防食概論防食の基礎

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 腐食試験と評価法

 腐食試験とは

 鋼橋等の鋼構造物設計段階では,適切な防食法の選定が求められる。また,維持管理段階では,定期的な点検で腐食原因の調査,適切な補修,必要によっては防食法変更の検討が行われる。
 これらの検討では,過去の事例などの情報収集に加えて,架設環境の腐食性評価,防食対策候補となる手法や材料の腐食・防食特性評価が必要になる。
 一方で,製品販売を有利にするため,恣意的に実施された試験結果も少なくない。これを見抜くためにも,各種試験法,評価法を理解しておくのが望ましい。
 ここでは,腐食・防食評価に適用される腐食試験(促進劣化試験,屋外での暴露試験など)の概要を解説する。

 腐食試験(corrosion test)の目的
 多くの腐食試験は,次に示す目的で実施されている。
 ● 製品の性能比較
 新製品の実用環境ので使用性,耐久性を既製品との比較で評価する。試験環境は,可能な限り使用環境を模擬すること,比較品の選定理由を明確にするのが望ましい。
 ● 品質管理
 製造段階や完成品の品質確認を目的とするので,迅速性が求められる。試験項目は一部の特性評価に限られることが多い。適切なサンプリング計画が求められる。
 ● 想定環境での適材選定
 複数の候補材料について,想定する環境での使用性,耐久性を比較し,有力材料の絞り込み(スクリーニング)を目的とする。このため,迅速性が求められることが多い。
 実使用環境に近い環境を模擬することが望ましい。時間に余裕がある場合には,スクリーニングされた複数の材料を 実環境で暴露試験を行い,最終的な選別にかける方法がとられる。
 ● 耐久性(寿命)予測
 特定の材料や防食法について,耐久性(寿命)予測を目的とする場合は,使用環境の環境因子(environmental factor)を適確に把握することから始まる。腐食等の劣化に最も強く影響する環境因子(多くの場合,複合因子)を用いた試験を計画し,その結果を用いて耐久性を予測することになる。

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 腐食試験・評価の要点

 一般的には,定量的評価を求められるが,特定の環境因子のみを用いた試験で,長期間の耐久性を定量的に予測することは困難である。このため,想定環境での使用実績のある材料との比較試験で評価する事例が多い。
 比較試験を適切に行うためには,比較材の試験と試験材の試験が,環境因子,及び腐食機構とも同等の条件でなければならない。
 
 陥り易い間違い
 例えば,陸上構造物用の新規塗装の寿命評価目的で,溶融亜鉛めっき鋼(hot dip galvanized steel)(都市環境で 30年耐久の実績)を比較材として,中性塩水噴霧試験(neutral salt spray test)による比較試験を実施したと仮定する。
 この比較試験結果は,これまでの経験から,概ねで次のような結果になる。
 500時間程度で溶融亜鉛めっき鋼は,めっき層が消失し鋼腐食に至る。一方,通常の塗装は 2,000時間以上(長期防錆型塗装では6,000時間以上耐える例あり)の試験に耐える。
 この結果のみを用いると,塗装の寿命は,溶融亜鉛めっき鋼の実績 30年の 4倍,すなわち120年以上期待できるとの「詐欺的結論」に至る。
 すなわち,劣化機構(degradation mechanism)の全く異なる材料間で比較していること,試験で採用する環境因子(連続の濡れ及び塩化物イオン)が実際の環境条件とは大きく異なることを考慮しなかったため,実態とかけ離れた比較結果を導いてしまった。
 
 中性塩水噴霧試験のように,塩化物イオン(chloride ion)を多量に含む水の連続噴霧は,亜鉛にとっては,大気環境で期待できる塩基性炭酸亜鉛(basic zinc carbonate)などの保護性被膜の形成が期待できないという,非常に過酷な環境条件になっている。
 一方,汎用の塗装仕様であっても,塗膜を通じて塩化物イオンが鋼素地まで透過することは考え難く,樹脂の劣化を促進する条件でもない。また,塗装鋼として見ると,連続濡れは“塗膜ふくれ”発生に影響する条件の一つと考えられが,“塗膜ふくれ”は接触水の電解質濃度が低いほど生じやすく,高濃度の塩水噴霧は“塗膜ふくれ”の促進条件として不適切である。
 
 以上のように,例で示した比較試験では,原則として比較してはいけない材料を選択している。さらに,中性塩水噴霧試験は,使用環境として陸上構造物を想定する試験には不適切な選択であった。しかし,概して素人目に分かり易いので,このような例を示されても,疑問を持たない人が多いのも現実である。

 極端な例を示したが,耐久性予測では,塗料・塗装の専門家でも防食塗膜の光沢度変化で塗膜の耐久性(防食性を評価してしまう間違った例が見られるなど,試験条件や評価項目の選定に際して,慎重かつ十分な検討が必要である。

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