化 学 (物質の状態と変化)水の特異性

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 【特異性の源】

 液体の中で,水の分子量が小さいにもかかわらず,前項で紹介した特異な性質を示す要因は,水の分子構造と分子間の構造に起因する水素結合,水の自己解離が影響している。
 水素結合の原因や特徴については,【水素結合の影響】や ,【水素結合と分子の凝集】で説明している。
 ここでは,水素結合を踏まえて,水の特異性への影響につて,及び水の自己解離について紹介する。

多くの物質を溶解できる要因について

 水は化学式 H2O で表されるように,酸素原子( O )と水素原子( H )が共有結合で結びついた化合物である。その結合では,水素原子と酸素原子から価電子を1つずつ供給された電子対を共有している。酸素原子は,さらに共有結合に使われていない 2 つの孤立電子対が最外殻に存在する。

水分子の形と水素結合の模式図

水分子の形と水素結合の模式図

 水素と酸素の共有結合において,それぞれの原子の電気陰性度の違いから共有電子対が酸素原子側に引き寄せられ,酸素原子側が電気的に負となり,水素原子側が正となる双極子を作る。さらに,分子の構造が,酸素を頂点とした二等辺三角形になっていることから分子全体として極性を持つ(双極子モーメント: 1.85 D )。
 このように,水分子の特異な構造のため,水の比誘電率は 79.87 (20℃) と高い。このため水に添加されたイオン性物質のイオン間の静電気力を弱め,イオン結晶の結合格子を破壊して溶解できるほどの能力を持つ。
 複数の水分子の間では水素原子と酸素原子の間に水素結合を作ることができる(水クラスター)。この水素結合は,水分子に限らず,最外殻に孤立電子対を持つ窒素,酸素やフッ素などの原子やイオン,あるいは他の電気陰性度が高い原子に結合している水素原子を介して,水素結合を作ることができる。
 従って水は,イオン性の低い分子の固体(又は液体)に対しても,分子中の電気陰性度の違いが大きい原子との強い分子間力で結びつき(水和),固体(又は液体)中の分子間力(ファンデルワールス力)に抗して個々の分子に分散できるため,高い溶解性を示す。
 一方,シクロヘキサンなどのイオン性が無く,電気陰性度の大きい原子を持たない炭化水素化合物に対しては,水分子との分子間力はファンデルワールス力のみであるため,分子レベルでの分散には至らないので溶解性は極めて小さくなる。

水クラスター

 クラスターとは,葡萄の房,集団や群れを意味し,水クラスター( water cluster )とは,液体の中で複数の水分子が会合し,一団となっている様子を指す。
 水溶液中での水クラスターについて分かっていることはとても少なく,化学上の未解決問題のひとつである。
 現時点では,水分子がそれぞれランダムに存在するより,水クラスターを形成することで密度と温度の関係など,水の特異な性質を説明し易いとされている。
 
 理解されていないことの多い水クラスターではあるが,実験化学的アプローチ,計算化学的アプローチにより明らかにされつつある。
 次には,インターネット等で紹介されている情報を紹介するが,その真偽については確認していない。
 水クラスターの構造については,水クラスターの分光学的性質の測定で,水の六量体( 6 個の水分子クラスター),赤外分光法と質量分析計を直結させた装置による測定で八量体から十量体までの水クラスターが観測されている。
 計算化学による検討で,液相では八量体クラスターが優位で,五量体と六量体がそれに続くこと,サイズの小さい溶質を取り込めるような空間を持つ環状の六量体や五量体から成ること,立方体型の八量体と二種類の環状四量体との平衡が存在することなどを提案している。しかしいずれのモデルも,水の特異性,例えば密度の変化を十分には説明できていない。
 水クラスターの動的性質については,水クラスターの寿命は極めて短く,絶えずクラスター構造を変えていること,時間分解能の高い赤外分光法の解析で,水の変化は 5 × 10-14 秒以内に緩和され消失すること,その他の測定でも 10-14 秒から 10-12 秒オーダーの時間で動的変化を観測したとの報告がある。

水の自己解離

 水分子は水素イオン( H+ :プロトン)の供給源(酸)としての性質を示す。水分子の酸素原子上には,孤立電子対があり塩基,配位子としても働く。水分子を配位子とする錯体は水和物となる。
 酸と塩基の定義のうち,【配位結合】で紹介したアレニウス酸・塩基の定義は水溶液中を前提にしたものである。
 プロトンの供与,及び受容の両方を行うことのできる溶媒中では,一部の溶媒が溶媒同士でプロトンを授受しイオン化する。この平衡を溶媒の自己解離( Self-ionization )と呼ぶ。
      水の自己解離: 2 H2O ⇆ H3O+ + OH
 従来は,H2O ⇆ H+ + OH と表記していたが,実際には遊離のプロトン( H+として存在せず,常に溶媒和したヒドロニウムイオン( H3O+として存在するので,最近の表記は上記に変わっている。
 なお,一般的にはプロトンを受容した溶媒陽イオンをリオニウム( lyonium ),プロトンを供与した溶媒陰イオンをリエイト( lyate )と呼ぶ
 自己解離は,平衡反応である。生成したリオニウムとリエイトの濃度の積は,温度と圧力に依存する一定の値である。これを自己解離定数,又はイオン積と呼び Kapで表す。
 水の場合は KWで表し,KW = [H3O+]・[OH],25 ℃で約 10−14 である。
 なお,一般的には,対数をとり符号を変えた pKW (= − log KW )= 14 を自己解離定数またはイオン積と呼ぶこともある。

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