防食概論防食の基礎

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 環境遮断(ライニング被覆)

 有機高分子材料の基礎

 有機ライニングや塗装は,有機高分子化合物(organic macromolecule)充填物で構成されている。被膜の基本性能は,母材の有機高分子化合物の特性に大きく影響を受ける。
 有機高分子化合物を主成分する有機高分子材料の一般的な特徴は,電気を通さない(絶縁性),水や薬品などに強く腐食しにくい(耐薬品性),加工の自由度が高い(成形性),燃えやすい(耐燃性),紫外線に弱い(耐紫外線性)等が挙げられる。それらの特性に応じた材料選定が必要になる。
 ここでは,有機高分子材料の一般的な分類とその概要を紹介する。有機高分子材料の分類では,原材料による分類と特性による分類に分けられる。

 【原材料による分類】

 一般的な原料による分類として,自然界に存在する天然樹脂天然油脂,石油等の化石原料から人為的に合成された合成樹脂がある。
 
 天然樹脂(natural resin,resin)
 樹木又は虫類の分泌されてできた,主に塊状のもの,又はこれらが地中に埋れて半化石状態になったものの総称。ロジン,セラック,ダンマル,コーパル,こはく(琥珀)など。【JIS K5500「塗料用語」】
 天然樹脂には,樹木又は虫類の分泌物から形成したもの,又はこれらが地中に埋れて半化石状態になったものがある。天然樹脂として,動植物由来のロジン(松脂),天然ゴム,セラック,ダンマル,コーパル,こはくなど,鉱物質ではアスファルトが実用されている。
 なお,樹脂(resin)とは,樹皮より分泌される樹液に含まれる不揮発性の固体または半固形体の物質のことを指しており,樹脂といえば天然樹脂のことを指していた。しかし,有機化学の発達で化学的には別種の物質であるが,天然樹脂と似た性質を持つ物質が合成されるようになった。そこで,従来樹脂と呼ばれていたものを天然樹脂と呼んで区別するようになった。
 ロジン(rosin, colophonium)
 マツ科の植物の樹液である松脂(まつやに),又は松の木のくずを水蒸気蒸留して得た物質を,更に蒸留して,テレビン油を流出分離したときの樹脂状の残留物で,ロジン酸(アビエチン酸,パラストリン酸,イソピマール酸等)を主成分とする天然樹脂。
 JIS K 5902「ロジン」:生松脂から製造したロジンについて規定。規格ではロジンを 2等級に分け,色の明るさを示す番号を付けて分類されている。1級:1~5号,2級:1~8号
 セラック(shellac, orange shellac)
 ラック虫 (Taccardia Lacca) が,ある種の植物に寄生して出した分泌物の塊を採取して精製した樹脂状物質。エチルアルコールに溶け,セラックニスの塗膜形成要素として用いる。【JIS K5500「塗料用語」】
 ラックカイガラムシ(Laccifer lacca),およびその近縁の数種のカイガラムシの分泌する虫体被覆物を精製して得られる樹脂状の物質。常温で黄色から褐色の透明性のある固体。精製で白色,透明になる。通常,熱可塑性であるが,一定の温度では熱硬化性を示す。アルコール系溶剤に溶けるが,他の有機溶剤には耐性を示す。JIS K 5909「セラック」 参照。
 
 天然油脂(natural oil)
 天然物から採取した脂肪油。主成分は脂肪酸のグリセリンエステル。乾燥性の程度によって,乾性油・半乾性油・不乾性油に分ける。乾燥性の目安として,よう素価が用いられる。
 よう素価 130以上を乾性油,130~100を半乾性油,100以下を不乾性油ということがあるが,明確な区分の定義はない。(ASTM では,区分の定義はないとしている。)【JIS K5500「塗料用語」】
 油脂(oil)は,脂肪酸とグリセリンとのエステル化合物のため,空気中の酸素により酸化重合し,三次元網目構造の樹脂になる。酸化され易さで,乾性油,半乾性油,不乾性油に分けられる。
 乾性油(drying oil)
 薄膜にし空気中に置くと,酸素を吸収して酸化し,これに伴って重合が起こって固化し,塗膜を形成する脂肪油。高度不飽和脂肪酸を含む。【JIS K5500「塗料用語」】
 乾性油の主成分である不飽和脂肪酸(二重結合を持つ)の二重結合が空気中の酸素と反応し,過酸化物やラジカルが生じる。これらが開始剤となり,二重結合間の重合反応が進行することで分子量の大きな網目状の高分子となる。不飽和脂肪酸の量が多いもの,すなわちヨウ素価の高い油ほど固まるのが早い。
 亜麻仁(あまに)油・桐(きり)油・芥子(けし)油・紫蘇(しそ)油・胡桃(くるみ)油・荏(えごま)油・紅花(べにばな)油・向日葵(ひまわり)油などがあり,あまに油,えごま油,きり油,ひまし油やサフラワー油などが塗料の原料(ボイル油,油ワニス,アルキド樹脂の油変性剤)として用いられていた。近年では,合成樹脂が主流となり,用途が限られてきている。
 半乾性油(semidrying oil)
 乾性油ほど早くはないが,空気中で乾燥する性質のある脂肪油。一般によう素価 100~130のもの。大豆(だいず)油・コーン油・綿実(めんじつ)油・胡麻(ごま)油などがある。【JIS K5500「塗料用語」】
 不乾性油(nondrying oil)
 液状の脂肪油で,空気中で乾燥しないもの。よう素価 100以下の脂肪油。オリーブ油・扁桃(あーもんど)油・落花生(らっかせい)油・椰子(やし)油・椿(つばき)油・菜種(なたね)油・蓖麻子(ひまし)油などがある。【JIS K5500「塗料用語」】
 
 合成樹脂(synthetic resin)
 それ自身は樹脂の特性を持っていない,反応性分から重合,縮合のような制御された化学反応によって作られた樹脂。【JIS K5500「塗料用語」】
 すなわち,樹脂としての特性を持っていない有機高分子化合物,又は無機高分子化合物からなる物質の中で,重合,縮合のような制御された化学反応によって人為的に製造された樹脂を指す。機能・特性の異なる様々なものが開発され,その数は年々増加している。
 実用される塗料に用いられる合成樹脂には,アルキド樹脂(alkyd resin, alkyds),エポキシ樹脂(epoxy resin),塩化ビニール樹脂(vinyl chroride resin),アクリル樹脂(acrylic resin),フェノール樹脂(phenolic resin)など様々なものがある。
 有機ライニングに用いられる合成樹脂には,ナイロン(nylon ,ポリアミド:polyamide),ポリエチレン(polyethylene),ポリウレタン樹脂(polyurethane resin),エポキシ樹脂などがある。
 アルキド樹脂(alkyd resin, alkyds)
 多塩基酸及び脂肪酸(又は脂肪油)と多価アルコール類との縮重合によって作られる合成樹脂。
 多価アルコールとしてグリセリン,ペンタエリトリトールなど,多塩基酸として無水フタル酸,無水マレイン酸など,脂肪酸としてあまに油,大豆油,ひまし油などの脂肪酸が使われる。樹脂中に結合する脂肪酸の割合が大きいものから小さいものへの順に,長油アルキド・中油アルキド・短油アルキドという。【JIS K5500「塗料用語」】
 アルキド樹脂は,アルコール(alcohol)と酸(acid)又は酸無水物(acid anhydride)反応の反応によるエステル化合物である。アルキドは,アルキッドとも呼ばれ,ポリエステルに属する樹脂である。塗料や印刷インキの業界で使用されるものを特にアルキドと称することが多い。
 エポキシ樹脂(epoxy resin)
 分子中にエポキシ基を2個以上含む化合物を重合して得た樹脂状物質。エピクロヒドリンとビスフェノールとを重合して作ったものなどがある。【JIS K5500「塗料用語」】
 プレポリマーのエポキシ基(エポキシド,epoxide)で架橋ネットワーク化させることで硬化させることが可能な熱硬化性樹脂。プレポリマーも製品化した樹脂ともエポキシ樹脂と呼ばれる。プレポリマーの組成は種々あるが,ビスフェノール A とエピクロルヒドリンの共重合体が多用されている。
 硬化剤にはポリアミンや酸無水物が使用される。プレポリマーの組成と硬化剤の種類との組み合わせで多様の物性の実現が可能であること,寸法安定性,耐水性・耐薬品性及び電気絶縁性が高いことから電子回路の基板,封入剤,接着剤,塗料,FRPの積層剤として利用されている。

 【特性の違いによる分類】

 注目する特性の違いで数多くの分類が可能であるが,基本的な特性による分類として,熱特性による熱可塑性樹脂熱硬化性樹脂の区分,粘弾性の違いによるプラスティックエラストマーの区分がある。
*:プラスティック(plastic)”は,厳密な意味では「可塑性物質」を意味するが,一般的には,合成樹脂と同義で用いる場合や,合成樹脂の分類でエラストマーと対比する場合,合成樹脂を原料として作製した完成品を呼ぶ場合など,場面に応じて使い分けられられている。
 
 熱可塑性樹脂 (thermoplastic resin)
 熱可塑性(thermoplastic, thermoplasticity)とは,を加えれば軟らかくなり,冷却すれば硬くなることを繰り返す性質。【JIS K5500「塗料用語」】
 熱可塑性樹脂は,ガラス転移温度(glass transition temperature) Tg ,又は融点まで加熱することによって軟らかくなり,目的の形に成形できる樹脂をいう。樹脂は用途により汎用プラスチック,エンジニアリングプラスチック,スーパーエンジニアリングプラスチックに分けられる。塗料としての用途には,加熱して塗膜を形成する焼付塗料として利用されている。
 汎用プラスチック;家庭用品,電気製品の外箱,雨樋やサッシなどの建材,梱包資材等に大量に使われ,ポリエチレン(PE),ポリプロピレン(PP),ポリ塩化ビニル(PVC),ポリスチレン(PS),ポリ酢酸ビニル(PVAc),ポリテトラフルオロエチレン(PTFE),ABS樹脂(アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂),アクリル樹脂(PMMA)などがある。
 エンジニアリングプラスチック;家電品の歯車や軸受け,CDなどの強度や壊れにくさを要求される部分に使用され,ポリアミド(PA;ナイロン),ポリアセタール(POM),ポリカーボネート(PC),変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE,変性PPE,PPO), ポリブチレンテレフタレート(PBT),ポリエチレンテレフタレート(PET),グラスファイバー強化ポリエチレンテレフタレート(GF-PET),環状ポリオレフィン(COP)などがある。
 スーパーエンジニアリングプラスチック;エンプラよりもさらに高い熱変形温度と長期使用出来る特性を持つ,略してスーパーエンプラとも呼ばれる。ポリフェニレンスルファイド(PPS),ポリテトラフロロエチレン(PTFE),ポリスルホン(PSF),ポリエーテルサルフォン(PES),非晶ポリアリレート(PAR),液晶ポリマー(LCP),ポリエーテルエーテルケトン(PEEK),熱可塑性ポリイミド(PI),ポリアミドイミド (PAI)などがある。

 熱硬化性樹脂 (thermosetting resin)
 熱硬化性(thermosetting property, thermosetting)とは,樹脂などが,加熱すれば硬化して不溶性・不融性になり,元の軟らかさには戻らない性質。【JIS K5500「塗料用語」】
 熱硬化性樹脂といった場合は,重合を起こして高分子の網目構造を形成し,硬化して元に戻らなくなる加熱硬化タイプの他に,A液(基剤)とB液(硬化剤)を混ぜて硬化させる常温硬化タイプも含めていうのが一般的である。
 熱硬化性樹脂の硬く,熱や溶剤に強い特徴を生かし,家具の表面処理,耐熱部品,塗料などに使用されている。
 熱硬化性樹脂には,アルキド樹脂,エポキシ樹脂(EP),ポリウレタン(PUR) ,シリコン樹脂(SI),フェノール樹脂(PF),メラミン樹脂(MF),尿素樹脂(ユリア樹脂,UF),不飽和ポリエステル樹脂(UP),熱硬化性ポリイミド(PI)などがある。
 
 エラストマー(elastomer)
 弱い応力でかなり変形したのちその応力を除くと急速にほぼもとの寸法及び形状にもどる高分子材料。【JIS K 6900「プラスチック―用語」】
 弱い力で変形し,力を除いた後,急速にほぼ元の形状寸法に戻る高分子材料。【JIS K 6200「ゴム‐用語」】
 すなわち,エラストマーは,ゴム状の弾力性のある工業用材料の総称で,ポリマーと同様に熱可塑性と熱硬化性に分けられる。ある。なお,“ Elastomer ”は,弾力性のあるを意味するエラスティック( elastic )と重合体( polymer )の合成語である。
 弾性(elasticity)は,変形させている力を除くと原寸及び原形を回復する特性,すなわち変形しにくさの目安で,高弾性と言った場合は変形しにくい性質をいう。エラストマーは,一般に低弾性で,高じん性(toughness ;粘り強さ),及び高い可撓(とう)性(flexibility ;弾性変形のし易さ)の材料である。
 ゴム弾性とは,元に戻る応力が大きく,変形しにくいといった性質を指し,ゴムのように弾む性質ではない。ゴムの弾性は,不規則な分子配列が,外部からの力で規則的になるため,不規則な配列に戻ろうとするときの力によるものである。
 分子間を共有結合で結合し,三次元網目構造を形成する高分子(熱硬化性樹脂)は,ガラス転移温度 Tg 以上で「ゴム弾性」という特殊な性質を示す。
 
 熱可塑性エラストマー(Thermoplastic elastomers)
 熱を加えると軟化して流動性を示し,冷却すればゴム状弾性体に戻る性質を持つ。射出成形で成型加工が可能な利点はあるが,熱で変形し耐熱性を要する用途には適さない。
 熱硬化性エラストマー(Thermosetting elastomers)
 製品に熱を加えても軟化せず,比較的耐熱性が高いエラストマーで,一般いう「ゴム」はこのタイプの材料である。

 ゴム(rubber)
 ベンゼン,メチルエチルケトン,エタノール・トルエン共沸混合物などの沸騰中の溶剤に本質的には不溶性(しかし,膨潤できる)の状態に改質できる原料ゴム,又は既に改質されているエラストマー材料。 【JIS K 6200「ゴム‐用語」】
 注記 1:改質後のゴムの状態では,加熱及び圧力を加えても容易に恒久的な形状に再成形できない。
 注記 2:ゴムは,改質され,かつ,希釈剤を含有していない状態では,室温( 18℃~29℃)においてその長さを 2 倍に伸ばし,かつ,緩める前に 1 分間そのままに保持しても,1 分以内に元の長さの 1.5 倍未満に収縮する。 【JIS K 6200「ゴム‐用語」】
 
 ゴムは,原材料により天然ゴムと合成ゴムに分けられる。天然ゴム(NR)は,cis-ポリイソプレン [(C5H8)n] を主成分とするゴムの木の樹液を集めて精製し,凝固乾燥させた生ゴム(熱可塑性)を加硫(硫黄を混ぜ,三次元網目構造に架橋)した弾性材料(熱硬化性)である。
 合成ゴムは,石油を原料とする樹脂を用いた熱硬化性エラストマーで,付加重合,共重合や加硫により製造され,樹脂種により,ポリブタジエン系,ニトリル系,クロロプレン系などに分けられる。
 主な合成ゴムには,アクリルゴム(ACM),ニトリルゴム(NBR),イソプレンゴム(IR),ウレタンゴム(U),クロロプレンゴム(CR),シリコーンゴム(Q),スチレン・ブタジエンゴム(SBR),ブタジエンゴム(BR),ふっ素ゴム(FKM),ポリイソブチレン(ブチルゴム IIR)などがある。
 蛇足:日本語のゴム(rubber , gum)は,エラストマーであるゴム(ruber ,ラバー)の他に,植物体を傷つけたとき得られる軟質の高分子物質を示すゴム(gum)を示す用語として用いられる。なお,軟質物質を示すゴム(gum)はガムと称されることが多い。

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