防食概論防食の基礎

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 ここでは,鋼橋用鋼板表面の清浄度の評価に必要な 【さび度の評価】, 【除せい度の評価】 を紹介する。

 環境遮断(塗料・塗装)

 さび度の評価

 鋼橋用鋼板表面の清浄度(cleanliness , preparation grade)は,ミルスケール付着程度又はさびの発生程度を示す「さび度」と除去程度を示す「除せい度」を組み合わせた等級で表される。

【さび度の評価】

 JIS Z 0313「素地調整用ブラスト処理面の試験及び評価方法」に従い,素地調整に用いたブラスト処理の評価を行うのが一般的である。この他に,発注者が定める方法で評価することもある。
 ブラスト処理前に,処理対象の鋼材表面のさび度(rust grade)を評価する。すなわち,鋼板表面に付着するミルスケール(mill scale)やさび(rust)の付着程度を目視によって,下表に示す 4 段階で評価する。評価に際しては,ISO 8501-1 の代表写真例と対比して行うのが通例である。

さび度の評価
  さび度    鋼材表面の状態 
  A    大部分が固いミルスケールで覆われ,さびは,あってもごくわずかである。 
  B    さびが発生し始めており,ミルスケールは,はく離し始めている。 
  C    全面がさびに覆われ,ミルスケールは,あっても容易にかき落とせる。 
  D    全面がさびに覆われるとともに,鋼材素地面にかなりの孔食が認められる。 

 備考
 ここに示したさび度は,鋼構造物を製造する段階(新設時)で用いる鋼板のさび度であり,既に供用されている鋼構造物の塗替え塗装時のように,劣化した塗膜や厚いさびで覆われた鋼板のさび度の評価には適用できない。
 ちなみに,鋼橋などの大型鋼構造物新設時では,一次素地調整時のさび度(A),二次素地調整時のさび度(B又はC)(ただし,ミルスケールは除去済み)程度の場合が多い。
 なお,塗替え塗装等で用いるさび度は,ISO 8501-1の代表写真の中で最も程度の悪いで評価する例が多いが,実際には,代表写真に比較し,さらに甚だしい腐食生成物で覆われ,表面の凹凸も激しいが,見本となる写真がないため致し方なくと評価しているのが現状である。
 
 【参考】
 素地調整(surface preparation)
 塗料の付着性及び防せい効果をよくするために,機械的又は化学的に被塗装物体表面を処理し,塗装に適するような状態にすること。ケレンともいう。【 Z0103「防せい防食用語」】
 鋼橋製作時の素地調整には,鋼材製作時の一次素地調整と橋梁組立後の防食塗装時に行う二次素地調整,及び架設工事で行う現場塗装での素地調整がある。
 一次素地調整とは, 鉄鋼メーカ等で行われる一次素地調整は,原板ブラスト(blasting for rolled sheet)とも呼ばれる。この処理は,製鉄工場で熱間圧延で生成したミルスケール(黒皮),付着物やその後に発生した赤さびなどを除去することを目的として行われる。
 二次素地調整は,橋梁製作工場で実施する防食塗装前の素地調整である。ここで実施するブラスト処理は製品ブラストともいわれる。
 ミルスケール(mill scale)
 鋼材の製造過程において高温に加熱されるとき,空気中の酸素と反応して生成し付着している酸化物被膜。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
 鉄鋼の熱間圧延中に生じる酸化鉄の層。黒皮ともいう。【JIS K5500「塗料用語」】
 清浄度(cleanliness , preparation grade)
 ある(素地調整)方法によって得られる清浄仕上げの品質水準を説明する分類(JIS Z 0310「素地調整用ブラスト処理方法通則」,ISO 8501/1参照)。【JIS K5500「塗料用語」】
 さび度(rust grade)
 清浄作業前の鋼材表面に形成されているさびの程度を説明する分類。さびの程度は,5段階に分けた写真によって評価する(JIS K 5600-8-3「塗料一般試験方法− 第8部:塗膜劣化の評価− 第3節:さびの等級」,JIS Z 0310「素地調整用ブラスト処理方法通則」参照)。【JIS K5500「塗料用語」】
 鋼材表面を処理する前のミルスケールの付着程度又はさびの発生程度。【 JIS Z 0310「素地調整用ブラスト処理方法通則」】

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 除せい度の評価

 除せい(錆)度(preparation grade)は,JIS Z 0310「素地調整用ブラスト処理方法通則」で“清浄度の中で,ミルスケール及びさびの除去程度。”と定義し,JIS Z 0313-1998「素地調整用ブラスト処理面の試験及び評価方法」では,除せい度とそれに対する鋼材表面の状態を表 2に示す 4段階で評価している。なお,除せい度の評価では,ISO 8501-1 の代表写真例と比較して行うことになっている。
 代表写真例は,新設時の状態を想定したもので,塗替え塗装時の評価では,基本となるさび度が著しく異なるので,この評価の適用性について疑問が残る。


除せい度(ブラスト処理)の評価
  除せい度    鋼材表面の状態 
  Sa 1    拡大鏡なしで,表面には, 弱く付着(1)したミルスケール,さび,塗膜,異物,目に見える油,グリース及び泥土がない。 
  Sa 2    拡大鏡なしで,表面には,ほとんどのミルスケール,さび,塗膜,異物,目に見える油,グリース及び泥土がない。残存する汚れのすべては,固着(2)している。 
  Sa 2 1/2    拡大鏡なしで,表面には,目に見えるミルスケール,さび,塗膜,異物,油,グリース及び泥土がない。残存するすべての汚れは,そのこん跡がはん(斑)点又はすじ状のわずかな染みだけとなって認められる程度である。 
  Sa 3    拡大鏡なしで,表面には,目に見えるミルスケール,さび,塗膜,異物,油,グリース及び泥土がなく,均一な金属色を呈している。 
注:(1) 弱く付着とは,刃の付いていないパテナイフで,はく離させることができる程度の付着。
  (2) 固着とは,刃の付いていないパテナイフでは,はく離させることができない程度の付着
 備考
 新設時の一次素地調整時には Sa 3 が,二次素地調整では Sa 2 1/2 以上の除せい度が求められる。塗替え塗装時のブラスト作業では,厚いさび層が付着しているので,塗膜除去個所の除せい度が Sa 2 1/2 となる作業を行っても,腐食個所の除せい度は Sa 2 以下となることが多い。
 これでは,除せい度として不十分で,塗替え塗膜の早期劣化の原因になることが多いので,腐食個所に対しては,より丁寧な作業が求められる。
 素地調整法として,動力工具を用いた場合の代表写真例も ISO 8501-1 に規定されているので参照するのが良い。
 ISO 8501-1: 2007,Preparation of steel substrates before application of paints and related products − Visual assessment of surface cleanliness − Part 1:Rust grades and preparation grades of uncoated steel substrates and of steel substrates after overall removal of previous coatings
 ISO 8501-1 Supplement は,異種の研削材で Sa 3 に仕上げた写真の例である。
 
 【参考】
 除せい(錆)度(preparation grade)
 清浄度の中で,ミルスケール及びさびの除去程度。【 JIS Z 0310「素地調整用ブラスト処理方法通則」】
 なお,清浄度とは,ある(素地調整)方法によって得られる清浄仕上げの品質水準を説明する分類。
 上述の鋼材表面の状態と除せい度を定義する JIS Z 0313-1998「素地調整用ブラスト処理面の試験及び評価方法」は,ISO8501-1(Preparation of steel substrates before application of paints and related products -Visual assessment of surface cleanliness - Part 1 ; Rust grades and preparation grades of uncoated steel substrates and of steel substrates after overall removal of previous coatings. )に整合しており,判定はISO規格の写真集と比較して行うことになっている。
 一方,比較的使用例の多い米国の規格,SSPC (Steel Structures Painting Council): 「米国鋼構造物塗装協会で規格するブラスト仕上げ等級」では,除せい度の等級は,次のように規定している。
 White Metal Blast Cleaning(完全ブラスト処理:SP5)  全ての錆・ミルスケール・ 塗料その他異物を除去する。  ISO規格のSa3相当
 Near-White Blast Cleaning(準完全ブラスト処理:SP10)  全ての異物を完全に除去。極めて軽微なくもり・条痕,錆の染み・ミルスケール・酸化物等の軽微な残滓は容認。1平方インチ当たり95%以上は残滓がないこと。ISO規格のSa2 1/2相当
 Commercial Blast Cleaning(経済的ブラスト処理:SP6)  少なくとも1平方インチ当たり2/3は錆・ミルスケールの残滓がないこと。ISO規格のSa2相当
 Brush-off Blast Cleaning(スイープブラスト処理:SP7)  固く付着したミルスケール,錆及び塗膜の残滓を除き全ての異物を除去する。ISO規格のSa1相当。

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