防食概論防食の基礎

  ☆ “ホーム” ⇒ “腐食・防食とは“ ⇒ “防食概論(防食の基礎)” ⇒

 環境遮断(金属被覆)

 溶射被膜の品質

 JIS H 8300「亜鉛,アルミニウム及びそれらの合金溶射」を参考に,鋼構造物で用いられる溶射被膜の品質に影響する要因について解説する。
 鋼橋など鋼構造物にでは,亜鉛溶射(zinc spraying),及び 15%アルミニウム-亜鉛合金溶射(zinc-15%aluminium alloy spraying)の使用が一般的である。現場溶射では,15%アルミニウム-亜鉛合金溶射と同じ比率でアルミニウムと亜鉛を同時に溶射する方法(擬合金溶射などと称するが,合金ではない)もある。
 これらの溶射被膜は,溶融めっきと同様の原理で鋼の防食に寄与する。従って,溶射被膜に期待する耐久性は,めっき被膜と同様に素地との密着性(adhesiveness)の影響を大きく受ける。さらに,溶射被膜の特性である封孔処理(sealing)の品質の影響大きい。
 素地との密着性は,素地調整の品質,すなわち鋼表面の清浄度(cleanliness , preparation grade)と適切な表面粗さ(surface roughness)に影響される。さらに,素地調整後溶射作業に至るまでの時間や施工場所の環境条件など施工管理にも大きく影響される。

 JIS H 8300 附属書 B には,使用環境別に,溶射被膜の最小厚さが推奨されている。次には,都市地帯と大気海洋環境を抜粋して示す。なお,最小皮膜厚さは,実用上で問題を起こさない最小厚みの推奨値であり,耐久性を保証するものではない。
 都市地帯
  裸 仕 様 :Zn 99.99(100μm),ZnAl 15(100μm),Al 99.5(150μm),AlMg 5(150μm)
  塗装仕様 :Zn 99.99( 50μm) ,ZnAl 15( 50μm),Al 99.5(100μm),AlMg 5(100μm)
 
 大気海洋環境
  裸 仕 様 :Zn 99.99(150μm),ZnAl 15(150μm),Al 99.5(200μm),AlMg 5(250μm)
  塗装仕様 :Zn 99.99(100μm),ZnAl 15(100μm),Al 99.5(100μm),AlMg 5(200μm)

 【溶射関連のJIS規格】
  JIS Z 0312 「ブラスト処理用非金属系研削材」
  JIS Z 0313 「素地調整用ブラスト処理面の試験及び評価方法」
  JIS Z 0311 「ブラスト処理用金属系研削材」
  JIS H 8200 「溶射用語」
  JIS H 8260 「溶射用粉末材料」
  JIS H 8261 「溶射用の線材,棒材及びコード材」
  JIS H 8300 「亜鉛,アルミニウム及びそれらの合金溶射」
  JIS H 8401 「溶射被膜の厚さ試験方法」
  JIS H 8402 「溶射皮膜の引張密着強さ試験方法」
 【参考】
 封孔処理(sealing)
 溶射被膜の開口気孔に封孔剤を浸透させて気孔を充填し,皮膜の化学的性質及び物理的性質を改善する処理。【JIS H8200「溶射用語」】
 陽極酸化によって生成した多孔性皮膜の微細孔を封じ,耐汚染性,耐食性などの物理的,化学的性質を改善する処理の総称。水蒸気封孔,沸騰水封孔,低温封孔などがある。【JIS H0201「アルミニウム表面処理用語」】
 清浄度(cleanliness , preparation grade)
 グリットを用いたブラスト処理による表面の標準的前処理の等級付け。【JIS H8200「溶射用語」】
 鋼材表面を処理した後の,被覆の付着を阻害するミルスケール及びさび,塩類,油分などの汚れの除去程度。【 JIS Z 0310「素地調整用ブラスト処理方法通則」】
 ある(素地調整)方法によって得られる清浄仕上げの品質水準を説明する分類(JIS Z 0310「素地調整用ブラスト処理方法通則」,ISO 8501/1参照)。【JIS K5500「塗料用語」】
 表面粗さ(surface roughness, surface profile)
 仕上げられたブラスト処理表面の粗さ。【 JIS Z 0310「素地調整用ブラスト処理方法通則」】
 基材又は溶射被膜の表面の凹凸状態(JIS H 8401「溶射皮膜の厚さ試験方法」,JIS Z0313「素地調整用ブラスト処理面の試験及び評価方法」 参照)。【JIS H8200「溶射用語」】
 すなわち,表面粗さは,粗度ともいわれ,金属表面などの表面性状を表すパラメータで表される。
 表面状態を示パラメータは,JIS B 0601「製品の幾何特性仕様 (GPS) -表面性状:輪郭曲線方式-用語,定義及び表面性状パラメータ」に規定されている。
 素地調整では,十点平均粗さ(ten point height of irregularities)で規定されることが多い。一方,JIS B 0601は過去の改訂で,パラメータの定義が変更され,それに伴い記号も変更されているので注意が必要である。
 以下に示すように,2001年のJIS改訂でそれまで十点平均粗さを示す記号Rzは最大高さの記号になり,十点平均粗さの概念が削除された。このため,それまでの十点平均粗さ意味する記号として,RzJISの表記が用いられている。
 2001年以前の文献と現在の文献を引用する場合は記号の意味が異なるので注意が必要である。2001年の記号と1994年の記号からの変更は次の通りである。
 Ra(算術平均粗さ)⇒Ra(算術平均粗さ) ,Ry(最大高さ)⇒Rz(最大高さ) ,Rz(十点平均粗さ)⇒(削除) ,Sm(凹凸の平均間隔)⇒Rsm(輪郭曲線要素の平均長さ) ,S(局部山頂の平均間隔)⇒(削除) ,tp(負荷長さ率)⇒Rmr(負荷長さ)

  ページのトップへ