第三部:化学反応 酸・塩基とは

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  ここでは,電解質溶液,酸,塩基の理解に資するため, 【 pH とは】, 【 pH の定義と実情】, 【 pH と溶媒】 に項目を分けて紹介する。

   pH とは

 溶液の pH は,気象,農業(土壌),食品など,日常生活に密着した用語として知られ,測定器や試験紙(リトマス紙など)を用いた計測結果は, pH7 付近を中性といい,これより低い場合を酸性,高い場合を塩基性(アルカリ性)と評価している。
 しかしながら,その技術的内容についてはあまり知られていないのが実状である。

 pH の読み
 pH は,デンマークの化学者セレン・セーレンセンが,1909 年に酸性度の指標として 導入した概念である。ドイツ語論文( Biochemische Zeitschrift (in German) )での公表のため,日本では,ドイツ語読みのペーハーが長らく用いられてきた。
 その後,1957 年の JIS で読みをピーエイチと定めたが,発表される論文等では“ピーエイチ”と“ペーハー”が混在する状況が続いた。
 しかし,その後に改正された現行の JIS K 0213 「分析化学用語(電気化学部門)」や JIS Z 8802 「 pH 測定法」では,読みを“ピーエッチ”又は“ピーエイチ”と規定し,“ピーエッチ”の読みを推奨している。そのため,この読みは,現行のJIS や法令で広く採用されている。

 水溶液における水素イオン濃度 [ H ] は,ヒドロニウムイオン濃度[ H3O ](オキソニウムイオンともいう)で表記するのが通例であるが,以下の pH 関連の解説では,過去からの慣例に従い水素イオン濃度 [ H+ ] の表現を用いる。

 【参考】
 ヒドロニウムイオン( hydronium ion )
 H3Oヒドロニウムイオンという。ヒドロニウムイオンは,オキソニウムイオンの一種,且つオニウムイオンの一種でもあり,その中で最も単純な構造である。なお,高等学校の教科書では,オキソニウムイオンと記述しているが,厳密にはヒドロニウムイオンと記述するのが良いと考える。
 オキソニウムイオン( oxonium ion )
  3 つの化学結合をもった酸素のカチオンの総称。例えば,水素 3つと結合するヒドロニウムイオン H3O ,一般式 R-OH2 (フェノールでは,Ar-OH2 )で表されるアルコール(フェノール)の陽イオンなどが挙げられる。
 オニウムイオン( onium ions )
 水素化物( HnM ;n=1~3 )のプロトン( H )化により生ずる物質,あるいはその誘導体。例えば,ヒドロニウムイオン H3O ,アンモニウム H4N ,一般式 Hn+1M で表される陽イオンや水素を一価の置換基(アルキル基,ハロゲンなど)に置き換えた誘導体などが挙げられる。
 リオニウムイオン( lyonium ion ):オニウムイオンの一種で,溶媒分子がプロトンを得た陽イオン。
 リエイトイオン( lyate ion ):溶媒分子がプロトンを放出した陰イオン。

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   pH の定義と実情

 pH は,水素イオン濃度指数( Potential Hydrogen ,Power of Hydrogen ),又は水素イオン指数といわれ,溶液の酸性の指標である。
 セーレンセンの定義では,溶液中の水素イオンのモル濃度( [ H ] に対して,
     pH = -log10 [ H ] = log10 [ H ]-1
と定義していた。なお,log10 は 10 を底とする常用対数である。
 その後,1920 年には,水素イオンの活量( aH+ を用いて,次式で定義された。
     pH = -log10 aH+ = log10 aH+-1
 活量は,【希薄溶液の性質】で紹介したように,モル濃度と活量係数(γ)の積で表される。
      aH+ = γH+ ( [ H+ ] /C0 )
 ここで,C0 は標準モル濃度で,通常は 1 mol/L を用いるので,
      aH+ = γH+ [ H+ ] /1
となる。一般に,イオンの活量係数(γiは,イオン間の相互作用や溶媒和などの影響を考慮しなければならない。
 従って,
     pH = -log10 aH+ = - log10 [ H+ ] - log10γH+
 しかし,実用の濃度では,活量の理論計算が困難であり,直接実測も不可能なため,pHの測定では,基準となる溶液( pH が変化しにくい溶液)と比較することで pH を求めることになる。具体的な方法については, JIS Z 8802 「 pH 測定法」に規定されている。
 一般的に,水素イオン濃度が低い場合には,上記の式を書き換えて,
     pH + log10γH+ = -log10 [ H+ ] ≒ pH
 として,活量係数の項を含めた pH として,酸性度を評価している例が多い。

 【参考】
 濃度 0.01 mol/L未満の溶液については,イオン半径,電気素量,誘電率,ボルツマン定数,温度,アボガドロ定数から電解液の中のイオンの相互作用を統計力学的に解析するデバイ-ヒュッケルの式から活量係数(γiを求めることができる。

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   pH と溶媒

 高等学校教育では,pHの求め方として,次のように指導している。
 酸の水素イオン濃度 [ H ] =価数 A×濃度 C ( mol /L ) ×電離度αから,
     pH = -log10 [ H ] = -log10 ACα
として求める方法を推奨している。
 塩基は,酸と同様の方法で水酸化物イオン濃度 [ OH ] を求め,pH = 14 + log10 [ OH ] を計算する。

 この方法で,濃度( 0.01 mol /L )の塩酸( HCl )水溶液の pH を求めてみよう。
     HCl ⇆ Cl + H
 塩酸の酸解離定数は,【電離平衡】の“参考”に示したように,Ka = 108 と非常に大きいので,塩酸の電離は不可逆反応とみなして,電離度α = 1 とする。
     [ H ] = 価数 1×濃度 0.01 mol/L ×電離度 1 = 10-2 mol /L
     pH = -log10 [ H ] = -log10 10-2 = 2

となる。
 同様にして,この塩酸水溶液を水で1,000,000倍に希釈( 10-8 mol /L )した時の pH を計算すると,
     pH = - log10 [ H+ ] = - log10 10-8 = 8
 塩酸を希釈してゆくと,塩基性(アルカリ性)になる?そんな馬鹿な!
 この不都合は,溶媒の自己解離で生じるイオンを無視したことに起因している。これらを考慮した水溶液の pH の求め方については,次項以後で具体的に紹介する。

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