第二部:物質の状態と変化 気体の状態方程式

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  ここでは,ボイル・シャルルの法則の深度化に寄与した【アボガドロの法則】, 【モル体積】と一般化された 【気体の状態方程式】  に項目を分けて紹介する。

 アボガドロの法則

 17 世紀の気体の性質に関する盛んな研究により,基本となるボイル・シャルルの法則「気体の圧力 P は体積 V に反比例し,熱力学的温度 T に比例する」が導き出されている。
      PV / T = C(一定)
 この法則提案時には不明であった定数 C の正体は,次に示すように 18 世紀に進んだ原子・分子の概念により明確になってきた。

  アボガドロの法則( Avogadro's law )
 アボガドロの法則とは,「同一圧力,同一温度,同一体積のすべての種類の気体には同じ数の分子が含まれる」である。
 この法則は,1811 年にゲイ=リュサックの気体反応の法則とドルトンの原子説の矛盾を説明するために仮説として提案された。しかしながら,当時の学会ではまったく相手にされず,彼の死後,アボガドロの法則として認知されるようになった。
 彼の功績に敬意を表し,死後に物質量 1 mol とそれを構成する粒子(分子,原子,イオンなど)の個数との対応を示す比例定数をアボガドロ数( Avogadro's number )と命名された。記号 NA で表し単位は mol−1 である。

 1865 年に,オーストリアの化学者ロシュミットは,気体の熱伝導を用いて,0 ℃ 1 気圧の 1 cm3 の体積に含まれる分子の数を初めて測定した。これはロシュミット数( NL = 2.6869 × 1019 個/1 cm3と呼ばれるが,科学分野の発展と共に,定義が明確(より普遍的)なアボガドロ数の方がより基本的な定数として用いられるようになった。その後,アボガドロ数は,1969年の IUPAC総会でアボガドロ定数( Avogadro constant )に名称が変更された。
 主要な物理定数の見直しは,国際 学術連合会議(International Council of Scientific Unions: ICSU )の科学技術データ委員会( Committee on Data for Science and Technology: CODATA )に 設置された基礎物理定数作業部会( Task Group on FundamentalPhysicalConstants )によって,不定期であるが,10年程度の間隔で実施されている。
 現在の推奨値( 2010年)は,NA = 6.02214129 ( 27 ) × 1023 mol−1 と,2003年の推奨値 NA = 6.02214150 ( 10 ) × 1023 mol-1 から僅かであるが変更されている。なお( )内の数値は最後の 2 桁に対する不確実さを示している。 010年 CODATA の推奨する気体定数は,R = 8.3144621(75) J・K-1・mol-1である。

 【参考】
  ゲイ=リュサックの法則( Gay-Lussac's law )
 フランスの化学者ジョセフ・ルイ・ゲイ=リュサックに因んで命名された 2 つの法則である。一般的に,単にゲイ=リュサックの法則という場合は,第 1 の法則「気体反応の法則」を指す。
 第 1 の法則
 この法則は,1808 年に公表され,気体反応の法則とも呼ばれる。気体が反応して別の気体を生成し,全ての体積を同じ温度で測定した時,「反応物と生成物の気体の体積の間の比は,簡単な整数の比で表される」。
  第 2 の法則
 この法則は,1802 年に公表しているが,1700年から1702年にかけて一定質量のガスの質量を保って圧力と温度の間の関係を発見したギヨーム・アモントンに因んで,アモントンの法則とも呼ばれる<「一定の質量と一定の体積の気体の圧力は,気体の熱力学的温度に比例する」である。式で示すと,P / T = C(一定)となる。
 ドルトン( Dalton )(ジョン・ドルトン)  イギリス人化学者 ( 1766~ 1844 ),1801年に分圧の法則,1803年に倍数比例の法則,原子説,1810年に原子量表を発表した。
 ドルトンの原子説とは,質量保存の法則・定比例の法則を説明するためにドルトンが提唱した説で“元素はそれぞれ固有な性質と質量とをもった微粒子(原子)から成り,化合物は異なる元素の原子が一定の割合で結合してできる”とする。この説は,その後に発見された電子,陽子,中性子やクォークの存在,同位体の存在と矛盾すること,さらには,気体の分子の概念を説明できないことなどから,“気体は,原子の種類に寄らず,いくつかの原子が結合した分子という粒子からなる”というアボガドロの分子説に取って代わられた。
 アメデオ・アヴォガドロ( Conte Lorenzo Romano Amedeo Carlo Avogadro di Quaregna e Cerreto )
 イタリア人物理・化学者 ( 1776~ 1856年 ),分子の存在を仮定し,現代化学の概念を築いた。1811 年に論文「物質の基本粒子の相対的質量とこれらの化合比率を決定する一つの方法」をフランスの科学雑誌に掲載した。
 アボガドロの死後, 1860 年の国際化学者会議でのカニッツァーロ(イタリアの化学者)の発表を機に再評価され,後に「同圧力,同温度,同体積の全ての種類の気体には同じ数の分子が含まれる」をアボガドロの法則と命名された。
 ロシュミット定数( Loschmidt's constant )
 0 ℃,1 気圧の単位体積の理想気体に含まれる分子数。CODATA の推奨値(2014年) NL = 2.6867811(15)×1025 m−3

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  モル体積

 モル体積( molar volume )
 単位物質量( 1 mol)の原子,又は分子の標準状態で占める体積である。
 固体や液体のモル体積は,規定の温度でのモル質量( kg / mol )÷密度( kg / m3 )でも求められる。
 気体のモル体積は,理想気体では,気体を構成する分子によらず一定の値を持つ。しかし,気体は,固体や液体とは異なり,温度と気圧の影響を顕著に受ける。
 例えば,0 ℃ 1 気圧( 101325 Pa)では,約 22.414 L / mol(リットル/モル),25 ℃ 1 気圧( 101325 Pa)では約 24.465 L / mol と計算される。
 なお,1 L = 10-3 m3 である。

 【参考】
 標準状態( normal state )
 気体の標準状態には,基準の温度を 25℃(298.15 K)とする SATP (標準環境温度と圧力: standard ambient temperature and pressure ),基準の温度を 0℃( 273.15 K)とする STP (標準温度と圧力: standard temperature and pressure )である。
 気体の標準状態としては,現在は試験室環境に近い SATP ( 25 ℃ 100kPa )の使用が多い。しかし,気体関連のJIS 規格,日本の高等学校教育などでは STP ( 0 ℃ 100kPa )を標準状態とする場合がある。なお,1990年以前の圧力は,1気圧= 101.3325kPa を用いていた。

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  気体の状態方程式

 0 ℃ 1 気圧( 101325 Pa)の気体 1 mol の体積(モル体積)は,( 2 )で説明したように,約 22.414 L である。従って,ボイル・シャルルの法則 PV / T = C(一定)から,
     C = 101325 Pa × 22.414 L / mol ÷ 273.15 K ≒ 8.3145 Pa・m3・mol-1・K-1
と計算される。
 1 mol 当たりの定数 8.3145 Pa・m3・mol-1・K-1 は,気体定数と呼ばれ,R で表記される。なお,単位については, Pa( N・m-2 )をエネルギーの単位 J( N・m )に変えて J・K-1・mol-1 が一般的に用いられている。
 アボガドロの法則に従い,n mol の気体の状態を示すボイル・シャルルの法則は,次のように書き換えることができる。なお,気体のモル分子量を M ,気体の質量を m とすると,n = m / M となる。

     PV = nRT

 この式を,気体の状態方程式( equation of state )と呼び,すべての気体について成立する公式として用いられている。
 なお,2010年 CODATA の推奨する気体定数は,R = 8.3144621(75) J・K-1・mol-1である。

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