防食概論防食の基礎

  ☆ “ホーム” ⇒ “腐食・防食とは“ ⇒ “防食概論(防食の基礎)” ⇒

 環境遮断(塗料・塗装)

 鋼橋塗装の塗料

 ここでは,日本の鋼鉄道橋,鋼道路橋などの大型鋼構造物に用いられる塗料の概要を紹介する。なお,鋼橋等で用いる塗料,及び塗装仕様の詳細については,【塗料・塗装】の【防食塗装系】で解説する。
 前項の「塗料の構成」で解説したように,塗料は,期待する性能を満足するため,数多くの化学物質で構成されている。このことから分かるように,単一の塗料のみでは,構造物塗装に要求される複数の性能を全て満足するのは困難である。  

 【塗装系について】

 実用塗装では,特性の異なる複数の塗料を組み合わせて用いる。この組み合わせを塗装系(coating system, paint system)という。
 塗装系は,鋼などの下地の保護を目的とした下塗り塗料(undercoat, primer coat, priming coat),下塗り塗料と上塗り塗料との密着性確保を目的とした中塗り塗料(intermediate coat, undercoat),色や光沢など見栄え(景観性能)の付与を目的とした上塗り塗料(top coat, finishing coat)3層が基本となる。
 工業塗装の例として,先に解説した自動車外板塗装では,下塗り塗料 1層,中塗り塗料 1層であるが,上塗り塗料は景観性重視のため 2層構造になっている。
 鋼構造物では,景観性能より防食性能が重視される。このため,多くの構造物塗装では,下塗り塗料を複数層塗り重ねる例が多い。
 例えば,鋼道路橋の塗装系 C5では,下塗りとして無機ジンクリッチペイント 1層(厚み 75μm),ミストコート 1層(封孔処理)厚膜形エポキシ樹脂塗料下塗 1層(厚み 125μm)の計 3層(厚みの合計 200μm)の仕様になっている。
 鋼鉄道橋の塗装系 J2では,下塗り塗料として厚膜型エポキシ樹脂ジンクリッチペイント 1層(厚み 75μm),厚膜型エポキシ樹脂系塗料下塗 2層(厚み 120μm)の計 3層(厚みの合計 195μm)の仕様になっている。

 【塗料名称について】

 塗料の名称には,エポキシ樹脂塗料やポリウレタン樹脂塗料など塗膜主要素(樹脂)の種別を示す名称を用いる場合,シアナミド鉛さび止め塗料やジンクリッチペイントなど顔料名や機能で命名する場合などがある。
 さらに,同一樹脂,同一機能の塗料に対しても,採用する機関により,異なる名称を用いるなど,塗料名称の付け方に統一したルールがないのが現状である。
 例として,下表に材料構成がほぼ同等の塗料について,JIS規格での名称,道路分野での名称,鉄道分野での名称の比較を示す。
 JIS規格の塗料名も,JIS規格化前に実用していた機関での名称と異なる名称を付けたり,関係機関との調整をせずに安易に改名(厚膜形エポキシ樹脂塗料 → 構造物用さび止めペイント B種)するなど,JIS規格の名称ですら統一されていないのが現状である。
塗料の名称比較
道路:鋼道路橋塗装・防食便覧, 鉄道:鋼構造物塗装設計施工指針
  JIS規格    道 路    鉄 道 
  厚膜形ジンクリッチペイント 1種    無機ジンクリッチペイント    厚膜型無機ジンクリッチペイント 
  厚膜形ジンクリッチペイント 2種    有機ジンクリッチペイント    厚膜型エポキシ樹脂ジンクリッチペイント 
  構造物用さび止めペイント B種    エポキシ樹脂塗料 下塗    厚膜型エポキシ樹脂系塗料 下塗 
  鋼構造物用耐候性塗料 中塗り    ふっ素樹脂塗料用 中塗    ポリウレタン樹脂塗料用 中塗 
  鋼構造物用耐候性塗料 上塗り    ふっ素樹脂塗料 上塗     ポリウレタン樹脂塗料 上塗 
注:道路,鉄道とも塗装系開発の歴史的背景が違うこと,JIS規格の制定が両機関で実用した後であること,JIS規格も安直に名称変更してきた過去があることなど,名称の統一は容易でないと考える。
 【参考】
 塗装系(coating system, paint system)
 塗装される又は既に塗装されている塗料の塗膜層の総称。塗装の目的・効果を満足するように作った,地肌塗りから上塗りまでの塗り重ね塗膜の組合せを総称する用語。
 備考:塗装系は,通常,乾燥又は硬化に必要な適切な間隔をおいて,指定の順番で,別々に塗装された複数の塗膜から構成される。ある種の塗料では,例えば,ウエットオンウエット吹き付け塗りのような多少とも連続する塗装工程によって適切な膜厚と隠ぺい性をもつ塗装系を作ることができる。この場合,塗装系のどの部分も,上記の意味で別々の塗膜とはいえない(CED)。【JIS K5500「塗料用語」】
 下塗り(under coating, primer coating)
 中塗り用塗料や,上塗り用塗料を塗る前に,下塗り用塗料を塗る操作。【JIS K5500「塗料用語」】
 下塗り塗料(undercoat, priming coat)
 塗料を塗り重ねて塗装仕上げするときの下塗りに用いる塗料。塗装系に対する素地の影響を防止し,付着性を増加させるために用いる。
 備考:1.ISO用語規格では,“undercoat”と“intermediate coat”とは同じ定義で,“地肌塗り(priming coat)”と“上塗り(finishing coat)”との間の塗料(coat)をいう。また,“priming coat”は,素地に塗る塗装系の最初の塗料(coat)をいう。
 2.BS用語規格及びCEDでは“undercoat”は,上塗り塗料を塗る前に,目止め,肌直し,地肌塗りなどを行った素地面,又は素地調整を行った旧塗膜面に塗装される塗料をいう。【JIS K5500「塗料用語」】
 中塗り(intermediate coating)
 下塗りと上塗りとの中間層として,中塗り用の塗料を塗る操作。下塗り塗膜と上塗り塗膜との間の付着性の増強,総合塗膜層の厚さの増加,平らさ又は立体性の改善のために行う。英語では,目的によって,undercoat,ground coat,surfacer,texture coat などという。【JIS K5500「塗料用語」】
 中塗り塗料(intermediate coat, undercoat)
 塗料を塗り重ねて塗装仕上げをするときの,中塗りに用いる塗料。下塗り塗膜と上塗り塗膜との中間にあって,両者に対する付着性をもち,塗装系の耐久性を向上させる目的に用いるもの,下塗り塗面の平滑さの不足を補うために用いるものなどがある。後者では,塗膜が厚くて研磨しやすいことが特徴である。
 備考:1.ISO用語規格では,“intermediate coat”と“undercoat”とは同義で,“地肌塗り(priming coat)と上塗り(finishing coat)の間のコート(coat)”をいう。
 2.BS用語規格及びCEDでは,“undercoat”は,上塗り塗料を塗り前に,目止め,肌直し,地肌塗りなどを行った素地面,又は素地調整を行った旧塗膜面に塗装される塗料をいう。【JIS K5500「塗料用語」】
 上塗り(over coating, finishing)
 下地塗膜の上にまたは直接素地に上塗り用の塗料を塗る行為。【JIS K5500「塗料用語」】
 上塗り塗料(top coat, topcoat, finishing coat)
 塗料を塗り重ねて塗装仕上げをするとき,上塗りに用いる塗料。
 備考:1.ISO用語規格では,“top coat”と“finishing coat”とは同義語で,“塗装系の最終の塗料(coat)”をいう。
 2.CEOでは,“topcoat”は“通常プライマー,アンダーコート,又は素地に直接塗装される塗装系の最終塗膜に用いる塗料”をいう。
 3.上塗りは,1回又はそれ以上塗られることもある。また,ある種の系では,上塗りが素地に直接 1回又はそれ以上塗装されることもある。【JIS K5500「塗料用語」】

  ページのトップへ