防食概論防食の基礎

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 ここでは,腐食程度の評価に関して, 【全面腐食での腐食度と腐食速度】, 【腐食減量,腐食度,侵食度】, 【腐食減量・腐食度の求め方】, 【侵食度の求め方】 を紹介する。

 腐食試験と評価法

 腐食程度評価全面腐食での腐食度と腐食速度

 腐食程度の評価では,腐食状態の違い,すなわち比較的均一な全面腐食(general corrosion, entire surface corrosion)と,凹凸の激しい腐食,孔食など不均一な局部腐食(local corrosion)を分けて扱う必要がある。
 鉄鋼は,一般的な大気環境で全面腐食に至る場合が多い。全面腐食の場合には,鋼板の厚みの減少量が維持管理の上で有用な情報を与える。しかし,全面腐食とはいえ,腐食した鋼の表面には少なからずの凹凸があり,鋼板の板厚み計測で直接的に腐食による厚み減少量を求めることは困難である。
 そこで,腐食による試験片の質量減少量を求め,試験片の面積,及び金属の密度から計算で求めるのが一般的な方法である。

 

 腐食減量,腐食度,侵食度

 腐食減量(mass loss)
 腐食試験後,表面に付着した腐食生成物を取り除いた試験片の質量減,又は単位表面積当たりの質量減。【JIS G 0202「鉄鋼用語(試験)」】

 腐食度(corrosion rate)
 ある期間に生じた単位面積当たりの腐食量をその期間で除して求められる値。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
 この値は,暴露期間中に時々刻々変化する腐食速度(金属の腐食反応速度)とは異なる。また,同じ条件の試験であっても,暴露期間が異なると腐食度も異なる。単位は,単位面積当たり,1年(平均太陽年)当たりのグラム数(g・m-2・a-1)で表わす。
 大気暴露試験で得られる腐食度は,暴露開始時期の違い(例えば春開始と秋開始など)の影響も受ける。このため,腐食度で腐食性評価を行う場合には,暴露環境条件に加えて,暴露開始時期,暴露期間(暴露1年目や暴露X-Y年など)などの情報を併記するのが望ましい。

 侵食度(penetration rate)
 求められた腐食度から単位時間当たりの厚み減少量μm・a-1)に換算した値で,金属の厚み方向への影響を直感的に理解し易いため広く用いられている。腐食度と同様に,暴露期間で値が変わるので注意が必要である。
 一般的には,腐食度を金属の密度で除して得られる厚みの平均減少量を用いている。このように,算術平均値の侵食度は,全面の均一な腐食の場合は実態と整合するが,局部腐食では的確な評価ができない。従って,不均一な腐食が観察される場合は,侵食度を用いるべきではない。
 注記:最近に,侵食度を腐食度と表記する例が増えている。JIS規格の中にもこのような扱いが見られるが,混乱を避けるため,侵食度と腐食度を使い分けるのが望ましい。

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 腐食減量・腐食度の求め方

 腐食減量を求めるためには,試験前処理後で試験開始直前に質量を試験片の表面積 100cm2当たり 0.1mgまで正確に秤量する。
 腐食試験後に,適切な後処理を施し,十分に乾燥した状態で試験片の質量を試験片の表面積 100cm2当たり 0.1mgまで正確に秤量する。この質量差が,試験期間中の腐食減量となる。
 腐食度は,測定した腐食減量( g )を試験片の表面積( m2 ),及び試験期間(a)で除して求める。すなわち,腐食度の単位は g・m-2・a-1 となる。
 単位のみを見ると,腐食速度(corrosion velocity)と同じであるため,腐食速度と安直に表現しがちである。しかし,厳密には,次で解説するように値の意味が全く異なる。従って,用語として,腐食度腐食速度は明確に使い分けなければならない。

 腐食度腐食速度の違い
 大気中の鋼腐食は,一般的に下図に示す腐食曲線で表わされる。腐食速度は,腐食曲線のある時点での接線を意味する。現実には大気暴露試験片の腐食速度を実験的に求めるのは非常に困難である。
 ある時点(例えば図の T1 )の腐食減量を求め,計算される腐食度は,図中の青色点線の傾きとなる。一方,時点 T1 腐食速度は,図中の青色実線の傾きであるため,腐食速度と腐食度が大きく異なることが分かる。
 また,図から分かるように,いつの時点で腐食度を計測するか,すなわち暴露期間の長短により,求められる腐食度は,青色の点線と緑色の点線のように著しく異なる。従って,腐食度を記述する場合は,暴露期間の情報を同時に記述しないと誤解を生むので注意が必要である。例えば,JIS,ISOなどでは,“暴露1年目の腐食度”などと暴露期間を含めた表現が採用される。

鋼腐食減量と時間の関係

鋼腐食減量と時間の関係

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 侵食度の求め方

 侵食度とは,腐食度を厚み減少量に換算したもので,質量減少量に比較して,実用上の利用価値が高い値である。
 質量を厚みに変換するためには,試験片の表面積と金属の密度が必要である。純金属については,正確な密度が求められているが,合金については,その成分で密度が異なる。
 純金属の密度(室温付近,g・cm-3):鉄(7.874),亜鉛(7.14),アルミニウム(2.70),銅(8.94)

 JIS Z 2383 「大気環境の腐食性を評価するための標準金属試験片及びその腐食度の測定方法」では,質量を厚みに換算するため,合金鋼の密度を
   炭素鋼(SS400),耐候性鋼(SMA490BW):7.86 g・cm-3
   ステンレス鋼(SUS304):7.93 g・cm-3
としている。

 【関連規格】
 JIS Z 2383「大気環境の腐食性を評価するための標準金属試験片及びその腐食度の測定方法」
 ISO 8407「 Corrosion of metals and alloys−Removal of corrosion products from corrosion test specimens」

 【参考】
 過去の文献には,腐食度の単位としてmdd(mg・dm-2・day-1:100cm2当たりの1日の減量),g・m-2・yer-1(1m2当たりの1年間の減量)などの表記が使われている。暦年を示す単位(yer)は,閏年があるなど明確に定義されていない時間の単位である。このため,現在のJIS規格やIOS規格では,天文学等で用いる回帰年(平均太陽年)を表す記号( aを用いたg・m-2a-1での表記が標準となっている。
 回帰年(tropical year)
 読み「かいきねん」,太陽年(solar year)ともいい,太陽が黄道上の分点(春分・秋分)と至点(夏至・冬至)から出て再び各点に戻ってくるまでの周期(約 365.2422日)をいう。基準とする分点や至点で値が異なるので,それらの平均を平均回帰年や平均太陽年という。回帰年は,地球軌道の変化のため毎年僅かに短縮している。

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