防食概論:防食の基礎
☆ “ホーム” ⇒ “腐食・防食とは“ ⇒ “防食概論(防食の基礎)” ⇒
防食設計と分類
鋼構造物の現状
【鋼道路橋建設の推移】
下図に,参考資料 1)から抜粋した“日本における鋼道路橋建設数の推移データ”を示す。日本では,第二次世界大戦後の自動車の普及に伴い,1950年代以後に道路建設が目覚ましい勢いで進んだ。これに伴い,鋼橋の建設数が1970年代まで急激に増加している。幹線道路の整備が進んだ 1970年代に建設数のピークを迎え,その後は斬減している。
しかし,2000年頃になると,社会基盤の整備が一定のレベルに達することで,その後の鋼道路橋建設数が急激に減少している。
【鋼構造物の取り換え理由】
化学工業装置などは,厳しい腐食環境に曝されるため,腐食を要因とする事故・損傷が数多くある。このため,装置の設計段階から防せい・防食を前提とした材料選定や構造,デザインなどを重視している。
一方,鋼構造物の曝される屋外環境の腐食性が化学工業装置に比較すると著しく緩慢なため,後述の予防保全型の維持管理の導入が検討されるまでは,防せい・防食を重視した設計の採用には至っていなかった。
鋼道路橋
先に示したように,1950年代以後の建設が多く,道路整備が優先され,防食に対する認識が低いまま推移してきた。
実際に,参考資料2)に示されたように,2006年調査で,鋼道路橋の取り換え(寿命)の主要因は,構造物に直接起因しない交通量増加,都市計画,線形の改良,河川改修や立体交差化など社会的要請によるもので,鋼腐食による損傷を理由に鋼道路橋の取り換えに至った割合は非常に低い。
鋼鉄道橋
道路の歴史とは異なり,鉄道網(在来線)の建設は明治時代から昭和初期に活発に行われ,昭和初期には現状と同等の在来線鉄道網が完成している。このため,在来線の鋼鉄道橋には,架設後経年が70年を超えるものが多数存在する。
参考資料 3)によると,1986年に調査された鋼鉄道橋の取り換え理由によると,若い構造物の多い鋼道路橋に比較して,金属疲労や腐食を理由に取り換えられた鋼鉄道橋の比率が著しく大きいことが分かる。
鉄道分野で30年前に経験した構造物老朽化による影響が,構造物数の圧倒的に多い道路分野で今後の問題として大きな影響を与えつつある。
参考資料 4)によると,高度成長期に建設された構造物の老朽化により,補修・補強の必要性が今後に増加すると予測され,既設構造物の維持管理は,事後保全(breakdown maintenance)から予防保全(preventive maintenance)を取り入れた維持管理(maintenance, rehabilitation management)に転換するよう指摘されている。
鋼道路橋などの道路鋼構造物において,これまで軽く扱われてきた防食設計に対し,新設時のみならず,維持管理時においても,その認識を改めなければならないと考える。
維持管理時の防食は,実用に供してから少なくとも10年以上経過し,新設時に適用した防食対策の劣化が観察された段階で初めて検討される。この時に,現地での施工となるため,数多くの施工制約の下で適用されることになる。このことは,防食設計で考慮すべき条件が,新設時と維持管理時で大きく異なることを意味する。
すなわち,新設時と維持管理時の防食設計は分けて考えなければならない。
【参考資料】
1) 道路施設現況調査「橋梁現況調査」H21.4.1(国土交通省道路局)
2) 玉越隆史,大久保雅憲,市川明広,武田達也“橋梁の架替に関する調査結果(Ⅳ)”国総研資料第444号, p.10 (2008.4)
3) 市川篤司“鋼鉄道橋の補修・補強の概要”, 橋梁と基礎, Vol.28, No.8 (1994.8)
4) 総務省行政評価局「社会資本の維持管理及び更新に関する行政評価・監視-道路橋の保全等を中心として-結果報告書」平成22年2月
ページトップへ