防食概論:防食の基礎

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          【防食設計(環境の腐食性)】

 鋼橋などの陸上構造物では,【鋼の腐食】・ 【大気環境の腐食】で解説したように,鋼材表面の濡れ(wetting)の影響を受けて腐食が進む。
 表面の濡れは,架設地の気象因子に加えて,鋼表面に付着する大気汚染物質(特に海塩粒子等の塩化物や硫黄酸化物など)の影響を強く受ける。
 従って,屋外環境にある鋼橋の防食設計では,第一に,鋼橋の架設環境の腐食性把握が必要である。
 次いで,構造物の構造や隣接物に由来する局部的,局所的な腐食性把握が望まれる。つまり,鋼橋などの鋼構造物では,全面腐食(general corrosion)が構造物健全性に致命的な影響を与えることはまれで,多くの場合は,局部腐食(local corrosion)による健全性低下を理由に補修・補強工事,架け替え工事に至る事例が圧倒的に多い。
 局部腐食に至る主要因は,構造物の形状や部材の位置関係を理由とする漏水,滞水,塵埃堆積などの局所的な環境差,及び不適切な材料組み合わせによる異種金属接触腐食(bimetallic corrosion)などである。
 このように,架設環境の腐食性把握に加え,構造物構造に起因する局部腐食の可能性把握も重要である。

【環境因子の把握】
 腐食に影響する環境因子(environmental factor),すなわち気象因子環境汚染因子の定量的把握には,JIS Z 2381 「大気暴露試験方法通則」に規定する「環境因子の測定項目」に準じて実施するのが望ましい。
 環境汚染因子の具体的な計測は,JIS Z 2382 「大気環境の腐食性を評価するための環境汚染因子の測定」に準じて実施するのが望ましい。
 
次には,主な環境汚染因子の計測や推定に関する要点を紹介する。
 飛来塩分
 飛来塩分(flying salinity)に関する定義は一定していないが,一般には飛来海塩粒子(airborne sea salt particles)に加え,散布された凍結防止剤(antifreezing agent)由来の塩粒子,工場などからの人為的な原因で飛来する塩粒子なども含まれる。
 飛来海塩粒子とは,大気中に含まれるエアロゾル粒子の中の海塩粒子(sea salt particle)を指し,海塩粒子とは,海岸の波打ち際及び/又は海上で波頭が砕けたときに発生する海水ミストが,風で運ばれて飛来した粒子をいう(JIS Z 2381「大気暴露試験方法通則」)。
 
 飛来塩分の測定は,JIS Z 2382に規定される方法を用いて,構造物の架設が計画されている場所での計測が望ましい。しかし,JIS に規定する方法では,計測に少なくとも1年の期間と経費(最低でも月1回の回収と分析)が必要である。
 そこで,実測データが得られない状況では,次に示す立地条件や付近の構造物の腐食状況(特に,アルミニウムの孔食程度,溶融亜鉛めっき鋼のめっき消耗度など)を観察することで,海塩粒子の影響について,概略の推定が可能である。
 構造物の立地条件としては,海上の場合には海水面からの高さ,陸上の場合は海岸からの距離(離岸距離),及び構造物から海岸までの間の障害物(密集する建築物,防風・防砂林など)の有無,海域の特徴(太平洋側,日本海側,季節風の特徴など)から海塩粒子の飛来程度をある程度推定できる。
 
 凍結防止剤の影響については,高速道路,及び主要国道では,地域によらず,冬季に凍結防止剤を散布していると想定してよい。
 凍結防止剤には,金属の腐食に影響する塩化ナトリウム,塩化カルシウムが主に用いられている。地域によっては腐食性を考慮し,CMA(カルシウム・マグネシウム・アセテート)を採用している場合もあるが,岩塩等に比較し非常に高価なため,札幌など限定された地域のみである。
 凍結防止剤散布した構造物では,凍結防止剤の溶解した水の漏水による影響が大きい。また,自動車走行時の巻き上げで,道路から数100m以内の構造物に影響する。
 
 硫黄化合物等
 過去には人工的排出源として工場の排気ガスが指摘されていたが,1970年の大気汚染防止法(Air Pollution Control Act)大改正後に大規模工場からの排出量は激減している。
 しかしながら,小規模の発生源は現存しているので,構造物架設予定地周辺に,家畜飼育場,中規模以下の焼却炉などの排出源有無について調査を行うべきである。
 天然の排出源としては,火山,温泉などがある。これらの地域では,JIS Z 2382に規定される方法を用いて,硫黄化合物(SOxや硫化水素)の量を計測するか周辺構造物の腐食状況の観察などで腐食性を推定する。
 
 湿潤状態の継続性
 広域の気象条件は,気象庁の気象統計情報などを参考にするとよい。
 局所的な濡れ環境としては,構造物周辺の水環境(滝や漏水など),河川,湖沼上では水面からの高さ,周辺の地形(風通しなど),植生や構造物の構造上での滞水し易い構造,乾きにくい構造などの観察から局部・局所的腐食促進を推定できる。
 
 【参考】
 大気腐食(general requirements for atmospheric exposure test)
 読み「たいきふしょく」,大気中で起きる金属の腐食。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
 大気中の水(水蒸気,降雨)で金属表面に薄い水膜が形成し,水膜に溶け込んだ酸素の還元で腐食反応が進む。
 大気中では,乾食に分類されるかわき大気腐食,湿食に分類される薄い水膜(大気中の水蒸気の付着)による湿り大気腐食,厚い水膜(結露や降雨)による濡れ大気腐食に分けられる。
 最も身近に観察されるのが濡れ大気腐食で,水膜に溶け込んだ酸素の還元で腐食反応が進む。工場や海に近い環境など大気に含まれる汚染物質,特に水に溶けてイオンとなる電解質が大きい環境では実用上で不都合な速さで腐食が進行することが知られている。
 均一腐食(uniform corrosion)
 読み「きんいつふしょく」,金属表面にほぼ均一に生じる腐食。全面腐食ともいう。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
 局部腐食(localized corrosion)
 読み「きょくぶふしょく」,金属表面の腐食が均一でなく,局部的に集中して生じる腐食。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
 局部的に集中して起こる腐食。【JIS H 0201「アルミニウム表面処理用語」】
 金属種や腐食要因の違いで孔食,すき間腐食,異種金属接触腐食など様々ある。
 異種金属接触腐食(bimetallic corrosion, galvanic corrosion)
 異種金属が直接接続されて,両者間に電池が構成された時に生じる腐食。ガルバニック腐食ともいう。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
 マクロ腐食電池(macro-galvanic cell)による腐食一種であるが,ガルバニック腐食(galvanic corrosion)という場合には,異種金属接触電池(galvanic cell)による腐食を指すのが一般的である。なお,電解質を介して電気回路が形成し腐食する場合を接触腐食ともいわれる。
 環境因子(environmental factor)
 一般的には,生物の生存,生活に影響する環境の条件をいう。腐食工学では,鋼などの金属の腐食に影響する環境条件(environmental conditions)をいう。例えば,大気腐食(屋外)では,気温,湿度,降水,海塩粒子,二酸化硫黄などが環境因子として取り上げられる。
 JIS Z 2381 「大気暴露試験方法通則:General requirements for atmospheric exposure test」では,環境因子を“暴露試験場における気象因子及び大気汚染因子の総称。”,気象因子を“気象観測の対象となる気温,湿度,太陽放射エネルギー量,降水量,風向,風速などの因子。”,大気汚染因子を“人為的・自然的に発生する硫黄酸化物,窒素酸化物,硫化水素,海塩粒子などの暴露試験に影響を及ぼす因子。”と定義している。
 気象因子(meteorological factors)
 JIS Z 2381 「大気暴露試験方法通則:General requirements for atmospheric exposure test」では,気象因子を“気象観測の対象となる気温,湿度,太陽放射エネルギー量,降水量,風向,風速などの因子。”と定義している。一般的には,気象要素(meteorological element)ともいい,気象学でいう気候要素(climatic factor)と同等の意味で用いられる。
 気象(meteorological phenomena)とは,大気の状態や大気の中で起きる現象をいい,気候(climate)とは,その地域を特徴づける大気の状態をいう。
 気候要素(climatic factor)とは,ある気候を構成する種々の要素で学術的には気温,降水量,風向・風速の三大要素に加えて気圧,湿度,蒸発散量,雲量,日照時間,日射量,水温,地温,降水時間,土壌水分量などが挙げられる。
 なお,気候因子(climatic factor)といった場合は,気候の地域差を生じる原因となる緯度・高度・水陸分布・地形・海流などを指し,この結果として,各地の気候要素(気温,降水量,風向・風速など)に影響を与える。
 大気汚染(aerial environment pollution , atmospheric [air] pollution)
 大気環境汚染ともいい,大気中において,人の健康や環境に悪影響を及ぼす微粒子や気体成分の増加。
 化学が大きくかかわる“大気・海洋・水・土壌環境の保全”で問題とされる具体的な課題を分類すると次の通りである。
 汚染物質発生源付近での大気汚染,水質汚染,土壌汚染など公害として扱われる局地的な課題。
 酸性雨,粒子状物質( PM )や光化学オキシダントなどの大気環境汚染,広域の海洋生物に影響する海洋汚染などの県境,国境を越えた比較的広い地域の課題。
 オゾン層破壊,地球温暖化などの地球規模の課題。
 大気汚染防止法(Air Pollution Control Act)
 昭和43年6月10日制定,法律第97号 第一条(目的) この法律は、工場及び事業場における事業活動並びに建築物等の解体等に伴うばい煙、揮発性有機化合物及び粉じんの排出等を規制し、水銀に関する水俣条約(以下「条約」という。)の的確かつ円滑な実施を確保するため工場及び事業場における事業活動に伴う水銀等の排出を規制し、有害大気汚染物質対策の実施を推進し、並びに自動車排出ガスに係る許容限度を定めること等により、大気の汚染に関し、国民の健康を保護するとともに生活環境を保全し、並びに大気の汚染に関して人の健康に係る被害が生じた場合における事業者の損害賠償の責任について定めることにより、被害者の保護を図ることを目的とする。

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