防食概論:防食の基礎
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環境遮断(金属被覆)
金属被覆:機能別分類
鋼などの素地金属の表面を異種金属で覆った金属被覆(metal coating , metallic coating)は,古くから身近に存在してきた。金属被覆の目的は,母材となる金属に不足する機能・特性の付与や向上である。
具体的には,装飾性の向上,防せい・防食性の向上,硬さ(耐傷つき)の向上,耐摩耗性の向上,電気特性の改善,はんだ等との付着性改善などである。
一般的には,金属被覆といった場合には,めっき(plating)や溶射(thermal spraying)などの表面処理方法を意味することが多い。特に,母材となる金属に耐食・耐熱性や美観の向上を目的に行う金属表面処理(metal finishing)を指す場合が多い。
防食目的の場合は,環境遮断を目的とした被覆防食法の一種で,耐食性に優れる貴金属や耐食性の高いクロム,ニッケルなどをめっきする方法,犠牲陽極ともいわれる流電陽極(galvanic anode)となりうる電極電位(electrode potential)の卑な金属を被覆(めっき,溶射など)する方法がある。
防食を目的とする場合には,防食原理や防食機構の違いからバリア型,犠牲アノード型,及びその複合型に分類される。
【バリア型】
鋼などの母材を,使用環境での耐食性が高い金属で被覆し,環境因子のバリアとして作用することを期待したもの。この種の被覆に用いられる金属は,母材より腐食電位が貴なものが多い。例えば,鋼素地に対しては,鉛(Pb),錫(Sn),銅(Cu),ニッケル(Ni),クロム(Cr),銀(Ag),金(Au)などを被覆したものが実用されている。Cu,Cr,Ag,Auなどの被覆では,防食機能以外に装飾性の付与を目的とした使用も多い。
この種の被膜では,素地に達する欠陥が無い場合は,非常に高い耐食性を期待できる。しかし,ピンホールや傷つきなどの素地に達する損傷がある場合には,素地金属と被覆金属間に電気回路が形成し,異種金属接触腐食(bimetallic corrosion, galvanic corrosion)が起きる。すなわち,露出した素地金属がアノードとなり,被覆金属が広いカソードとして作用するため,素地金属の腐食電流密度が高くなり,容易に局部腐食(local corrosion)が進行する。
一般的には,欠陥があると,下図に示すように,被覆膜との界面で横方向に腐食が進行し,被膜のはがれに至る。
【犠牲アノード型】
鋼などの母材を,使用環境で母材より腐食電位が卑な金属で被覆したもの。この場合には,ピンホールや傷つきなどの素地に達する損傷があっても,露出した素地金属がカソード(cathode)となり,被覆金属が広いアノード(anode)として作用するため,被覆金属が犠牲的に腐食し,素地金属の腐食を抑制できる。これは,陰極防食(cathodic protection)の一種で,犠牲的保護作用や犠牲防食作用などともいう。素地に達する損傷がない場合には,被覆金属の耐食性が皮膜の寿命の決定因子となる。このため,一般的には,使用環境での腐食性が低い金属が選ばれる。例えば,鋼素地に対しては,亜鉛(Zn),アルミニウム(Al),アルミニウム・亜鉛合金(55%Al-Zn合金,5%Al-1%Mg-Zn合金など)が被覆として実用されている。
犠牲防食作用を模式的に下図に示す。素地に達する欠陥部では,被覆膜が犠牲的に腐食し,素地金属の腐食を抑制する。その後,広い範囲の皮膜が腐食で消失すると,露出した素地金属に犠牲防食作用が及ばない範囲(電荷移動の限界を超える距離,環境条件に依存)が現れ,素地金属の腐食が始まる。
【参考】
局部腐食(local corrosion)
読み「きょくぶふしょく」,金属表面の腐食が均一でなく,局部的に集中して生じる腐食。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
局部的に集中して起こる腐食。【JIS H 0201「アルミニウム表面処理用語」】
金属種や腐食要因の違いで孔食,すき間腐食,異種金属接触腐食など様々ある。
陰極防食法(cathodic protection)
カソード防食ともいい,電極電位を基準値(防食電位)以下に下げることで目的を達成する電気化学的防食法。
外部からの電流付与方法には,電源装置を用いて電流を与える【外部電源方式】,異種金属接触腐食の原理を利用した【流電陽極方式】の 2種ある。
流電陽極方式(galvanic anode system)
被防食金属に,これより卑な金属を接続して防食電流を供給するカソード防食法。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
流電陽極(galvanic anode)とは,流電陽極方式の電気防食法で使用される陽極で,犠牲陽極(sacrificial anode)ともいう。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
外部電源を用いない陰極防食(カソード防食)の流電陽極方式は,防食対象の金属(例えば鋼)より電位が卑な金属(例えば,亜鉛,アルミニウム,マグネシウム,及びそれらの合金)を外部のアノード電極として接続し,金属間の電位差に起因し自然に発生する電流で防食する方法である。
接続される電位が卑な金属は,流電陽極(galvanic anode),又は犠牲陽極(sacrificial anode)などと呼ばれる。
流電陽極には,防食対象の金属より電位が卑な金属が用いられる。この場合には,被膜にピンホールや傷つきなどの素地に達する損傷があっても,露出した素地金属がカソードとなり,被覆金属が広いアノード(陽極)として作用するため,被覆金属が犠牲的に腐食し,素地金属の腐食を抑制できる。これを犠牲陽極作用,犠牲的保護作用や犠牲防食作用などともいう。
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