間の単位としての秒( s )を基本単位とする。
CGS単位系は,1832年にカール・フリードリヒ・ガウスにより提唱され,1874年英国科学振興協会 (BAAS),1881年国際電気会議により電磁気に拡張されて採用された単位系である。
CGS単位系は,科学・工学の多くの分野で MKS単位系,国際単位系への置き換えが進んだが,実験スケールでの記述に便利なため,材料科学,電磁気学,天文学の一部では CGS単位系の単位が未だに用いられている。
計量法(平成4年5月20日法律第51号)
第一章 総則(目的)第一条
この法律は、計量の基準を定め、適正な計量の実施を確保し、もって経済の発展及び文化の向上に寄与することを目的とする。
計量単位令(平成四年政令第三百五十七号)
内閣は、計量法(平成四年法律第五十一号)第二条第一項第二号、第三条から第五条まで、第八条第三項第三号、第九条第二項、第百六十八条並びに附則第五条、第六条及び第九条第二項の規定に基づき、並びに同法を実施するため、この政令を制定する。
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