防食概論:防食の基礎
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材料対策
耐食材料
ここでいう「耐食材料」の選択とは,金や白金のように環境因子に対し熱力学的に安定で,腐食しない材料の意味ではなく,これまでに用いてきた構造物に適用可能(機械特性,経済性)な材料の中で,耐食性(corrosion resistance)がより高い材料の選択を意味する。
構造物は,適切な維持管理計画に基づき,維持されるため,原則として腐食による構造物性能の低下に至る損傷はない。いいかえれば,構造物の腐食損傷は,維持管理の問題であり,素材の耐食性の問題ではない。
構造物設計で,素材に第一義的に求める性能は,機械的特性と経済性である。すなわち,機械的特性を満足できる候補材料に対し,維持管理計画に基づき適切な管理を実施する際の経済性(製造コスト,維持管理コストなど)などが比較検討される。
鉄鋼系の材料の中で,これまでの構造用炭素鋼と代替可能な機械特性を有する高耐食材料としては,ステンレス鋼,耐候性鋼(大気環境),耐海水鋼(海洋環境),耐みぞ状腐食電縫鋼管(水配管),耐硫酸露点腐食鋼(燃焼ガス雰囲気),耐サワー油井用鋼管(硫化水素環境,油田,ガス田),耐水素誘起割れ鋼(硫化水素環境,サワーパイプライン)などが挙げられる。
【参考】
ステンレス鋼(stainless steels)
クロム含有率を 10.5%以上,炭素含有率を 1.2%以下とし,耐食性を向上させた合金鋼。常温における組織によってマルテンサイト系,フェライト系,オーステナイト系,オーステナイト・フェライト系及び析出硬化系の 5 種類に分類される。【JIS G 0203「鉄鋼用語(製品及び品質)」】
耐候性圧延鋼材 (rolled steels with improved atmospheric corrosion resistance)
大気中において通常の鋼に比べてちみつなさびを形成しやすく,腐食速度を低減することができる圧延鋼材。【JIS G 0203「鉄鋼用語(製品及び品質)」】
耐候性鋼に関する JIS 品質規格には,橋梁,建築,その他の構造物に用いる SMA 材に関する JIS G 3114「溶接構造用耐候性熱間圧延鋼材:Hot-rolled atmospheric corrosion resisting steels for welded structure 」,車両,建築,鉄塔及びその他の構造物に用いる SPA 材に関する JIS G 3125「高耐候性圧延鋼材:Superior atmospheric corrosion resisting rolled steels」がある。
耐海水鋼(seawater corrosion resisting steel)
海水による腐食に対し,耐久性を高めた溶接が可能な構造用鋼をいう。炭素鋼にニッケル(Ni),クロム(Cr),リン(P),アルミニウム(Al),モリブデン(Mo)などの合金成分を添加した鋼である。
電縫鋼管(electric welded tube , electric resistance weled steel pipe)
読み「でんほうこうかん」は,電気抵抗溶接機で突き合せ溶接してつくられた鋼管をいう。電縫鋼管は,溶接部が溝状に腐食し易い。溶接部の腐食を抑制した鋼管を耐みぞ状腐食電縫鋼管(grooving corrosion resistant electric resistance weled steel pipe)という。
耐硫酸露点腐食鋼(sulfuric acid resistance steel)
排煙処理設備(空気予熱器,煙道,煙突等)の硫黄酸化物による低温腐食対策に用いられる鋼。
耐サワー油井用鋼管(sour-gas-resistant steel pipe)
油井,ガス井は,腐食性ガスの硫化水素(H2S)や炭酸ガス(CO2)を含む。硫化水素により酸性化した井戸環境はサワー環境と呼ばれる。この非常に厳しい腐食環境では,降伏強度以下の応力で破壊することがあり,この現象を硫化物応力割れ(Sulfide Stress Cracking: SSC)と呼ばれる。SSC 抵抗性に優れた耐サワー鋼を用いた鋼管を耐サワー油田用鋼管という。
耐水素誘起割れ鋼(hydrogen induced cracking resistance steel)
油井,ガス井などの硫化水素(H2S)と水分を含む環境に曝された鋼に発生する割れには,外部応力の作用している場合の硫化物応力腐食割れ(sulfide stress cracking , sulfide stress corrosion cracking ;略号 SSC ,SSCC)と外部応力の作用していない場合の水素誘起割れ(hydrogen induced cracking ;略号 HIC)がある。水素誘起割れは,板表面に平行な水素膨れまたは水素膨れ割れとなって現れる。
硫化物応力腐食割れ(SSCC)(sulphide stress corrosion cracking)
油井や天然ガス井などの硫化水素(H2S)を含む環境(サワーガス環境という)で発生する割れ現象をいう。
サワーガス環境など塩化物イオン(Cl-)を含む酸性の環境下で鋼の腐食反応が促進され,その過程で発生する水素原子の吸着から水素脆化(水素脆性)する。
硫化水素(H2S)が鋼表面に存在すると水素原子が分子状の水素(H2)になる結合を阻害すると考えられ,通常の腐食反応による水素侵入量よりも多くの量が侵入し水素脆化を助長する。
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