第三部:化学反応 酸・塩基反応

  ☆ “ホーム” ⇒ “生活の中の科学“ ⇒ “基礎化学(目次)“ ⇒

  ここでは,酸・塩基反応を利用した中和滴定の実例として, 【測定準備】, 【試薬の調整】, 【測定手順】 に項目を分けて紹介する。

  測定準備

 醸造酢の日本農林規格( JAS 規格)に規定される「酸度(中和滴定)」について,(独法) 農林水産消費安全技術センター が推奨する「醸造酢の酸度測定方法手順書」を参考に,中和滴定の試験手順を紹介する。

 概要
 試料を 0.5 mol/L 水酸化ナトリウム溶液で滴定し,pH 8.2 ± 0.3 となるまでに消費した水酸化ナトリウム溶液の量から酢酸を換算値とし酸度を算出する。

 試薬等
 水: JIS K 8008「生化学試薬通則」 に規定する A2 以上の品質(イオン交換法で精製した化学分析用)を有するもの。
 水酸化ナトリウム: JIS K 8576 「水酸化ナトリウム(試薬)」に規定するもの。
 
 滴定剤標定のための試薬
 アミド硫酸( (NH2)HSO3
 JIS K 8005 「容量分析用標準物質」に規定する。アミド硫酸(スルファミン酸)は,水酸化ナトリウム溶液の正確な濃度を求めるための標定に用いられる標準物質である。
      (NH2)HSO3 + NaOH → (NH2)NaSO3 + H2O
 ブロモチモールブルー
 JIS K 8842 「ブロモチモールブルー(試薬)」に規定するもの。
 エタノール (95)
 JIS K 8102 「エタノール (95) (試薬)」に規定する 1 級,又はこれと同等以上のもの。

 【参考】
 JIS K 8008「生化学試薬通則」,JIS K 0557「用水・排水の試験に用いる水」は,下表の品質を規定している。


表 1 種別及び質
  項目    A1    A2    A3    A4 
  電気伝導率 mS/m (25℃)    0.5以下    0.1以下    0.1以下    0.1以下 
  有機体炭素 (TOC) mgC/l    1以下    0.5以下    0.2以下    0.05以下 
  亜鉛 μg Zn/l    0.5以下    0.5以下    0.1以下    0.1以下 
  シリカ μg SiO2/l    -    50以下    5.0以下    2.5以下 
  塩化物イオン μg Cl/l    10以下    2以下    1以下    1以下 
  硫酸イオン μg SO42-/l    10以下    2以下    1以下    1以下 

 器具及び装置
 測定(滴定)に用いる全量ピペット,ビュレットは,JIS R 3505 「ガラス製体積計」クラス A 又はそれ以上の物を用いる。
 終点判定に用いる pH 計は,JIS Z 8802 「 pH測定方法」に規定するもの。電極は,JIS Z 8805 「 pH 測定用ガラス電極」で規定されているもの。

 滴定剤標定のための追加器具及び装置
 JIS R 3503 「化学分析用ガラス器具」に規定する減圧デシケーター。JIS R 3505 「ガラス製体積計」クラス A 又はそれ以上の全量フラスコ(呼び容量 250 mL ),全量ピペット(呼び容量 25 mL )。

 【参考】
 ピペット( pipette ):比較的少量の液体を必要な量を吸い取り計量する試験器具。
 ビュレット( burette ):容量滴定で滴下した液の容量を秤量する試験器具。
 全量フラスコ( volumetric flask ):メスフラスコともいい,溶液を一定量まで希釈するのに用いるガラス器具の一種。
 デシケーター( desiccator ):乾燥状態で保管するための容器。内部を減圧し乾燥できるものを減圧デシケーターという。
 JIS R 3505 「ガラス製体積計」では,体積の許容誤差の等級をクラス A及びクラス Bの 2等級としている。許容誤差の小さい等級はクラス Aである。

  ページの先頭へ

  試薬の調製

 二酸化炭素を含まない水
 フラスコで約 15分間煮沸し,溶解する炭酸を除去した後, 二酸化炭素を遮断して放冷する。pH 変化,不溶性塩生成など炭酸の影響排除を目的に,中和滴定に用いる水の前処理として一般的に行われる方法である。

 0.5 mol/L 水酸化ナトリウム溶液の調製
 試薬の純度は 97%程度と低く,固体や高濃度溶液は,大気中の二酸化炭素と容易に反応するので,この段階で,溶液の濃度を正確に調整するのは不可能に近い。
 このため,次の手順で概略 0.5mol/L の水酸化ナトリウム溶液を調整し,正確な濃度はアミド硫酸を用いた標定により求めるのが一般的な方法である。
 水酸化ナトリウム( 40g/mol )165g をポリエチレン容器(ガラス容器は避ける)に採り,冷却しながら二酸化炭素を含まない水 150mL を加えて溶かし(ほぼ飽和溶液),二酸化炭素を遮断し 4~5日放置する。上澄み液 20mL を採取し,二酸化炭素を含まない水を加えて約 1L とする。
 この溶液は,仮に純度 100%の試薬を用い,調整作業による損失が全くないとすると,濃度 0.55mol/L と計算される。従って,実際の濃度は,これより低い値になるので,次の手順で実際の濃度を確定(標定する。

 0.5mol/L水酸化ナトリウム溶液の標定(濃度の確定)
  アミド硫酸( 97.10g/mol )を軽く砕いた後,減圧デシケーターに入れ,内圧 2.0kPa 以下で約 48時間乾燥する。
  約 10g を 0.1mg の桁まで正確に秤とり,全量フラスコ( 250ml )に移し,二酸化炭素を含まない水を標線まで満たす。
  ブロモチモールブルー 0.1g をエタノール(95)20mL に溶かし,水を加え 100mL にする。( 0.1%ブロモチモールブルー溶液:標定用指示薬
  アミド硫酸溶液を全量ピペットで 25mL 採取し,指示薬(ブロモチモールブルー溶液)を数滴加え,ビュレット( 25ml )を用いて,調製した 0.5mol/L 水酸化ナトリウム溶液で滴定する。
 終点近くでは,1/2 ~ 1/3滴(約 0.02ml )を滴下し,標定液が薄青色 に変化した時点を終点とする。滴定量は,小数第 2位まで記録する。
  次の式により,力価( F )を計算する。
      力価 = W /( 0.04855 A ) × 25/250 × Q/100
     ここに,W: アミド硫酸の秤取量(g),
         0.04855: 0.5mol/L 水酸化ナトリウム溶液 1mL に相当するアミド硫酸の質量(g),
         A: 0.5 mol/L 水酸化ナトリウム溶液の滴定量( mL ),
         Q: アミド硫酸の純度(%)

 即ち,力価とは,約 0.01mol ( W/97.1×Q/100×25 /250 )のアミド硫酸と当量の水酸化ナトリウム溶液の容量( A )から求めた真の濃度との倍率を意味する。
 例えば,W = 9.7100g,Q = 100 ,滴定量 18.20ml の場合は,力価 1.099 と計算され,水酸化ナトリウムの真の濃度は,0.5×1.099 = 0.5495mol/L と計算できる。

  ページの先頭へ

  測定手順

 試験液の調製
 200mL ビーカーに二酸化炭素を含まない水100mLと撹拌子を入れる。
 試料(醸造酢)10mL を全量ピペットで正確に採取し,ビーカーに加える。
 :揮発による誤差を避けるため,ビーカーに水を加えてから,試料採取を行うこと。採取後,30分以内に滴定する行うこと。

 滴定の操作
 ビーカーをマグネチックスターラーにセットし,pH 計の電極を浸らせる。
 撹拌しながらビュレット( 25 ml )の 0.5mol/L 水酸化ナトリウム溶液で滴定する。
 終点は pH 8.2 とし,pH 8.2±0.3 の範囲である時間が 30秒以上続いたときとする。滴定量は,小数第 2位まで記録する。

 空試験
 二酸化炭素を含まない水 100mLのみを試験液と同様の手順で滴定を行う。
 1 滴( 0.05mL 以下)の滴下で pH 8.2 を越えた場合には,空試験滴定量は 0.00mL とする。

 計算
 次の式により,醸造酢の酸度(%)を算出する。なお算出する酸度は酢酸( 分子量: 60.05 )換算値とする。
      酸度%(酢酸)= 3.00×10-2×{ ( A - B )×F } /W×100
 ここに,3.00×10-2 : 0.5 mol /L 水酸化ナトリウム溶液 1mL ( 5×10-4mol )に相当する酢酸の重量 ( g )
     A : 本試験における 0.5 mol/L 水酸化ナトリウム溶液の滴定量 ( mL )
     B : 空試験における 0.5 mol/L 水酸化ナトリウム溶液の滴定量 ( mL )
     F : 0.5mol/L 水酸化ナトリウム溶液の力価
     W : 試料採取量 ( mL )

  ページの先頭へ