第二部:物質の状態と変化 液体への溶解(実例)
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ここでは,溶媒と溶質の一般的な特徴について,【溶媒の特徴】, 【無機塩の溶解】, 【有機化合物の溶解】 に項目を分けて紹介する。
溶媒の特徴
【溶解現象とは】では,液体・溶液の一般的な事項について紹介している。ここでは,溶媒( solvent )として用いられる物質について紹介する。
JIS K 0211 2013 「分析化学用語(基礎部門)」では,溶媒を“溶液において物質を溶解させるために用いる液体。”と定義している。
すなわち,物質(固体,液体,気体)を均一に溶かす液体の呼称である。
溶媒には,目的物質を良く溶かす(溶解度が高い)こと,化学的に安定で溶質と化学反応しないことが求められる。
工業分野では,溶媒より広い意味合いを持たせ,溶剤( solvent )とも呼ばれる。溶剤と称した場合には,単一物質の液体を用いた本来の溶媒の他に,対象物質の溶解性や分散性改善目的に,複数の溶媒を混合した液体を含む。複数の溶媒の混合であることを強調する場合には,混合溶剤( mixed solvent )と称している。
溶媒は,用いる液体の分子中の電子の偏りに基づく双極子の有無により極性溶媒(親水性)と無極性溶媒(低極性,疎水性)とに大別される。極性溶媒は,さらにプロトン性溶媒( protic solvent )と非プロトン性溶媒( aprotic solvent )とに分類される。
無(低)極性溶媒
電子の偏りが無い分子,又は分子の対称性により,正の荷電の重心と負の荷電の重心が一致する分子の液体である。極性の低い有機化合物の溶解に用いられる。
溶媒名 | 示性式・分子式 | 式量 | 沸点(℃) | 溶解パラメータδ |
---|---|---|---|---|
ジエチルエーテル(エトキシエタン) | (C2H5)2O | 74.12 | 35 | 15.1 |
トリクロロメタン(クロロホルム) | CHCl3 | 119.38 | 61 | 19 |
ヘキサン | CH3(CH2)4CH3 | 86.18 | 69 | 14.8 |
ベンゼン | C6H6 | 78.11 | 80 | 18.7 |
メチルベンゼン(トルエン) | C6H5CH3 | 92.14 | 111 | 18.2 |
1,2-ジメチルベンゼン( o-キシレン) | C6H4(CH3)2 | 106.16 | 139 | 18.4 |
極性溶媒(プロトン性)
プロトン性溶媒とは,プロトン( H+ )を容易に供与する特性を持つ極性溶媒である。高い誘電率及び高い極性を有し,溶媒は水素結合を示し,極性を有する化合物や塩の溶解などに用いられる。
溶媒名 | 示性式・分子式 | 式量 | 沸点(℃) | 溶解パラメータδ |
---|---|---|---|---|
メタノール | CH3OH | 32.04 | 65 | 29.2 |
エタノール | CH3CH2OH | 46.07 | 79 | 26.4 |
1 - プロパノール | CH3(CH2)2OH | 60.1 | 97 | 24.5 |
水 | H2O | 18.02 | 100 | 47.8 |
極性溶媒(非プロトン性)
非プロトン性溶媒とは,プロトン( H+ )を供与する特性を持たず,一般的には,中間的な誘電率及び極性を持つ溶媒である。極性有する化合物やある種の塩の溶解などに用いられる。
溶媒名 | 示性式・分子式 | 式量 | 沸点(℃) | 溶解パラメータδ |
---|---|---|---|---|
ジエチルエーテル(エトキシエタン) | CH3CH2 O CH2CH3 | 74.12 | 34.6 | 15.1 |
ジクロロメタン(塩化メチレン) | CH2Cl2 | 84.93 | 40 | 19.8 |
アセトン | CH3(CO)CH3 | 58.08 | 56 | 20.0 |
酢酸エチル | CH3C(O) O CH2CH3 | 88.11 | 77 | 18.6 |
アセトニトリル | CH3CN | 41.05 | 82 | 24.0 |
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無機塩の溶解
極性溶媒の例として,ヒドロキシル基( hydroxyl group : OH基,水酸基ともいう)を持つ幾つかの溶媒に対する塩化ナトリウム( NaCl )の溶解度を下表に示す。なお,下表の溶解度は,化学便覧などの値を「溶媒 100 g に溶解する溶質の最大質量」で整理した値である。
溶媒名 | 化学式 | 式量 | 溶解度 |
---|---|---|---|
水 | H2O | 18.02 | 35.9 |
エチレングリコール | HOCH2CH2OH | 62.07 | 7.15 |
メタノール | CH3OH | 32.04 | 0.766 |
エタノール | CH3CH2OH | 46.07 | 0.0649 |
1 - ブタノール | CH3(CH2)3OH | 74.10 | 0.005 |
1 - ペンタノール | CH3(CH2)4OH | 88.15 | 0.00177 |
溶媒の種類で溶解度が大きく異なることが分かる。この要因は,ナトリウムイオン,塩化物イオンと溶媒分子との相互作用の違いが反映したものと考えられる。【無機塩の水溶解】で紹介したように,固体表面に露出する塩化物イオンとナトリウムイオンの結合は,イオンの溶媒和で弱まり,溶液中に溶媒和イオンとして拡散する。
溶媒に用いた分子の分極は,【双極子とは】で紹介したように,分子を構成する原子の電気陰性度の違いで生じる。
表に示した溶媒の分子ではヒドロキシル基(OH基,水酸基ともいう)の分極が大きい。この基の様に,極性の大きい基は水分子と水素結合を形成でき水和し易いので,一般的に親水基( hydrophilic group )と呼ばれる。
一方,分極の影響が小さい炭化水素基は水分子との相互作用がなく,水となじまないため,一般的には疎水基( hydrophobic group ,親油基ともいう)と呼ばれる。
表に示した塩化ナトリウムのアルコール類への溶解度の違いは,溶媒分子の中での親水基の寄与度の違いで説明される。
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有機化合物の溶解
有機酸や有機塩などのイオン解離可能な有機化合物の溶解性は,無機化合物の有機溶媒への溶解度と同様に,溶質及び溶媒の分子中の親水基と疎水基の寄与度の違いを考慮することで挙動を把握できる。
次には,参考のため,アルコール類に対する水の溶解度,水に対する有機化合物の溶解度,親水基を持つ極性有機溶媒としてブタノールに対する溶解度,及び親水基を持たない有機溶媒としてシクロヘキサンに対する溶解度の例を次に示す。なお,対比が容易なように,塩化ナトリウムの溶解度も付記した。
溶媒名 | 化学式 | 式量 | 溶解度 | 温度 |
---|---|---|---|---|
メタノール | CH3OH | 32.04 | ∞ | 25 ℃ |
エタノール | CH3CH2OH | 46.07 | ∞ | 25 ℃ |
1 - プロパノール | CH3CH2CH2OH | 60.10 | ∞ | 25 ℃ |
1 - ブタノール | CH3(CH2)3OH | 74.10 | 7.7 | 25 ℃ |
1 - ペンタノール | CH3(CH2)4OH | 88.15 | 2.2 | 25 ℃ |
1 - ヘキサノール | CH3(CH2)5OH | 102.17 | 0.62 | 25 ℃ |
1 - ヘプタノール | CH3(CH2)6OH | 116.20 | 0.33 | 20 ℃ |
溶媒名 | 化学式 | 式量 | 溶解度 | 温度 |
---|---|---|---|---|
塩化ナトリウム | NaCl | 58.44 | 35.9 | 25 ℃ |
安息香酸 | C6H5COOH | 122.12 | 0.35 | 25 ℃ |
オクタン酸 | CH3(CH2)6COOH | 144.21 | 0.068 | 20 ℃ |
オクタデカン酸 | CH3(CH2)16COOH | 284.48 | 3×10-4 | 20 ℃ |
1 - オクタデカノール | CH3(CH2)16CH2OH | 270.49 | 1.1×10-7 | 25 ℃ |
溶媒名 | 化学式 | 式量 | 溶解度 | 温度 |
---|---|---|---|---|
オクタン酸 | CH3(CH2)6COOH | 144.21 | 750 | 10 ℃ |
ヘキサデカン | CH3(CH2)14CH3 | 226.44 | 50 | 15 ℃ |
1 - オクタデカノール | CH3(CH2)16CH2OH | 270.49 | 9.2 | 20 ℃ |
オクタデカン酸 | CH3(CH2)16COOH | 284.48 | 1.6 | 20 ℃ |
塩化ナトリウム | NaCl | 58.44 | 0.005 | 25 ℃ |
溶媒名 | 化学式 | 式量 | 溶解度 | 温度 |
---|---|---|---|---|
ヘキサデカン | CH3(CH2)14CH3 | 226.44 | 1440 | 15 ℃ |
オクタン酸 | CH3(CH2)6COOH | 144.21 | 670 | 10 ℃ |
1 - オクタデカノール | CH3(CH2)16CH2OH | 270.49 | 3.2 | 20 ℃ |
オクタデカン酸 | CH3(CH2)16COOH | 284.48 | 2.4 | 20 ℃ |
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