防食概論防食の基礎

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 ここでは,電気防食の 【陽極防食(アノード防食)】, 【排流法】 を紹介する。

 電気防食

 陽極防食(アノード防食)

 前節の【電気防食とは】で,電位を酸化物として安定な領域,すなわち不動態領域(passive state)まで,人為的に上げることを陽極防食(アノード防食;anodic protection)と解説した。このことは,不動態化(passivity)する金属に限定される方法ともいえる。
 具体的には,ステンレス鋼,ニッケル合金,チタンや鋼などが対象で,腐食性の激しい環境(化学プラントの薬液槽や熱交換機など)で適用されている。
 
 原理について
 不動態化できる金属の分極曲線(polarization curve)が,下図のようなアノード分極曲線(anodic polarization curve)を持ち,カソード分極曲線(cathodic polarization curve)との交点点にあるとする。点は,自然に放置した場合の腐食状況を示し,電位は腐食電位 E0 ,電流は腐食電流 I 0 を示す。

陽極防食原理図

陽極防食原理図

 ここで,環境中にカソード(cathode)を設置し,外部電源により金属体をアノード(anode)にして通電する。この時,これらとは別に設置した基準電極(reference electrode)と金属体との電位差を計測しながら,対極-金属体間の電流値を,不動態領域となる図中の点(電位 E’)となるよう制御にすることで,腐食電流を著しく小さくできる。
 図からも分かるように,この方法は,電流が不足したり,過剰になった場合には,腐食を十分に抑制できなくなる危険をはらんでいる。
 
 分極曲線(polarization curve)
 電流密度と分極の関係を表すために,電流密度と電極電位を両軸にとって描いた曲線。電流密度―電位曲線ともいう。【JIS G 0202「鉄鋼用語(試験)」】
 腐食電位(corrosion potential)
 腐食している金属の照合電極に対する電位。自然状態における腐食電位を自然電位ともいう。それを大きさの順に並べた物を腐食電位列という。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
 腐食電流(corrosion current)
 腐食電位(自 然電極電位)のときのアノー ド電流(=カ ソー ド電流)を 腐食電流という。すなわち,腐食反応の速度 W(g/s)は,腐食電流 I(A),時間 t(s),金属の原子量 M(g/mol),金属イオンの価数 n ,ファラデー定数 F(9.6485×104 C/mol)を用い,W = (ItM)/(nF) と表現することができる。
 基準電極(reference electrode)
 電極電位の測定において基準となる電位を与える電極で, 日本語では参照電極,照合電極ともいわれる。代表的な基準電極には,水素電極( Pt /H2 /HCl ),飽和カロメル電極( Hg /Hg2Cl2 /飽和KCl ),銀・塩化銀電極( Ag /AgCl /飽和KCl )などがある。

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 排流法とは

 排流法(electric drainage)とは,土蔵中に埋設された鋼管などの鋼構造物が,直流の電気鉄道などからの漏れ電流(leakage current)による迷走電流腐食(stray current corrosion)を防止するための電気的な対策である。
 厳密な意味では,電気化学的対策とは言えないが,電気防食の一種として扱った。
 迷走電流腐食は,電気鉄道やその他電気設備から大地に漏れ出した直流電流によって腐食する現象で,電食(stray current corrosion)とも呼ばれる。
 具体的には,鉄道レールから大地に漏れ出した電流が埋設管などを通り,変電所近くで埋設管からレールに向って戻るときに,電流の出口にあたる個所が異常な速度で腐食する現象である。
 この現象の抑制のため,埋設管とレールを電気回路で接続する方法がとられる。この方法を排流法という。排流法には,選択排流法強制排流法がある。
 排流法では,埋設管からレールに向う電流を通し,レールから埋設管に向う電流を阻止する。
 選択排流法とは,埋設管とレール間の整流のため,半導体整流器や継電器を取り付けるだけの受動的な方法である。
 強制排流法とは,埋設管とレールを結ぶ回路に直流電源を設け,排流を人為的に促進する方法である。

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