防食概論防食の基礎

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 腐食試験と評価法

 被膜厚み,鋼板厚みの評価

 試験片のみならず,実構造物などの塗膜厚み,めっき厚み,さび層厚み,及び鋼板の厚みなどの寸法を現地で計測できる方法には,次のものがある。

 【被膜厚みの計測機器】

 電磁現象を用いた厚み計測
 電磁現象を利用した膜厚計には,① 交番磁界(alternating magnetic field)を利用したもの,② 静的磁界を利用したもの,③ 高周波渦電流を利用したものがある。いずれも電磁式膜厚計といえるが,一般的には,① の交番磁界を利用したものを電磁膜厚計といい,② は磁気膜厚計,③ 渦電流式膜厚計と呼び区別されている。
 電磁式膜厚計(electromagnetic thickness tester)
 鉄や鋼などの強磁性(ferromagnetism)金属素地上の常磁性(paramagnetism)被膜(亜鉛やアルミニウムなど)や非磁性(nonmagnetism)被膜(塗膜,ライニング,さびなど)の厚さを,測定器の交番磁界を発生する磁極(鉄心などに巻かれたコイルに交流電圧を印加,プローブともいう),被膜及び素地金属を通る磁気回路の磁気抵抗(磁極に巻かれたコイルの交番電流変化)を測定することで厚みが求まる。
 渦電流式膜厚計(eddy-current thickness tester)
 検出器のコイルに高周波電流渦電流(eddy-current)電気絶縁性被膜の厚さや材料種により変わることを利用して厚みが求まる。
 主に,金属表面の導電性のない被膜(塗膜やライニングなど)の厚み測定に用いられる。電磁式膜厚計と渦電流式膜厚計を組み合わせることで,塗装した溶融亜鉛めっき鋼の塗膜厚みと亜鉛めっき厚みを別々に求めることもできる。

 【塗料・塗膜の厚み測定法】

 JIS K5600-1-7 「塗料一般試験方法−第1部:通則−第7節:膜厚」には,未硬化の塗料の厚み(ぬれ膜厚(wet-film thickness))及び硬化した塗膜の厚み(乾燥膜厚(dry-film thickness))の測定方法が規定されている。次には,規定される測定法の概要を紹介する。
 
 ぬれ膜厚(塗料)
 ぬれ膜厚とは,塗装直後の未乾燥状態での膜厚。【JIS K5600-1-7 「塗料一般試験方法−第1部:通則−第7節:膜厚」 】
 当該規格には,ぬれ膜厚を求める方法として,機械式測定法(mechanical methods)と重量法(gravimetric method)が規定されている。
 機械式測定法には,板の両端の一対の歯の内側に隙間の異なる歯列があり,塗料によってぬれる歯の最も大きいギャップの読みから塗料の厚みを求めるくし形ゲージ(comb gauge),円筒に同じ直径で同軸となる 2つの枠と直径が小さく偏心している枠の 3つの枠があり,外側の枠の一方には,目盛が刻まれており,偏心枠の数値は,同心枠の目盛と対比して読み取ることができる構造を持つロータリー形ゲージ(wheel gauge)を用いて,枠を転がし塗料で濡れている偏心した枠の最も高い目盛の値からぬれ厚みを求める方法がある。
 重量法は,揮発性の高い成分の量が少ない液状の塗料に対し,被塗物の重量増加量から求めら塗料使用量を,塗料の密度及び塗装された面積で除すことで求める質量法(difference in mass)がある。
 
 乾燥膜厚(塗料)
 乾燥膜厚とは,塗料乾燥後の膜厚。 【JIS K5600-1-7 「塗料一般試験方法−第1部:通則−第7節:膜厚」 】
 当該規格には,乾燥膜厚の測定に使用する機械式測定法(mechanical methods),重量法(gravimetric method),光学的方法(optical methods),磁気法(magnetic methods),放射線法(radiological method)及び音響法(acoustic method)が規定されている。
 機械式測定法には,マイクロメータなどを用いた塗膜除去箇所との厚さの違いによる厚さの差法(difference in thickness),塗膜除去箇所の深さ計を用いたデプスゲージ法(depth gauging),表面粗さ計と同様の原理で,塗膜除去箇所の触針走査で求める表面輪郭の走査(surface profile scanning)ある。
 重量法には,質量法(difference in mass)があり,光学的方法には,塗膜断面を成形し拡大観察する断面法(cross-sectioning),一定角度で斜めに切削した塗膜の幅を計測して三角関数を用いて深さを求めるくさび形切削法(wedge cut)がある。
 磁気法には,永久磁石と強磁性の素地との間の磁気吸引力を測定する磁気プルオフ膜厚計(magnetic pull-off gauge),強磁性の素地に電磁石が接近するときに磁場中で起こる電磁誘導による磁気誘導膜厚計(megnetic-induction gauge),導電性素地中の高周波渦電流によって生じた磁場の変化かラ求める渦電流膜厚計(eddy-current gauge)がある。
 放射線法には,素地からの放射線反射を利用するβ線後方散乱法(beta backscatter method)があり,音響法には,音波の伝達時間差を利用する超音波膜厚計(ultrasonic thickness gauge)がある。

 【板厚みの計測】

 電気抵抗法:導電性を有する金属などに適用できる。4 電極式の電気抵抗計を用いた板厚測定,板厚 5mm以上で 2%程度の誤差で計測可能である。
 渦電流法:導電性を有する金属などに適用できる。誘導コイルを金属体に近づけたときに発生する渦電流は,厚みや内部の欠陥の影響を受ける。渦電流の影響を誘導コイルのインピーダンス変化として検知し,金属体の厚み,欠陥の程度,腐食程度などを検知できる。
 超音波法:金属に限らず,比較的均質で,平滑な外面を有する材料に適用できる。超音波の板材底面から反射した超音波エコーの時間差から厚みを計測,平滑な面では,1~2%の誤差で計測できるが,腐食などにより凹凸が大きいと精度が落ちる。
 放射線法:金属に限らず,多くの材料に適用できる。X線やγ線を透過させ,透過量の違いから厚みや内部欠陥を検知する。小型部品の三次元での断面観察が可能な装置( X線 CT )もある。

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